第546話 秘密兵器ですが何か?
リューとリーンを乗せた新造中型船『新星丸』は、魔法式噴射装置で後方に風魔法を発動する事で動力を得て加速し、王女リズの親善使節の船団からみるみるうちに離れて行った。
「思った以上の加速だ! さすがうちの研究開発部門。そしてマッドサインの頭脳は伊達じゃないね」
リューは自分の案を技術的に可能にする頭脳のマッドサイン。そして、それを形にするマイスタの職人達の技術から作られたこの魔法式噴射装置の性能に満足していた。
「……ですが、若。その源となる上級魔石の消費が激しいという欠点が……」
『新星丸』の船長が部下に次の魔石の補充を命令してから、リューにそう指摘した。
「……そこは今後の改善点だよね。はははっ……」
欠点については素直に認め、リューは苦笑いするしかない。
それくらい上級魔石があっという間にただの石になっていくのだ。
上級魔石一つ入手するのに上級冒険者達が命がけで強力な魔物を討伐しているのだから、その価値がどんな代物か容易に想像がつくだろう。
ただし、ミナトミュラー男爵家は、それを格安で入手する事が可能なルートを持っている。
それは寄り親であるランドマーク伯爵家だ。
魔境の森には魔物がいくらでもいるし、なにより、強力な魔物の宝庫である。
そこで祖父カミーザと領兵達、それにリューのところの若い衆が日がな一日、魔物討伐に励んでくれているから、実はあまり上級魔石の入手には困っていない。
だが、普通の感覚を持つ者なら、その上級魔石入手が大変な事が多少は想像がつくので、この魔法式噴射装置によって、魔力があっという間に消耗されてただの石になっていく光景には血の気が引く思いであった。
「贅沢な魔道具だけど、使い道を間違えなければ十分必要なものよ」
リーンはリューの発明を最大限に評価しているから、船長にそう告げる。
「それはもちろんです! ──あ、若! 索敵魔道具に反応があったようです!」
船長が部下からの知らせをリューに伝える。
「まだ、少し距離があるね。目標まで全速前進! 目標を肉眼で捉えたら減速して噴射装置は悟られないようにまた、隠しておいて」
「ヨーソロー! 全速前進!」
船長は頷くと、部下の船員に命令して復唱する。
すると『新星丸』はさらに加速していくのであった。
しばらくすると、索敵魔道具に反応する海域まで来た。
肉眼で確認できるのは大型船二隻と、元は船だったと思われる激しく炎を上げている大型船二隻分の火の塊のみ。
他はすでに沈んだ後なのかそれとも逃げた後なのかわからないが、ヤーボ王子が乗っていたと思われる大型船の船橋は跡形もなく、甲板部分は炎に包まれている。
視界に捉えた大型船二隻は、燃える船の残骸の周囲を回っていたが、こちらに気づいたのか、『新星丸』に船首を向けて向かってきた。
「遅かったか……。──リーン、肉眼で燃えているあれが誰の船か確認できる?」
リューが敵と思われる不審な大型船に視線を向けたまま、確認を求めた。
「さすがに火の塊になって激しく燃えているから、船名が読み取れないわ……。でも、あの形はヤーボ王子の乗っていた大型船に見えるかも……。索敵魔道具ではどれが王子の船かわからないの?」
リーンは目を細めて船首から船を見つめてそう応じると、船長に駄目元で聞く。
「索敵魔道具では、今のところ全く動いていません。ですが、視界で捉えている大型船二隻はこちらに向かっています。つまり、燃えているどちらかの船が王子殿下の船かと……」
船長は最後は言葉を濁すように答えた。
「……わかった。──こちらに向かってくる大型船二隻を警戒! 魔法大砲用意! この船には一門しか積んでいないから、射程範囲に入ったら、即座に撃てるようにしておいて!」
リューは最悪の状況になった事を理解すると、海戦の準備を指示した。
新造中型船『新星丸』と不明の大型船二隻がこちらにかなり接近してきた。
「若、射程範囲に入りました!」
船長がリューに魔法大砲の発射許可を暗にお願いする。
『新星丸』に積んでいる魔法大砲は、一門のみ。
船の船首甲板には十字のレールがあり、その上を魔法大砲の台座が動く仕組みなので、船首が敵に向いていようが、右舷左舷から迫られようが、その十字のレール上で魔法大砲の向きを変更する事が可能だ。
すでに魔法大砲は船首に向いており、大型船を射程に捉えている。
相手の大型船もこちらを逃げられない距離に捕らえたと考えたのかメインマストの一番上に髑髏の海賊旗を掲げて戦闘モードである事を示してきた。
「相手もやる気十分だね。それじゃあ、まだ、試していないあれを、使おうか。──特殊砲弾装填! 標的は前方の海賊船。──放て!」
リューが、船員達に指示を出すとすぐに船員達は用意してあった円形の砲弾を魔法大砲に装填して発射した。
ドーン!
轟音と共に、魔法大砲から、一見して実弾と思われる砲弾が発射され、前方の海賊船船首に吸い込まれて行く。
当然ながら貴重な大型船には防御魔導具の類が積まれている可能性は高く、品質の差はあるが、対魔法防御などは特に万全な船は多い。
通常の火魔法で燃やされる可能性が高いからだ。
実際、リュー原案マッドサイン開発、ミナトミュラー商会研究開発部門製作の魔法大砲は魔法を射出する物であり、防御魔導具に対しては効果は薄いように思われる。
しかし、それらの弱点を克服したものがこれであった。
それは表面を特殊魔法で処理された実弾であり、さらにその内部に特殊加工された魔石を込める事で、着弾と同時に爆発するように作られている。
つまり、表面の特殊魔法処理で防御魔導具による防御魔法発動を相殺して、敵船体に実弾を届ける仕組みだ。
しかし、それだと中をくり抜かれた鉄の塊が飛んでいくだけなので、威力はたかが知れている。
だから、その内部に魔法花火で培った技術を込めているのだ。
それは衝撃に弱い魔法花火の魔石の特性を利用する事で、着弾と同時に破裂してくれる仕組みである。
あとは内蔵してある上級魔石が爆発してくれるだけであった。
「敵船から何か物体が飛来してくるぞ!」
海賊旗を掲げた大型船の船首でリューの『新星丸』の様子を窺っていた船員が肉眼でそれを確認して警告を発した。
ひゅるるる……。
「飛び道具か? なーに、あの中型船に積める大きさでこの距離を飛んでくる物体など、たかが──」
船長と思われる男が、そう言いかけた時であった。
ズドーン!!!
船長の男が覚えていたのはそこまでだ。
強烈な破裂音と共に視界が一瞬で真っ赤になり、吹き飛んでいた。
そう永遠の眠りについたのである。
「着弾!」
船首から確認していた船員が報告する。
と報告を受けなくてもよくわかる威力であった。
なにしろ敵大型船、船首部分は完全に吹き飛んで消えてなくなり、甲板上の船員達は炎に薙ぎ払われてほぼ即死だろう。
そして、船自体は炎に包まれているのだ。
魔法だけを射出するものと違い、防御魔導具の張る結界内部で爆発する事から威力を逃がさないで大型船を十分に破壊するのものであった。
「一発で大型船を無力化……。想像以上の威力だね……」
リューも凄まじい威力に仕上がっている事を驚くと同時に、開発者であるマッドサインの自慢気な顔が脳裏に浮かんでくるのであった。
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