第582話 不純な目標ですが何か?
リュー達隅っこグループが、学年で一番の班である事は、二年生なら誰もが認めるところだろう。
成績上位をこのグループが占めているから当然だ。
これにはもう一つの特別クラスであった旧エラインダー(現在はマキダールクラス)も悔しいだろうが認めるところである。
普通クラスにとっては、そんなグループのあるリズ王女クラスは憧れであったし、一年生の頃に成績上位に入れた普通クラスの生徒十名ほども(一人はスード・バトラー)リズ王女クラスに進級の際に編入していたのだが、その生徒達は他の生徒から羨望の眼差しを向けられるくらいだ。
そんな羨望の眼差しを向けられていた元普通クラスの生徒達は、サバイバル合宿においてかなり気合が入っていた。
「みんな。案の定、班分けは僕達元普通クラス出身者でひと班作られてしまったのだけど……、エリザベス王女殿下の班と接触してはいけないという決まりはない。どうにか王女殿下の班と仲良くなるぞ」
班のリーダーと思われる少年が、テント内で円陣を仲間と組み、目標を掲げる。
「ああ。一年の学期末のパーティーで王女殿下には挨拶できたけど、同じクラスに入ってからは全然だもんな」
「私はその時、ミナトミュラー君に挨拶したけど、話しかけやすかったわよ?」
「でも、このクラスになってから、誰かと話せたか?」
「「「……」」」
「成績上位者に声を掛けるのはハードル高いもんなぁ……」
「ほとんどみんな貴族の子息令嬢だし」
「そうそう。リーン様なんて、英雄リンデスの娘さんだし」
「それなら、スード君や他校から転入してきたラーシュさんはまだ、話せそうじゃない?」
みんな憧れが強すぎて引き気味になっているところに女子生徒が可能性を口にした。
「スード君は、一年時からミナトミュラー君のところで雇ってもらってから以降、他の普通クラスのみんなとの接触も減っていたから、別のクラスだった俺なんかは声かけづらいかな……」
「ラーシュさんは転入生だから、そもそも接点ないし、元々無口っぽいよ?」
「ともかく、接点を作るのが今回のサバイバル合宿の目標だから、なるべく王女殿下グループの近くで活動しよう」
「「「うん!」」」
こうして、元普通クラス班の十名はリュー達の班につかず離れずで活動する事になったのであった。
「うん? 後ろから別の班が来ているな」
イバルがリーンの代わりに周囲の索敵を担当していたからいち早く気づいて告げる。
「ああ。それはうちのクラスの別の班だよ」
リューも気づいていたのか、イバルに教えた。
「ああ、元普通クラスから上がってきた連中か。なんだ、俺達と同じ方向に来てしまったのか。──どうする? 俺達が彼らの前を進んでいると、夕飯の獲物は先に見つけてしまう事になるから、違う方向に移動するか?」
イバルは元普通クラス班に迷惑がかかると思ったのか、配慮しての提案だった。
「そうだな。地図ではこっちの先が獣が集まる水飲み場ポイントがあるみたいだけど、元普通クラス班に譲るか」
ナジンが地図を見ながら、イバルの提案に賛同する。
「じゃあ、俺が伝えるな!」
ランスはそう言うと後ろから距離を取ってこちらについてくる形の元普通クラス班に、
「このまま真っ直ぐ行くと獣が多そうなポイントあるみたいだから、そっち譲るよ! 俺達はあっち行くからさ!」
と大きな声で告げた。
「え? あ……、は、はい! ありがとうございます!」
あとを尾行していただけの元普通クラス班のリーダーは、ランスに思いもかけず話しかけられて動揺しつつお礼を言う。
そして、班でその場で、円陣を組む。
「……話しかけられたけど、これって、……あっちに迷惑かけたんじゃない?」
「王女殿下の班が狙ってたポイントを奪っちゃったよ……」
「……最悪じゃん!」
「と、とりあえず、改めてお礼を言って、そのポイントで狩りをしよう。何か狩れたら、お礼にお裾分けすれば話しかけるきっかけになるんじゃないか?」
「その手があったか!」
「「「よし、その手でいこう! ──ありがとうございました!」」」
元普通クラス班は円陣を解くと振り返って改めてお礼を言う。
しかし、そこにはすでにリュー達の姿はないのであった。
「話し合いしている間にいなくなってるじゃん!」
「……仕方ない。ともかく譲ってもらったポイントで獲物を狩って、お裾分けするんだ。それで、王女殿下の班と親しくなってこのサバイバル合宿の一週間をより豊かなものにするんだ!」
「「「おお!」」」
当初の目標がぶれない元普通クラス班は気合を入れ直すのであった。
それから数時間後。
「ぎゃー!」
「追いかけてくるぞ!」
「ともかく、護衛の兵士さんのいるところまで逃げるんだ!」
元普通クラス班は譲ってもらったポイントで罠を仕掛けて見張っていたのだが、思わぬ獲物がかかって喜んだのもつかの間、罠のかかりが甘かったのか、それを振り解いた獲物に追い掛け回されていた。
相手は大きめのビッグボア一頭である。
みんなそのビッグボアの突進に慌てて仕留めるどころではなく、魔境の森の中を絶叫しながら逃げ惑う。
そこで班の女子生徒が木の根っこに足を引っかけて倒れる。
「あっ!」
全員が、その拍子に逃げるのを止めた。
「みんな彼女を守れ!」
リーダーの少年が班の仲間に声を掛ける。
だが、そこまでが精いっぱいだった。
ビッグボアの巨体が、そんなみんなめがけて突進してくる。
全員が、もう駄目だとあきらめたその時であった。
ランドマークの領兵三名がその間に入り、土魔法で壁を作るとその突進を阻んだ。
さらにそこへリューがどこからともなく現れ、手にしていたドス、『
「ふう……。──あ、みんなの獲物を仕留めちゃってごめん。もちろん、君達の獲物だから、寄越せとは言わないよ」
リューはそう言うと、その場から立ち去ろうとする。
すでに助けに入ったランドマークの領兵三人はいなくなっており、その場にいたのはリューだけだったから、元普通クラス班のメンバーはお礼をリューに告げる。
「「「あ、ありがとうございます! 助かりました!」」」
「はははっ。同じクラスじゃない。困った時はお互い様だよ」
リューは笑顔で答える。
「あ、あの。これ、僕達では絶対仕留められなかったと思うので、そちらと半分ずつにしませんか?」
元普通クラス班のリーダーは勇気を出してそう申し出る。
内心では、勘違いするな! と言われないかとドキドキだ。
「え、いいの!? 実は僕達の班。獲物と遭遇できなくて、晩御飯どうしようかと話していたところだったんだよ。──ちょっと待って、みんなを呼ぶから!」
リューはそう言うと、空にめがけて、雷撃を放つ。
これはドス『異世雷光』の魔力の流れからリューが独自に覚えた魔法だ。
するとすぐに、リーン達隅っこグループのメンバーがやってきた。
リューがメンバー達に事情を説明すると、
「「「助かった!」」」
と全員が喜んだ事は言うまでもない。
こうして、元普通クラス班は、食料を確保できたばかりか、当初の不純な目標であったリズ王女班と仲良くなるという目的も少なからず果たし、この日の晩御飯は一緒に食事する事になったのであった。
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あとがき
前話の581話を早い時間に読まれた方へ。
一部設定に変更がありました。
581話で班のリーダー決定についてイバルに決まっていましたが、その後リズに変更したのを修正し忘れていました。
班のリーダーは、イバル→リズです。
失礼しました。<(*_ _)>
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