第597話 最終確認ですが何か?

 披露宴も無事終わり、リューはその後の仕事をしっかり行う。


 その一つが、次男ジーロの婚約者ソフィア・レッドレーン嬢をノーエランド王国へ送り届ける事だ。


 二人は夏休みの間、一緒にシーパラダイン男爵領やランドマーク本領で過ごしていたが、長男のタウロの結婚式が一緒に居る最後のタイミングであった。


 それにノーエランド王国からは長男タウロの結婚に際し、祝辞を贈ってもらっているので、使者がそれを持参してランドマーク領まで来ているからその人物も一緒に送り届ける事にする。


「それでは使者の方、そしてソフィア嬢、よろしいですか?」


 リューが『次元回廊』の準備をして確認する。


「ええ、ミナトミュラー男爵、お願いします」


 と使者。


「はい。リュー君よろしくお願いします」


 ソフィア嬢は次男ジーロとまた離れ離れになるのが名残惜しそうで、リューとしても申し訳ない気分になるが、それも致し方ない。


 リューはまずは使者をノーエランド王国王都にあるミナトミュラー支店ビル前に一瞬で送り届ける。


 次に、次男ジーロとようやくお別れを告げたソフィア嬢を同じくビルの前に運ぶのであった。


「リュー君、ありがとうございます」


 ソフィア嬢は次男ジーロとお別れが寂しく少ししょんぼりしていたが、自分を奮い立たせようと無理に元気な姿でリューにお礼を言う。


「ランドマーク領に行きたい時は、このビルの前に朝お越しください。僕も仕入れの為、ほとんど毎朝、ここに顔を出しているので」


 リューは健気なソフィア嬢にいつでも会いに行ける事を知らせた。


 すると、その言葉にソフィア嬢の表情も明るくなる。


「ありがとう、リュー君。あなたが彼の弟さんで良かったわ」


 ソフィア嬢は笑顔でそう応じると、迎えに来た馬車に乗り、自宅へと帰っていくのであった。


 使者もその二人のやり取りを確認後、リューに丁寧にここまでの送迎を感謝すると王宮へ帰っていく。


 それを見送ったリューは、そのままランドマーク本領に帰る、わけでもない。


 傍にはリーンとスード、サン・ダーロ、そしてハンナとその頭の上にペットのサビ(ムササビデビル)がいる。


「いよいよ、夏休み明けにお店が開店するのよね」


 リーンは楽しみとばかりにウキウキした姿を見せた。


 ハンナもリーンの言葉に同調するように頷く。


 そう、ノーエランド王国で、『おにぎり屋』を開店するのである。


 すでに海苔の代用品であるとろろ昆布は契約を結んでいるプケル商会から出来の良いものを納品してもらっていたし、お米の仕入れ元であるヒカリコシ商会のスライとの間ではおにぎりの具についてもすでに何度か話し合いが行われ、今日のこの日、プケル会長とスライ会長を呼んで最終確認する事になっていた。


 リュー達はミナトミュラー支店ビルの一階の室内に入ると、すでに会長二人はやってきていた。


「「早いな、リュー殿」」


 二人の会長はリューに気づくと立ち上がり、声を揃えて出迎える。


「いや、お二人の方が断然早いじゃないですか!」


 リューは思わず、この二人にツッコミを入れた。


 なにしろまだ、約束の時間まで、まだ三十分ほどあるのだ。


 リューは一瞬自分が遅れたのかと思ったくらいである。


「はははっ! この日を楽しみにしていたからな。一時間前にお互い到着してしまったよ」


 とろろ昆布生産を成功させたプケル会長はファイ島から前日にリューの『次元回廊』でノーエランド王国入りしており、観光する心の余裕もなく、かといって宿屋でじっとできなかったようだ。


 それはスライ会長も一緒であった。


「いよいよ数日後には、ここでおにぎり屋が開店だからな。ギリギリまで拘りたいじゃないか!」


 スライ会長も積極的におにぎりの具選びに参加してくれていたから、その思いは熱い。


「リュー殿、早く試食会しましょうや」


 プケル会長はスライ会長と意気投合しているのか、リューに催促する。


「はははっ。それじゃあ、うちの者に用意させるのでお待ちください。──おーい、準備して!」


 リューが二人の熱意に多少押され気味に笑うと、従業員に準備をお願いする。


「「「はい!」」」


 数日後の開店準備も終わり、今は最終確認をしていた従業員達も、オーナーであるリューに言われて緊張が走り、準備に入る。


 出来立てのお米をおにぎりの型に入れ、その上に具を乗せる。


 そして、それを塩を握った綺麗な手でさっと軽く握ると、最後にとろろ昆布で包んで完成だ。


 具はこのノーエランド王国に相応しく海の幸を活かしたものが多い。


 駆け引き無しの塩おにぎりに塩の利いた鮭フレークのおにぎり、前世でも大人気、ツナマヨ(カツオの油漬けをマヨネーズで和えたもの)&エビマヨ。


 リューの注文に職人が魔法を駆使し、一致団結して作り上げたおかか。


 プケル会長と協力して製作した昆布の佃煮。


 リューが、ラーメン屋のメニューから持ち込んだから揚げに、やはり、男は肉だろう! とタレに付け込んで焼いた魔物のお肉も最高だ。


 そして、意外にノーエランド王国の住民には高評価である梅干し。


 最後に見た目のインパクトで海老天という全十種類が用意されていた。


 一同は従業員が準備したそれらを一口ずつ味わって最終確認をする。


「鮭は間違いないな……。だが、やはり、お米の美味しさがはっきりわかる塩おにぎりが一番だな!」


 とかなり贔屓目のスライ会長。


「いやいや、リュー殿の提案で作り上げた昆布の佃煮が絶品ですよ!」


 とこちらもかなり贔屓目のプケル会長。


「そうね……。海老天もインパクトがあって好きだけど、梅干しが結構いいかも」


 と何気に渋いチョイスのリーン。


「自分はやはり、から揚げとこのタレに付けて焼いた肉を刻んで入れたタレ肉おにぎりですね!」


 とわかりやすい体育会系のスード。


「ハンナはツナマヨ、エビマヨが好きだよ、リューお兄ちゃん!」


「きゅー!」


 とランドマーク家のマスコット妹ハンナは子供が大好きな王道でその頭の上に乗るサビも同意のようだ。


「どれもこのノーエランド王国で人気が出そうだけど、どうかな? これは駄目って言うのある?」


「「「無い(です)(わ)(よ)!」」」


 どうやら、開店用に用意した全十種類は問題なさそうだ。


 従業員の方にも視線を向けると、そちらも両手で丸を作って問題ないとばかりにアピールする。


「よし、それじゃあ、この全十種類の具を入れたおにぎりと、それにお味噌汁、オーク汁、漬物を加えて数日後の開店では勝負します。みんなよろしくね!」


 リューがその場の全員にそう宣言すると、


「「「おお!」」」


 と一致団結するのであった。

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