第501話 お客さん達ですが何か?

 初めて次男ジーロをマイスタの街に案内したリューであったが、ジーロは発展目覚ましいこの街を見て感心しきりであった。


 マイスタの街内は人が多く賑やかだが、その雰囲気は穏やかでささくれた感じがなく、どちらかというと余裕さえ感じるという急激に発展している街の特徴とは対照的で不思議なものだった。


 シーパラダインの街はモンチャイ伯爵家の元領都という事で、一介の魔法士爵に統治される事が決まると、賑やかだがその雰囲気は殺伐としていてこんな穏やかな空気ではなかった。


 今はかなりマシにはなっているが、都会の街という少し、澄ました感じになっていたのでこのマイスタの街の雰囲気はジーロにとってとても好ましく思えた。


「さすがリューの治める街だね。雰囲気がリューそのものだよ」


 ジーロは自慢の弟の街がいかに素晴らしいものかを一言、そう例えた。


「え、僕? それは初めて言われたよ。あははっ!」


 リューは次男ジーロに独特の褒められ方をされて照れるようにして喜んだ。


「本当に良い雰囲気の街だね。僕もこんな街にしたいなぁ。でも、さすがに難しいかな」


 ジーロはシーパラダインの街を思い浮かべて、方向性の違いを考えるとそう漏らした。


「ジーロお兄ちゃんはジーロお兄ちゃんの街にすればいいんだよ。住む領民も文化も違うからジーロお兄ちゃんの手腕でその特色を生かした街にすれば、自ずと良いところになると思うよ」


 リューは領主の先輩として次男ジーロにアドバイスを送った。


 ジーロはおっとりとした優しい兄だが、実はとてもしっかりしているし、何より兄弟の中で一番剣技に優れている。


 それらは現在統治するシーパラダインの街にとても合っているとリューは思っていたから自信をもって答えた。


「ありがとう。リューがそう言ってくれるなら大丈夫だね。それに僕には執事のギンがいるし」


 ジーロはリューの言葉に自信をもらったのかそう応じる。


「それに数は力だよ、ジーロお兄ちゃん。シーパラダインの街の人口はその一つでランドマーク本領全体に並ぶくらいの数だからそれを生かすのは大事だと思う」


 リューはシーパラダインの街の可能性を指摘した。


「……そうだね。僕は最初、大きな街をもらって責任に圧し潰されそうだったけど、リューがお膳立てをして街で僕の名声を高めてくれたから、統治も容易に行えて、もの凄く助かった。そのリューが言うのならそうなんだと思う。僕の街もマイスタの街のように良いところにして見せるよ」


 ジーロはそう答えると、この街が良い刺激になったのか、至る所を積極的に興味を持って指差すと、リューに説明を求めて吸収しようとするのであった。



 マイスタの街内を馬車で一回りしたリュー達は、街長邸に向かった。


 そろそろお客さんが訪れる時間だったからだ。


 リュー達が馬車で街長邸に到着すると、丁度、その後に馬車が二台、やってきた。


「あ、丁度来たみたい」


 リューがその馬車に気づいてジーロに声を掛けた。


 その二台の馬車からそれぞれ獅子族のレオーナ・ライハート嬢と、エミリー・オチメラルダ嬢が降りてきた。


「二人共ようこそ僕の街へ。ゆっくりしていってね。──あ、エクス・カリバール君は来てもらえなかったかぁ」


 リューは残念そうな顔をする。


 そう、リューは一年生の三人を自分の街に案内したのだ。


 だが、勇者エクスにはフラれたようであった。


「……お招き頂きありがとうございます。──今日はこちらでお姉さまに剣の相手をしてもらえるのですか?」


 獅子族のレオーナ・ライハート嬢はそのオレンジの長い髪をなびかせて、自分が傾倒しているリーンに、相手してもらえると思って内心かなり喜んでいた。


「私もお招きいただきありがとう、ミナトミュラー男爵。私はレオーナ嬢の付き添いのつもりなので見学させてもらいます」


 エミリー・オチメラルダは綺麗な縦巻きロールの長い金髪が肩にかかっていたのでそれを払ってそう答えた。


「お二人共、こちらは僕の兄で魔法士爵であるジーロ・シーパラダインだよ。今日は丁度、こっちに来ていたからよろしく」


 リューは自慢の兄を控えめに紹介する。


「ミナトミュラー君のお兄さんも爵位持ちなのですか!? え、二歳差? 成人前に爵位持ちの子供を二人も出すとはランドマーク伯爵家は凄いのですね……」


 エミリー・オチメラルダ嬢は、リューの一家が思った以上に凄い家系であるのかもしれないと驚く。


「……リーンお姉様。そのシーパラダイン魔法士爵はやはり、魔法について優れているのですか?」


 レオーナ嬢は『剣豪』持ちの脳筋伯爵令嬢だから、尊敬するリーンの手前、礼儀として聞いた。


「ふふふ。ジーロはリューの兄なのよ。剣も強いに決まっているじゃない! リューと互角に戦える数少ない一人と言っていいわ!」


 リーンは普段からリューは自分より強いとレオーナに自慢していたから、この言葉にはレオーナも驚いてジーロに視線を向け直す。


「あはは……、リューと互角かはわからないけどね。以前はいい勝負だったけど、今はどうだろう?」


 ジーロは自慢の弟と互角の扱いをされて苦笑し、謙遜して答える。


 その姿が、レオーナにはあまり強そうには見えなかった。


 半信半疑のレオーナは、


「それではお手合わせをお願いします」


 と言うと、街長邸の玄関先で馬車の荷物から長剣を出して、戦う気満々である。


「えー……。リュー、これはいいのかな?」


 ジーロが急な展開に困惑してリューに確認を取る。


「レオーナ嬢に理解してもらうには、剣が一番みたいだから、お願いしても良い?」


 リューもこの展開に苦笑すると次男ジーロにお伺いを立てた。


「……うーん。じゃあ、軽くだよ?」


 ジーロは弟も困惑している事に気づくと相手してあげた方が良さそうだと思い、承諾した。


 そして、傍の木の枝を十センチほどぽきっと折って、構える。


「……なんの冗談ですか?」


 レオーナ嬢は、自分が長剣を手にしているのにジーロが枝なので、ピリッとした空気になった。


「僕は僧侶戦士のスキル持ちだからね。剣に槍、メイスに体術と色々使えるから大丈夫だよ」


 ジーロはいつものおっとりを発揮して、ぽわんとした返答をする。


 いや、お兄ちゃん。レオーナ嬢はその枝の事を言っているんだよ! きっと舐められたと思っているから!


 リューは内心ツッコミを入れるのであったが、ジーロについては兄弟一の才能の持ち主だと思っており、それでも十分なのだろうという事はわかる。


「主、これは大丈夫なのですか?」


 だが、スードもこの状況に困惑する。


「二人共、軽くだからね? ──それじゃあ、始め!」


 リューはレオーナ嬢の静かな闘志に釘を刺すように言うと、開始の合図を出すのであった。

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