第517話 裏方ですが何か?

 二年生生徒会主催の総合武術大会当日。


 リューが実行委員として出場を見合わせた事で、混合部門出場予定の生徒達は活気に溢れていた。


 特に二年生はリューの強さは昨年の剣術大会優勝、魔術大会での公開演技での桁外れのパフォーマンスを見せられていたから、リューと対戦しようものなら出場を辞退しようと密かに決めていた者もかなりの数いたくらいである。


 それはリーンが相手でも同じような気もするが、そこは生徒に人気の美人エルフである。


 彼女と対戦できるなら無様な敗戦でも悔いなし! という生徒は男女とも多数いた。


 そんな人気の差から、リューの不参加は二年生生徒にはチャンスと思われているのであった。


 さらには勇者エクスの不参加もまた、大きなチャンスをかなり臭わせている。


 一年生とはいえ、勇者スキルは伊達じゃない! という某天才パイロットが言いそうな評価が、世間の常識だったし、実際、勇者エクスの評判は二年生のリュー以上に有名で、実質、学園最強は勇者エクスで決まりだろうとリューをあまり知らない他の学年の生徒は考えていたくらいだ。


 その二人が不参加となれば、混合部門はリーンの一強だから他の生徒の上位進出の可能性は高くなる。


 それはつまり成績の評価に影響が大きくなるという事であったから、出場者達は奮起するのであった。


 大会はメイン会場である武闘場で開会式が開かれ、学園長の挨拶から始まり、次に大会実行委員の一人であり、生徒会副会長の王女リズが短いが運営代表として挨拶をする。


最後に、実行委員であるリューによる確認の為のルール説明が行われた。


 意外にこういった挨拶などはほとんどしない王女リズだから、その珍しさに三年生を中心に熱気を帯びた声援が送られる。


 ちなみに観覧席には、王家からは珍しく第一王子ジミーダが代表して側近一同と見学に訪れていた。


 他にも今回、大会に協力してくれている宮廷魔法士団の幹部から一般団員まで多数来場していたし、各騎士団関係者、冒険者ギルド本部関係者、王都警備隊関係者など王都中から興味を持って来訪している者が多い。


 もちろん一番は大会出場生徒の関係者(家族など)だが、観覧席の関係者席が本気の面子だったから、自分のところの子供が出て来るまでは、結構静かにしているのであった。


「ジミーダ第一王子、初めて見た……」


 リューが実行委員として、各第一試合を行う為、各会場への移動を指示して一息つくと、観覧席を振り返って隣にいた王女リズにつぶやいた。


「兄上は公の式典に出ている事が多くて、こういう場には忙しくて顔を出さないのです」


「へー。でも、今回見に来てくれたというのは、嬉しいね」


 リューは王女リズの説明に素直な感想を漏らす。


「こういう大会には今まで、次男のオウヘ兄上が王家代表で顔を出していたから……。多分、嫌々かもしれないわ」


 王女リズは苦笑して喜ぶリューに水を差した。


「それでも、顔を拝見できる機会があっただけでも、ラッキーだよ」


 リューは笑顔で複雑そうなリズに応じる。


「……そうね。私も久し振りに見たけど、お元気そうで良かったわ」


 王女リズも会う機会が少ないのかそう答えると、自らも出場する女子部門の初戦に出場する為に会場に向かうのであった。


「……さあ、みんながどんな戦いを見せるのか楽しみだ」


 リューはそう独り言つ。


「リュー、試合を見ている暇ないぞ? こっちは忙しいんだから!」


 同じく実行委員として大会出場を断念したナジンがシズと一緒に椅子を運びながらリューを注意する。


「あ、ごめん!」


 リューは慌てて二人の運んでいた椅子をマジック収納で回収すると、代わりに会場脇に移動してマジック収納から取り出して並べ直す。


「あ! もう決着がついた試合があるぞ!?」


 急に手が空いたナジンがメイン会場で行われている試合を指差した。


 その先には、四年生のギレール・アタマンがいた。


 四年生一番の成績優秀者で、実力ともに天才と言われている先輩だ。


 就職先はまだ、決まっていないが、順調に行けば幹部候補としてどこからも引く手あまたのはずだが、今大会かなりの意気込みを持って参加している。


 特にリューに土下座をして以来、大人しくしていたのだが、この総合武術大会で学園一の実力を示したいのだろう。


 それに、この大会には弱みを握られているリューが参加していないのだから、頑張りどころだと考えているようだ。


 対戦相手は、腕に覚えがある一年生だった。


 一年生は入学して日が浅い事もあって、ハンデとして、ダメージでの減点が他の学年よりも抑えめに設定してある。


 それだけで立ち回りも積極的に慣れるし、場合によっては相討ち覚悟で相手と同じ攻撃を繰り返していれば、減点ポイント差で勝つ事も可能だ。


 この一年生も相手が四年生という事で、その手を使おうとしたようだが、ギレール・アタマンは下級魔法を短縮詠唱で差をつけ、一年生の思惑を全て断念させる事で戦意を挫き、一方的な攻撃で勝利したようであった。


 さすが王国一を誇る学園で四年間、みっちり学んだ経験と才能の差を見せつけた形である。


「……リュー相手に醜態を晒したが、才能はやっぱり本物だな」


 ナジンがリューの横に来て言う。


「うん。──やっぱり僕も参加したかったなぁ!」


「はははっ! それは自分も同じだぞ。シズもやる気をみせていたのに、出れないんだ。発案者には大会進行に集中してもらわないとな」


 ナジンは笑って注意すると、舞台上の審判に次の試合の進行を指示する。


 なにしろ初戦だけで各会場合計百五十試合近くを滞りなく進行させないといけないのだ。


 予選は一試合五分制限となっているが、それでも学園内に準備した九か所二十三ステージの会場でスムーズに進行できたとしても結構な時間がかるからメイン会場を担当するリュー達はゆっくりしている場合ではない。


「そうだね。僕は最終日のエクス君との特別試合だけを楽しみに我慢するよ!」


 リューは楽しそうに笑みを浮かべると、ナジン同様、忙しく働くのであった。



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    あとがき 


10/10より「裏稼業転生」3巻の予約が開始されました!


詳しくは近況ノートで情報公開していますので、お楽しみに!


近況ノート↓

https://kakuyomu.jp/users/nisinohatenopero/news/16817330665038204272

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