第699話 後処理も済みましたが何か?

『王都裏社会連合』VS『屍黒』という巨大勢力同士の抗争は、長期化することなく呆気なく終了することとなった。


短期決戦で終わった背景には、やはり、王家が背後に付いていたことがあげられる。


『屍黒』の重要拠点は各地方貴族の領地に散らばっていたが、王家が動いたことで『竜星組』をはじめとした『王都裏社会連合』が派手に動いてもそれを咎められることなく済んだことが大きい。


通常、自分の領地で抗争を起こした者について、その罪を裁くのは領主の権限だから、当然何かしら動くところである。


それに、『屍黒』は、いろんな仲介者を使用して、領主によってはずぶずぶの関係になっている状態のところもあったので、王家が間に入ることにより、それらの問題も解消されることになった。


地方貴族達も、『屍黒』との繫がりがある者との関係性上、王家からの圧力があったことをその関係者に警告することもできたわけだが、今回ばかりは、王家が『屍黒』を『広域危険団体』に指定されたことから、首を突っ込むと自分の足元にも火が付くと考え、誰もが『屍黒』を見放した構図である。


『広域危険団体』指定法には、関係者への処罰も含まれていたから、それは利口な判断だったと言えるだろう。


それに反して『屍黒』は、派手にやり過ぎた。


バンスカー時代の『屍』なら、組織を表に出さず、裏で内々に処理することに徹し、王家に目を付けられる愚を犯さなかっただろう。


この抗争は、そういう意味で『竜星組』が『王都裏社会連合』の結成に動き、『屍黒』を『広域危険団体』に指定させた段階で勝負が決まっていたのかもしれない。



ある日の夜。


王都のとある場所で、正式な『解散集会』が行われた。


今回の『屍黒』討伐の報酬分配はすでになされており、これ以上は連合を組む理由がなかったからである。


『竜星組』を代表してマルコ、『月下狼』からは、ボスであるスクラ、『黒炎の羊』から新たなボス・メリノの三名が解散を宣言すると、それで手続きは終了となった。


暗殺ギルドの代表は、すぐにその場から姿を消したし、闇商人組織なども形ばかりの挨拶をすると退散する。


拷問組織や人身売買組織などは、お互い裏で手を汚した者同士ということもあり、会場にお酒を持ち込んで解散を祝っていたのは意外であった。


そして、今回のことをきっかけに、中小組織の大半が『竜星組』『月下狼』『黒炎の羊』に吸収もしくは、傘下に入ることが決まっている。


この裏社会において、肩ひじ張って歩き、ぶつかれば命のやり取りになる世界において、相手の中身を知る機会というのは、ほとんどない。


どちらかというと、殺った殺られたで憎しみだけが深まり、歩み寄ることなどほぼ無いに等しいのがこの裏社会である。


だが、今回の件で時代が動いており、それに自分達が乗り遅れていることを痛感した組織は多い。


それだけに、一時的とはいえ、巨大な敵を相手に一致団結できたことをきっかけに、王都を担う大きな組織の傘下に入ることも悪いことではないかもしれないと理解したのだった。


このことで、『月下狼』と『黒炎の羊』は組織の拡大に繋がる。


特に、『月下狼』は、『竜星組』との親密さが光っていたので、中小の組織は『竜星組』に直接傘下に入れてもらえるようにとのお願いはしづらいが、そこと親しい『月下狼』になら頭を下げて頼み込めば可能性はありそうだと考えたところは多い。


『黒炎の羊』の方には、それとは違い、まだ、武闘派を自認する組織が傘下に入ったようである。


ちなみに、『竜星組』のところには、中規模の組織と個人の殺し屋数組が傘下に入った程度であった。



「無事、分配も終わったし、『屍黒』の完全解体も王家のお陰であっという間にできたね」


リューは、解散集会から戻ってきたマルコを労うと、そう安堵の感想を漏らした。


「それで、若。うちが密かに入手することになった『白山羊総合商会』の扱いはどうするんですか? 一応、頭のすげ替えだけでこれまで通り、動かしてはいますが……」


マルコが、アーサに出されたコーヒーを一口飲むと、今後について確認を取る。


「ミナトミュラー商会に組み込むわけにはいかないからね。とりあえず、名称を変えてリリス・ムーマ名義にしておいて。一応、商会長の妻だったんだし」


リューは悩むことなく、簡単にそう答えた。


「いいんですか? 『白山羊総合商会』は、各地方貴族領を股にかける大手商会ですよ? それも経歴が綺麗なので利用価値は大きいです」


マルコはその価値が、竜星組傘下のドラスタ商会とは比べ物にならないことを指摘した。


「だからだよ。下手に扱ってその綺麗な経歴に傷をつけるより、先日の火事で商会長ホワック(ブラック)と息子二人を失った未亡人のリリス・ムーマがその商会を継ぐ、という形が今は自然でしょ。まあ、リリス・ムーマは、うちの庇護下にあって、継ぐ気はさらさらないみたいだから、形式上は再婚相手に商会を任せるということになると思うけど」


リューは、現在、リリス・ムーマを部下という形でルチーナに任せている。


リリス・ムーマは夜の仕事が向いてそうだから、その筋の専門家であるルチーナに世話をお願いしたのだ。


一応、『白山羊総合商会』は、やはり、大商会と言うべきか、きっちり組織化がされており、上から何も言われなくても単独で動けるようになっているので、商会長名義のリリス・ムーマは、たまに顔を出すだけで機能するだろうという判断であった。


「再婚相手ですか? ……あれだけ大きな商会です。任せるとなると……、やはり、シーツ辺りでしょうか?」


マルコは、リューから付けてもらっている元執事で自分の補佐役として優秀なシーツの名を口にする。


「それはいいね。ただ、そうなると、マルコの仕事が増えるけど?」


リューは、シーツの優秀さはよく知っているので賛同したが、それだけにマルコの仕事をかなり助けていることも知っているから、問題がないか確認する。


「一時的に大変にはなりますが、他の部下も育っているので大丈夫ですよ。あっ、自分の下に付けて欲しい奴が一人いるのですが、その前に、本家に送り込んで更生……、鍛え直してもらえますかね?」


マルコは、そう言うと、報告書をスッと出す。


「これって……、クーロン!? ……まあ、『屍黒』の大幹部筆頭だったわけだから、腕もあり、頭も切れる人材としてはわかるのだけどね? まあ、おじいちゃんのところで更生させれば、問題ないか」


リューは納得すると、マルコの提案通り、クーロンに忘れられない恐怖を植え付けた張本人である祖父カミーザの下へ送り込まれることになるのであった。


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        あとがき


 ここまで読んで頂きありがとうございます。


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 詳しくは、近況ノートに記載しましたので、そちらから確認をお願いします!

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 ついでではありますが、作品のフォロー、★レビュー、いいねなど、ご祝儀感覚でして頂けたら、作者が激しく喜びますので、そちらもよろしくお願いします。笑

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