世界一位の男
竹内 ヨウタ
第1話 俺の名はサイトウ
俺の名前はサイトウ。世界一位の男だ。
何の世界一位かだって?そんな愚問を投げかけるお前はランキングに入る事もできないだろう。
しかし私は世界一位でありながら、下々の民にも優しく接する事を今年の抱負にしているので、幸運なお前にも触りだけでも教えてやろう。
俺が世界で一位になったのは今から10年前、小学一年生の時だった。
家でお菓子を食べながらアニメを見ていた時、俺の人生を変える一本の電話が鳴った。
お父様が電話に出たのだが、いつも寡黙で物怖じしないお父様が、電話中に込み上げる涙を必死に堪えていたのを俺は今でも忘れない。
受話器を置いたお父様は、すぐさま俺の元へ歩み寄りなり俺の手を握りこういった。
「よかったな、お前!一位だぞ!一位!」
あっけにとられながらポカンとしている俺にお父様は「まぁまだ自覚はないだろうが、これから自覚は出てくる!いいか!これからお前は世界一位として生きていくんだぞ!わかったな!」
寡黙なお父様がここまで熱くなるという事は世界一位がどれほどの重責か察しはついた。
その日から俺は世界一位にふさわしい振る舞いを怠ることなく現在に至るまで世界一位を保持し続けている。
もちろん世界一位を保持し続けるという事は並大抵の努力ではなかったが、世界一位に選ばれた俺には選択の余地もなく、日々世界一位であり続けることしかできなかった。
あぁ、すまない、少し話がそれたな。何の世界一位か知りたいんだったな。
率直に言うと、「何の」というものはない。スポーツ、勉強、軍事力等、順位を決められるものはいくらでもあるが、俺はそういった括りでは括りきれない「世界一位」なのだ。
これは毎年、とある組織が人知れず決めている事で、日本人の世界一位が出たのは実に50年ぶりの事だと後にお父様から聞いた。
古くは鎌倉幕府の時代からこのランキングは存在するという話も八位の奴から聞いたことがある。そんな由緒正しきランキングの世界一位に君臨できるという事がどれだけ名誉な事か、お前たちには雲の上の話すぎてうまく伝わらないだろう。
世界一位がどれほど過酷なものか、世界一位を維持する事がどれほど難しいか・・・。
そんな世界一位の俺が、いったい世界一位の生活はどういうものなのか、詳しく話していこうと思う。昨年三位の奴がやった手法ではあるが、二番煎じでも庶民とのつながりは重要だ。奴はしょせん三位、良い機会でもあるから三位と一位の違いを見せつけるのも狙いではある。
世界一位の男が一体どのように日常を過ごしているか、是非聞いてもらいたい。
間違っても真似をしようなんて思うんじゃないぞ、まぁお前たちにはすべてが無理難題すぎて真似するなんてことはできないと思うが・・・。
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