第594話 披露宴ですが何か?(1)
披露宴会場入りした新郎新婦のタウロとエリス夫人は、いつの間にか用意されていた生演奏を聴きながら、自分達の大きな氷像が四方に並んでいる事に驚いた。
控室に戻るまでそんなものはなかったからだ。
「リューの仕業かぁ……」
タウロは嬉しいサプライズに少し目頭が熱くなる。
それはエリス夫人も同じで、タウロを見つめ、嬉し涙を浮かべた。
そして、このサプライズを用意したリューは会場の隅で二人の入場に熱い拍手を送っている。
その姿を見て二人は微笑むと、列席者の間を通ってみんなにお礼を言いながら、主賓席まで行き、席に着く。
司会進行役の男性はそれを確認すると、ランドマーク、ベイブリッジ両家の新郎新婦の披露宴を開宴するという事を宣言する。
そして列席者から拍手が起こった。
二人はそこで改めて、周囲から祝福の言葉をもらい、タウロとエリス夫人は感謝の言葉を述べるのであった。
出席者の代表という事で、今回の披露宴の案を出したリューが乾杯の音頭を取る事になった。
「タウロお兄ちゃん、エリス夫人。ご結婚おめでとうございます。僕は王都の学校に通っているという事で、二人とはあまり話す機会もないのですが、仲睦まじい事はよくわかっています。僕が知っている二人の馴れ初めもお互いがお互いを気遣う姿からでした。エリス夫人の兄タウロを労わる姿に僕も二人がお似合いだなと思ったものです。さらに──」
リューは二人の事を語りだすと止まらなくなってきた。
傍にいたリーンがリューに声をかけて、
「リュー! 長いわよ!」
と話を縮めるように注意が入る。
前世ではあるあるの光景だが、まさか自分も同じ事をやる事になるとは思わず、苦笑した。
どうやら嬉しいと人は饒舌になるらしい。
「リーンから長いと指摘があったので、二人の馴れ初めはこれくらいにしておきますね」
リューが少し、とぼけ気味に言うと会場から笑いが起きた。
そして、続ける。
「それではみなさん、グラスをお持ちください。──二人のこれからの結婚生活を祝して……、──乾杯!」
リューが満面の笑顔でグラスを掲げると、列席者全員も二人を祝して乾杯の声を上げるのであった。
そして、次にこれもリューがサプライズとして準備したものがあった。
リューが会場の真ん中にある大きな机に歩み寄る。
すると、リューはマジック収納に納めてあったとっておきのものを取り出した。
それはウエディングケーキである。
それも特大サイズだ。
リューがマイスタの菓子職人を結集して作り上げたもので、全長二メートル近くある巨大なものである。
もちろん、ちゃんと食べられる絶品ケーキだ。
司会進行役は新郎新婦にケーキの前まで来るようにお願いすると、二人は何も聞かされていないのか、「?」という感じでリューの傍までやってきた。
「リュー、僕達は何をすればいいの?」
タウロがエリス夫人の代わりに聞く。
「二人でこの刃物を持って、合図があったらケーキに入刀して」
リューはそう言うと、入刀用のドスを渡す。
「「?」」
二人は一層何が何なのかわからないが、言われるがまま、二人でドスを手にする。
「それではみなさん、結婚した二人による最初の共同作業です。──ケーキ入刀! みなさんも拍手をお願い致します!」
司会進行役がそう言うと、当人達はその言葉で、
「「なるほど!」」
と笑みを浮かべてケーキ入刀する。
列席者も、
「なるほど、よく考えたな!」
「この演出いいわね!」
「私の時にも、これしたいかも……!」
と納得して二人に拍手を送るのであった。
タウロとエリス夫人は終始リューが考えてくれたサプライズ演出に、嬉しい驚きをもって楽しそうである。
二人はケーキを切り分けてお互いの両親に渡すところまで行う。
残りはスタッフが列席者に切り分けるのであった。
列席者はみんな、初めての演出に次は何が起きるのかと司会進行役の言葉に耳を傾けるのであったが、リューの演出は概ね高評価のようである。
それからは食事と歓談であった。
新郎新婦の下には、学生時代の同級生から、スゴエラ侯爵派閥の傘下貴族、当然ながらランドマーク伯爵派閥傘下の貴族とそうそうたる面子が改めて祝福する為に集まる。
この時間が一番長くとられ、今日の主役であるタウロとエリス夫人は笑顔でみんなと話に花を咲かせた。
それに、タウロはランドマーク伯爵派閥の長の嫡男である。
いつかは伯爵の地位を受け継ぎ、長としてみんなの上に立つ人間だから、この披露宴も結構政治が絡むものだ。
列席者の中には隣接する南部のエラソン伯爵派閥やダレナン伯爵派閥の代理貴族がおり、ランドマーク伯爵派閥の横の繫がりにも目を光らせていた事からも明らかである。
だが、その心配はいらないようであった。
長男タウロは父ファーザ同様人たらしな性格であり、派閥の傘下貴族からは非常に慕われているからだ。
タウロは傘下貴族の一人一人を雑に扱わず丁寧に対応するから、その人気は素晴らしいものがあるのであった。
「さすがタウロお兄ちゃん。僕なんかじゃマネできない才能だよ」
リューは家族席からその光景を見て感心する。
「そうだね、ランドマーク家は安泰だよ」
次男ジーロも嬉しそうに頷く。
そして、その傍でリーンと妹のハンナが食事も早々に終わらせ、デザートのケーキを頬張っていたので、その微笑ましさに二人は笑うのであった。
ちなみに、ジーロの婚約者であるソフィア・レッドレーン男爵令嬢もリューの『次元回廊』で訪れ、披露宴にも参加し、家族席で一緒に食事を楽しんでいる。
「ジーロお兄ちゃん達は数年後かな?」
リューが嬉しそうに聞く。
「そうだね。来年学校を卒業してから、二人で一緒に生活して様子を見てからになるだろうから数年後かもね」
ジーロはそう言うと隣のソフィア嬢の手を握る。
「……うん」
ソフィア嬢は嬉しそうに頷く。
「ランドマーク家の祝い事は当分続きそうだね」
リューは二人の仲睦まじさ振りに、満面の笑顔で応じるのであった。
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