第545話 不審な船団ですが何か?
予定より少し時間はずれたが、王女リズ親善使節団一行は、ファイ島の島長に見送られながら、ノーエランド王国から派遣されている中型軍船一隻の先導でまた、船旅に戻る事になった。
ヤーボ王子の使節団とは、この中継地であるファイ島を最後に別れる事になったので、今は、先導の中型軍船一隻、その後ろに王女リズが乗る大型船とリューの用意した新造大型船一隻、最後にこれもまたリューの用意した新造中型船が続く形での旅である。
ヤーボ王子の一団も同じ隊形で、ノーエランド以外の海域諸国に向けて出発していた。
「島長が妙な事を言ってたけど、大丈夫かな……?」
リューが誰に言うでもなくつぶやく。
「妙な事って、見慣れぬ船団がヤーボ王子の船団を追いかけるように出港していったって話?」
耳の良いリーンがその会話を聞いていたのか、すぐに何の事か理解してリューに聞き返した。
「うん。一週間以上停泊していたのに、僕達が来てから、出港の準備を慌てて行い、ヤーボ王子一行が、短時間の補給で出港すると、追いかけるように出て行ったらしいから、島長も不審に思っていたみたい。大型船三隻の一団なんてそうそういないから目立つよね」
リューが疑問に思うのも当然で、大型船一隻用意するだけでも所有者が相当なお金持ちである事を示すには十分であり、それを三隻の一団など珍しいのだ。
そして、リューは続ける。
「それに、島長の話では、この中継の島に一週間も滞在する船は修理以外では珍しいって言ってたでしょ?」
「そうみたいね。じゃあ、ヤーボ王子を待って滞在していたって事よね?」
リーンは自分達とは関係なさそうな話になってきたので、興味を失いつつあった。
「飽きるの早いよ、リーン! でも、王子一行の船団を待ち伏せなんて、親しい国の船なら、この島に上陸した時点でその船団の代表が接触してきそうなものじゃない? それがない時点で敵対国、もしくはそれに準ずる賊の類かもしれない……。──もしかしたら、僕らの方を狙った可能性もあったんじゃないかな?」
リューは王女リズにも危害が及ぶ可能性があるかもしれない事に言及した。
「……そうね。リズにも教えておいた方が良さそう。──船長、『エリザベス号』に船を寄せて頂戴!」
リーンは新造大型船『竜神丸』の船長に命令した。
ちなみに『竜神丸』の船長は元海賊ヘンリーである。
「了解しました。船を寄せる合図を出しますね」
ヘンリーはリューに視線を送って確認すると、水夫に手旗信号を『エリザベス号』に送らせる。
あちらからすぐに、『了解』という返事が来たので、ヘンリーは舵を切って『エリザベス号』に船を寄せた。
それが実に見事であり、当たるかもしれないギリギリのところで、舵を戻して調整する辺りはさすが元海賊といったところだろうか?
味方を敵の船に乗り込ませる為に磨いた技術は一級品ということだろう。
リーンはそれを確認すると、風魔法で舞い上がり、隣の『エリザベス号』に着地する。
この芸当には、両船の船員達から「おお!」と感心する声が上がるのであった。
リューはそれとは関係なく、大きな跳躍を見せて、強引に乗り込む。
これにはまた、違う意味で「おお!」という驚きの声が上がった。
二人はヤーボ王子の一団を追いかける船団があった事を王女リズと使節団責任者のコモーリン侯爵に伝えた。
「……王女殿下、どういたしましょうか? ヤーボ王子殿下の船は王家仕様に、防御用魔道具なども持ち込んで万全の体制ですし、多数の近衛騎士達も同船しています。それに護衛の船も同じく同等の装備、もしくはそれに準ずる装備ですから、大型船三隻賊だとしても後れを取る事はそうはないとは思いますが……」
コモーリン侯爵が、ヤーボ王子側の護衛が相当な戦力で固められている事を指摘して答えた。
「へー。あっちの装備や護衛ってそんなに凄い人達だったんですか?」
リューは興味をそそられて聞いた。
「ええ。ヤーボお兄様は現在王位継承権第二位ですから、王家の重要人物という事で今回は近衛騎士団の精鋭中の精鋭である第一部隊の面々が護衛にあたっています。白兵戦で彼らの右に出る者はいないくらいの戦力ですので、大丈夫だと思うのですが……」
王女リズもコモーリン侯爵同様、その精鋭に信頼が厚いのかそう言って応じる。
しかし、王家の船とわかっていて後を追うような船にまともな者がいるとも思えない。
そういう意味では王女リズも一抹の不安があった。
「……うちの中型船に後を追わせましょうか?」
リューがその表情から察して、提案した。
「え? ですが、今から追いかけても追いつくのは難しいでしょう? それにこの海原の中でいくら大型船の一団でも見つけるのは至難の業かと……」
王女リズはこの頼もしい友人の申し出を受けて良いものか少し戸惑いながら、疑問を口にした。
「今回、念の為に王家の船にはうちが用意した魔道具を積ませてもらっているので、見つけるのはあまり難しくないと思います」
「魔道具?」
「ええ。特殊な魔力を一定範囲に発するもので、その魔力を傍受する為の魔道具もうちの新造船どちらにも積んであります。なので発見するのは容易かと思います」
「……そんなものが?──わかりました。でも、今から追いつけるのでしょうか?」
王女リズは一番の心配はそこだ。
向かった方向も違うから、ショートカットしてもかなりの距離が開いているはず。
追いかけるだけでも大変そうだ。
「そこもお任せを。うちの船はどちらとも、秘密兵器を積んでいますので!」
リューはニヤリと笑うと、追跡する事が決定とばかりに、新造中型船『新星丸』に手旗信号を送り、王家の大型船に横付けさせる。
「では、行ってきますね」
とリューは応じると、軽々と飛び移る。
リーンもマネして飛び移る。
リューは心配そうにこちらを見つめる王女リズに手を振ると、新造中型船『新星丸』船長に何か命令した。
すると船長の命令で船員達が慌ただしく動きはじめ、船員が船尾の水面を確認し始めた。
そこには、何やら筒のような大きな物体があり、船員達が「稼働はじめ!」と告げると、船尾の水面にぷくぷくと泡が出てきた。
そこに魔力が集中していくのが王女リズにもわかった。
「風魔法かしら……?」
王女リズが、見つめる中、新造中型船『新星丸』は帆を畳む。
そして、リューの合図と共に、軽い衝撃と共に船体が加速する。
「帆がないのに動き出した、だと!? それにこの加速はなんだ!?」
コモーリン侯爵が驚いてこの『新星丸』の不自然な動きに声を上げた。
王女リズも同じ気持であったが、こちらはまだ、冷静だ。
『新星丸』は見ている者が驚く中、ぐんぐんと加速していくと、航路を反れ、ヤーボ王子達の向かった方角へと急速に遠ざかっていくのであった。
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