第620話 大会後の話ですが何か?

 剣術大会は、全体的には大盛況で終える事が出来た。


 一年生の部は、優勝候補の勇者エクス・カリバールがまさかの決勝戦での敗退もあり、大騒ぎであったが、それはそれでかなり盛り上がったと言える。


 二年生の部は、最有力候補だったリューが、圧勝という形で優勝を決めたから、こちらは無難といったところだろうが、それ以外の順位が混沌としていたから、密かに賭けをしていた観戦者達はこの順位を当てた者はまずいなかったようだ。


 なにしろ初戦でリューVSリーンが想定できないし、聖騎士スキル持ちのスードもリューとすぐに対戦したことも同じくだ。


 さらには留学生の一団がいきなりシード参加になるとも思わない。


 全てはトーナメント表が偏ったものであることに問題があったことであり、それをクジではなく運営側の裁量で決定したことに非難が集中した。


 と言っても学内の剣術大会は賭けがご法度であったから表立って新学園長を非難する者はいなかったのだが。


 それでも、お金がかかっていたので、荒れに荒れた二年生の部は語り草になるのであった。


「ぐぬぬ……。あれだけ、不公平感をなくした対戦表を作ったのに、優勝がミナトミュラー男爵になるとは……!」


 チューリッツ学園長は、この結果が、不満なのか校長室で愚痴を漏らしていた。


「ですが、一年生の部は、こちらの狙い通り、優勝候補のエクス・カリバールは決勝戦で敗退しましたから、他の生徒の可能性が見れて良かったのでは?」


 コブトール教頭が当初の思惑通りになった一年生の部の結果を評価した。


「……うむ。あれは狙い通りだったな……。二年生の部は、留学生組が期待より下の実力だったということだろう。来年はそれも踏まえてトーナメントを組み直せば、他の生徒にも可能性が生まれて公平な結果になるはずだな」


 チューリッツ学園長は、そう言うと、すぐに気を取り直す。


 だが、彼にとっての公正公平が周囲にとって同じものなのかというとそれは違う話である。


 第三者である学園長の操作で、個人の価値観を他者へ押し付けている時点でそれは最早、公正公平ではなくなっていることに早く気づかないと、近いうちに責任を問われそうな大会結果であった。



「トーナメント表に偏りがあったとはいえ、留学生組はかなり健闘したよね」


 リューは大会閉会後の教室で率直な感想を漏らした。


「私も他の生徒と対戦したかったわ。今回、リューだけなんだもの」


 リーンは不満そうだ。


「俺はラーシュが想像以上に強かったのが驚きだったけどな」


 ランスが、帰りの準備をしながら、三回戦で対戦した兎人族の友人の健闘を評価した。


「……ラーシュは非力だけど技術的にランス君を上回って、頭脳的な戦い方していたよ」


 シズがラーシュに代わって戦い方をそう評価する。


「ランスは全体的にレベルが高いけど、荒々しい力押しタイプだからな。ラーシュの戦い方とは相性が悪いのがよくわかる対戦だった。勝敗こそランスに勝ち星が付いたが、あの試合はラーシュの作戦勝ちだろう」


 イバルが最後の最後まで勝敗がわからない激闘にしたラーシュの戦術をそう評した。


「だよな。俺、あの試合でかなりの体力奪われたからなぁ……。あとの試合はいっぱいいっぱいで、シン・ガーシップとの対戦では、体力持たなかったぜ」


 ランスがラーシュの健闘を改めて高く評価すると、あとの試合についてはギリギリだったことを認めた。


「……すみません。あんな、躱す、捌く、受け流すばかりの戦い方をして……」


 ラーシュもその戦い方から勝機を探っていたのだが、結局はランスに力で押し切られたので、ひたすら粘っただけの結果になったことを詫びた。


「ラーシュさんの戦法はあれで正しかったと思いますよ。正面からランス君に挑むのは無謀ですから」


 リズ王女もそういうと、非力ながらランスと互角に渡り合い健闘したラーシュを褒める。


「あ、ありがとうございます……!」


 ラーシュは隅っこグループの一員としてみんなと仲良くさせてもらっているが、実はリズ王女とは一番話す機会がなかったので普通に嬉しそうであった。


「今回、一番奮闘したのはラーシュかもしれないな」


 ナジンもラーシュを高く評価する。


「ちょっと! 優勝したリューも褒めなさいよ!」


 リーンが従者としてリューを褒めない友人達を注意した。


「ここにいる全員、あの偏ったトーナメント表を見ても、リューの優勝を疑わなかったからな。当然のことだから、褒めるとかじゃないんだよ」


 ランスがリーンの言葉に応じた。


 これにはリューとリーン、スードを除いた全員が頷く。


「あはは……。信用してもらえていると思うことにするよ」


 リューはみんなの反応に、苦笑すると、そう答えるのであった。


「あ……。──そういえば、イエラ・フォレスさんはどうしたのかしら?」


 リズ王女が隅っこグループに新しく入った転校生の姿がないことに気づいて友人達に聞いた。


「あ、それなら、闘技場の観客席の隅で一人、試合を観戦していたみたいだよ」


 意外にもリューがそう口にした。


「あら、そうなの? 私、全然気づかなかったわ」


 目端が利くリーンがリューの言葉が意外だったので驚く。


「俺も忘れてた。彼女、制服を目立つような着崩し方している割に目立たないよな。存在自体を見逃すことがある……」


 イバルは自分でそう言いながら、疑問が浮かんだのか考え込むように感想を漏らした。


「……私、この大会中に仲良くなろうと思ってたのに忘れてた……」


 シズがリューやイバルの言葉で思い出して、当初の目標を忘れていたことにショックを受ける。


「……イエラ・フォレスさんか……。もしかして、認識阻害系能力の持ち主なのかな?」


 リューが思わぬ言葉を口にした。


 その言葉に、リーンがハッとする。


「リューに言われないと気づかないなんて……! そう言われれば、そうかも! 私が最初に気づかないといけないのに!」


 リーンが悔しそうに言う。


「リーンでも気づかないほどの認識阻害系能力の持ち主かもしれないのか……。もしかして、彼女、とんでもなく凄い人なのか?」


 周囲への警戒を怠らないイバルもリーンには敵わないと思っていたから、そのリーンさえ忘れてしまうイエラ・フォレスの凄さを感じずにはいられないのであった。


「どうなんだろうね? 僕はどこかで会ったことがある人だと思って気にはなっているんだけど、思い出せないんだよね……。どこで会ったかなぁ?」


 リューはずっとそう感じてイエラ・フォレスを気にかけていたのだが、思い出せない。


「リューが会ったことがあるなら、私も会っているはずなのだけど……。私達が会う前なのかしら?」


 リューが会った気がするという言葉を信じて、リーンも考え込む。


 だが、思い出せない。


「まあ、これから仲良くしていけば、思い出すかもね。──あ、もう、こんな時間か。リーン、スード君、そろそろ帰るよ」


 リューは、夕暮れが近づいていることに気づいて、そう言うと続ける。


「それじゃあ、みんな、また、明日!」


 リューはそう言うとリーン達を連れて先に教室をあとにするのであった。

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