第666話 学園祭の季節ですが何か?

 王立学園はこの時期、文化祭を前にして学園全体が賑やかになっていた。


 リュー達のクラスはもちろんのこと、各クラスや部活動も文化祭の準備で大忙しだ。


 ちなみに、リュー達のクラスは昨年、執事メイド喫茶を行い行列ができる程の大盛況であった。


 やはり、リズ王女や美女であるリーンの二枚看板を利用したのは正解で人気は抜群だったから、今年も同じようなことをするのが無難だろうという意見がクラスの生徒から上がる。


「今年も執事メイド喫茶は芸がなさ過ぎるだろ。それなら、ベタだけど演劇とかいいんじゃないか? うちのクラスは美男美女が多いからさ」


 ランスが珍しくまともな意見を出す。


「演劇か……。演目はもちろんだが、その台本や衣装作り、照明はプロを呼んで任せれば無難にやれそうだな」


 イバルがランスの意見を後押しするように、指摘する。


 昨年もそうだったが、この学園の文化祭は学生の親の人脈関係次第で大掛かりなことも可能であった。


 裏方は大人に任せ、生徒達は表で客引きや接客、説明、進行だけを行う。


 大変なのはどれも本格的になりやすいので予算がかかるということだろうか?


 だがそれも、学校からクラスごとに結構な予算が出るし、何より、クラスの生徒の親が援助することがざらなので、さほど心配する必要はない。


 だが、演劇となると生徒一人一人の演技次第で全てが台無しになる可能性を秘めているから、これは結構な博打である。


「演劇かぁ……。あまり儲かる要素がない気がするけど……。──あ、そうだ! 入場料や特等席の設置、飲食も出せればそれなりにお金が取れるかもしれないね!」


 リューは昨年に続き、文化祭は一番儲けたクラスの勝ちという誤ったルールに基づいた意見を述べた。


「……リュー君。それ、去年も指摘されたけど、儲けることが前提じゃないからね?」


 大人しいシズがリューにツッコミを入れる。


「ですが、採算が取れる興行にするというのは、健全なことだと思います……」


 兎人族のラーシュが、リューを支持するように、商人見習いらしい意見を言う。


「いいんじゃないか? ただの演劇をするというのもつまらないし、リューやラーシュの意見も的外れじゃないと思う」


 シズの幼馴染であるナジン・マーモルンが、みんなの意見を尊重するようなことを言った。


「賛成!」


「演劇か。主役級とはいかなくても、台詞がある役をやりたいなぁ」


「飲食を出すということは、昨年同様、執事、メイド役もあるってこと?」


「接客は去年やって楽しかったから、私また、やりたいかも」


「私は演技がしてみたい!」


 クラスの生徒達からも好意的な意見が上がる。


「それでは、みなさん。このクラスの今年の出し物は、演劇にします、よろしいですか?」


 担任であるビョード・スルンジャー先生が意見がまとまったようなので、全員に確認する。


「「「はーい!」」」


 リュー達生徒からも反対意見は出ず、賛成ということで演劇に決定するのであった。



 そのあとは、演目が決められた。


「──投票の結果、演目は『ロミロウとジュリアンナ』に決定します」


 候補がいくつか上がった中から投票が行われ、王都の演劇界では人気で定番の演目に決定した。


 イバルから聞く限り、前世でいうところの『ロミオとジュリエット』のような悲劇のようだ。


「演劇は午前と午後の二回公演となります。そのことを踏まえて中身もしっかり検討してください」


 スルンジャー先生が大事なことなので、指摘する。


「二回公演、か。あっ……! 良いこと思いついたかも……! ──すみません、台本は僕が引き受けていいですか?」


 リューが何か思いついたのか挙手すると、一番大変な台本書きの担当を名乗り出た。


 もちろん、定番の演目だから、台本の入手は簡単だろうが、そのままやるのでは芸がない。


 リューはそれを踏まえたうえで挙手したのである。


「他にやりたい人はいますか? いなければミナトミュラー君に台本を任せたいと思います」


 スルンジャー先生は、全員に確認すると台本作成をリューに任せることで決定した。


 その後も、入場料や特等席の価格設定、飲食のメニュー、衣装作り、照明、店員役なども話し合って、あとは台本の作成次第で役柄を後日決めることになるのであった。



「てっきりリューは、飲食を担当するのかと思っていたわ」


 休憩時間、リーンはリューの行動が予想外だったのでそう答えた。


「ふふふっ、良い案を思いついたからね。それを試したいと思ったんだ。もちろん、僕は台本を書かないよ? うちのイッセンに僕の案を告げてそれに沿って書いてもらう形かな」


 リューはニヤリと笑みを浮かべると、リーンに答える。


 ちなみに、イッセンとは、リズの南部視察の折に、派閥の長である侯爵の仇としてリューの命を狙っていたうちの一人で、今ではリューお抱えの芸術家なのだが、普段は建物や服などのデザインを任せていた。


 だが、演劇にも造詣が深いので白羽の矢を立てた感じであった。


「リュー、大丈夫か? 王都で定番の演目だからこそ、みんな知っているから下手な台本だと大コケする可能性もあるぞ?」


 ランスがこの万能な友人を心配して声を掛ける。


「うん、お抱えの芸術家にあとは任せるよ」


 リューはランス達の心配をよそに笑顔で応じるのであった。



 そして、数日後。


 端役も台本が上がってきたので、改めてクラスで配役についての話し合いが行われた。


 台本を読んだクラスの生徒達は、その内容に驚くと共に絶賛の嵐になる。


 だが、それも当日までは秘密にするということで、情報漏洩を恐れて全員が契約魔法を行うという徹底振りだ。


 そして、その劇の配役は最初、誰も悲劇の主人公であるロミロウとジュリアンナ役に立候補しなかったので、生徒間の推薦が行われることになる。


 その結果、男性主人公であるロミロウ役には、当然と言えば当然だろうが現役の男爵であるリューが生徒達に推薦され、ジュリアンナ役にはリズ王女が推薦された。


 これには推薦された二人が戸惑ったが、反対意見が出なかったので、あっけなく決定する。


「僕が主役……、でも、台本の出来は良いから、自信を持ってやり遂げるよ!」


 リューはそう言うと、力強くやり遂げることを、約束するのであった。



「リューには、ロミロウ役から外れてもらいます!」


 決定からわずか二日後、今回の演劇監督になったナジンが、冷徹な判断を下していた。


 生徒達は、その判断に反対するどころか、リューから目を逸らして賛同の意を示す。


「ちょっと、リューに問題があるみたいじゃない!」


 リーンが一人だけ監督であるナジンに反論する。


「いやいや! リューの棒読み演技は酷すぎるから!」


 ガーン!


 リューは直球な意見に軽く傷つくのであったが、他の生徒達がランス達友人を含めて全員が激しく同意して頷くことで、初めて自分に演技の才能がないことに気づくのであった。

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