第638話 大会も無事終わりですが何か?

 リューとリーンの引き分け優勝で魔術大会は終わりを告げることになったのだが、二人の試合内容に、ランス達隅っこグループは閉口していた。


「リューと少しはいい勝負ができたと思っていたんだが、これを見せられると手加減されていたのがよくわかるな……」


 今回ベスト8入りしリューに敗退したナジンがガッカリした様子で愚痴を漏らした。


「それは俺も一緒さ。魔法は俺の最大の長所だから、少しは善戦したつもりでいたんだがな。それも勘違いだったよ」


 イバルもナジンの残念な気持ちがわかるから苦笑しながら理解を示す。


「……リーンも同じだよ。リズや私との対戦では、力を抑えていたみたい」


 前回大会優勝者のシズがリーン相手には歯が立たなかったことを素直に認めてそう告げる。


「ふふふっ。結局、あの二人は桁違いすぎるってことね」


 リズ王女は頼もしそうにリューとリーンをそう評価した。


「だな! 観戦側に回っていた俺が言うのもなんだけど、あの二人に勝とうと思ったら人生賭けないと難しいと思うぜ? はははっ!」


 ランスがリューとリーンに勝とうと思うのが無茶とばかりに、そう結論付けた。


「あの二人に勝とうと思わない方がいいですよ? それより他のことに力を注いだ方がいいです、じゃないと人生が狂ってしまいます」


 ラーシュが上司である二人が別格であることを、友人達に冷静に伝える。


「ぷっははっ、確かに! まあ、うちの上司だから俺とラーシュは勝つ必要もないな」


 イバルは同僚の言葉に噴出して笑うと賛同した。


 これにはみんなも笑ってしまうと、二人の優勝者を控室で出迎え二人の健闘を讃えることにするのであった。



 一年生の部は意外なことに、優勝者は勇者エクス・カリバールではなく、エミリー・オチメラルダ公爵令嬢であった。


 決勝戦では勇者エクスとの激闘の末、僅差で勝利するという見事なものであったのだが、残念なことに二年生のリューとリーンの試合が派手過ぎたので、主役の座を持っていかれた状態である。


 これには、勇者エクスも、


「二年生の先輩達の試合、レベルが違い過ぎてこっちの頑張りも霞んでしまうなぁ」


 とぼやいて苦笑した。


 そのエクスに勝ったエミリー・オチメラルダは、舞台で涙を流していた。


 それに気づいたエクスは、せっかく優勝したエミリーが、自分が目立てないことが悔しさかと思い、


「あんな試合されるとこっちは目立てないね。はははっ……」


 声をかけるのであったが、


「……ううん。そういうことじゃないの……。オチメラルダ家の者として伝統あるこの大会で優勝し、この学園の歴史に名を刻めたことが嬉しいの……。努力が実ったわ……」


 と嬉し涙であることをエクスのみに伝えた。


「エミリー嬢は家の為にずっと頑張っていたからこの優勝も当然なのかもしれない。おめでとう! あ、でも、次回は負けないよ? 私にも勇者スキル持ちとしての誇りがあるからね!」


 勇者エクスは、負けた悔しさよりもエミリー嬢の努力の優勝を祝福しつつ、次回のリベンジも誓う。


「あっ……、ごめんなさい。戦ったあなたの前で言うことではなかったわね。でも、ありがとう……。あなたは私の目標でもあるから、これからもよろしくね」


 エミリー嬢は改めて勇者エクスと握手を交わすとお互いの健闘を讃える。


 そこにルーク・サムスギン、レオーナ・ライハートもやってきて優勝したエミリー嬢の勝利を称賛した。


 そこにはギスギスしたものはなく、友人として好敵手としての正統な評価であった。



「新学期はどうなるかと思っていたけど、こうして大会にも無事出場できて、勇者エクス君達も以前と比べたらいい雰囲気で学園生活を送れているみたいで良かったね」


 リューはリーンと二人は破壊尽くされた舞台の修復を先生達と一緒にやりながら、一年生たちの様子を見てそうリーンにつぶやく。


「それもこれも全てはリューのお陰ね。でも、今大会の一番の功労者はこの強力な結界を張った魔法使いだと思うのだけど……、一体誰なのかしら?」


 リーンがリュー以外の者を最大評価をして首を傾げる。


「可能性としては、宮廷魔法士団によるものか、この会場の観戦者の誰かなのか? あとは生徒の中に僕達以上の魔法使いがいるかの三つの可能性だよね」


 リューはそのうちの宮廷魔法士団については、可能性は低いと思っていた。


 結界が張られた後、慌てているのを確認していたからだ。


 そうなると観戦者か生徒の誰か。


 リューはそうなると、新入生である謎の生徒イエラ・フォレスの名が脳裏にチラつくのであったが、自分達が知らない術者が観戦者の中に紛れ込んでいた可能性も当然あるので確信が持てないのであった。


「……ということは、観戦者の中にいる可能性が一番高いわね。どちらにせよ、世界は広く私達でも敵わない相手がまだ、いっぱいいるということじゃない? 私達もまた頑張らないといけないわよ!」


 リーンは前向きにそう捉えるとリューの背中を叩く。


「はははっ! それはもちろんだよ! ──……あっ」


 リーンの言葉に賛同するリューであったが、何かを思い出したのか思わず声が漏れた。


「どうしたの?」


 リーンがリューの表情の変化に気づいて声をかける。


「……なんですぐに気づかなかったんだろう……。リーン、フォレスって名前に心当たりない?」


「? フォレスと言ったら、イエラ・フォレスさんでしょ? うちのクラスの」


 リーンはリューが何を言いたいのか理解できず、首を傾げる。


「リーン、僕達の上をいく実力を持った相手が魔境の森にいたじゃない!」


「魔境の森? ああ、皇帝竜とかいうドラゴンでしょ? 名前を名乗っていた気もするけど、全然思い出せないわ……。なんだったっけ?」


 リーンはふざけているわけでもなく、本当に魔境の森で遭遇したドラゴンの名を思い出せないようだ。


「フォレスだよ。魔境の森で遭遇した皇帝竜は黄龍フォレスと名乗っていたんだ。リーンが思い出せないってことは、どうやら僕達、記憶を操作されていたのかもしれない……」


 リューはようやく記憶の中の名前を思い出し、大事なことに気づく。


「え? フォレス? そんな名前だった? やっぱり思い出せない……」


 リーンはリューの指摘にも頭が混乱するのか考えこむのであった。


「……無理に思い出さなくていいよ。もしかしたら、あちらも静かにしていたいのかもしれないし……」


 そんなリーンを見てリューは落ち着かさせつつ、ただの推測でしかないが点と点が結びつき線になるのを感じるのであった。

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