第500話 設立手続きしますが何か?
二番目の兄であるジーロ・シーパラダイン魔法士爵は、弟であるリューの突拍子もない提案に驚かされていた。
「……軍事商会って不穏な響きだね?」
ジーロはリューの真意がわからず、改めて聞き返す。
「うん。シーパラダインの街の特色は現在のところ軍事関連でしょ。もちろん、ランドマーク本家の下請けとして色んな産業にも手を出していく方が将来の為には良いとは思うのだけど、当面は特色を最大限生かす事が必要だからね。だから軍事関係の商会として領兵の装備一新を考えている貴族に装備の提供や人材の派遣が出来れば良いんじゃないかなって」
リューの提案はジーロの領地の事情を鑑みると理に適っている。
シーパラダインの街は実際、前領主モンチャイ伯爵統治時代、戦好きで方々に争いが起きれば積極的に軍を派遣する街であった。
ランドマーク家との領境での争いでも厄介な相手だったから、それなりに腕が立つ者も多い。
今はジーロに領主が代わった為、領兵はもっぱら領都の治安維持に力を注がせており、シーパラダインの街は、近隣でも一番の治安の良さを誇っている。
「……人材派遣、それって傭兵団を所持するって事だよね?」
「傭兵としてだけでなく、戦闘のノウハウを伝授する教官の派遣や装備を一新する提案なんかもしてそれをセットで売り込む事が出来るから、一つ一つの契約が大きな額になって収益は大きいと思うよ」
「でも、それって物騒過ぎない?」
ジーロは少し抵抗があるようだ。
「例えば今回、僕がジーロお兄ちゃんに派遣をお願いしたじゃない? 元はサウシー伯爵からの救援要請だけど、こちらも慈善事業じゃないから当然報酬は貰うよね。それを商売にしようって話。武力は使い方次第で人助けにも凶器にもなるって事だよ。僕はそれを使用するのがジーロお兄ちゃんなら安心だし、今後もこんな事が起きればお願いするよ」
「……リューの言う通り、使用者次第か……。──領地経営が大変だって事はシーパラダインの街を与えられて痛感しているし、綺麗ごとでは済まされない事も理解している。……わかった。シーパラダイン軍事商会を設立しよう!」
ジーロは頷くと決意を固めた。
「それじゃあ、早速、申請手続きをしておくね! ──レンド、協力してくれる?」
「俺ですかい!? ……そうですね、わかりました。特殊な商会ですから王都の商業ギルド本部で申請した方が地方の商業ギルドよりは対応が早いでしょう。早速、申請書を作ります!」
レンドは面白そうだと思ったのかほとんど渋ることなく、自分の椅子につくと書類を作り出した。
「なんだか急な事なのに、みんな慣れてるね?」
ジーロはリューやレンドの手際の良さに呆れる。
「はははっ! こっちでは新商品開発したものをよく登録申請しているからね。事務処理の手際はどこよりも優れているよ!」
リューは笑ってジーロの疑問に答えるのであった。
「それじゃあ、エリザの街には数日後行けば、シーパラダインの街から派遣された一団と合流できるはずだから……、それまでどうしようかな?」
ジーロは王都に来たものの、王都見物を暢気にするわけにもいかず、考え込んだ。
「それじゃあ、明日は休みだし約束通りマイスタの街を案内するよ!」
リューはまだ次男ジーロには自分の街を案内していなかったから、そう提案した。
「それはいいわね! それに明日は他のお客さんも来るし、ジーロにも会わせましょ!」
リーンも賛成とばかりに喜ぶ。
「え? お客さんが来るのなら、遠慮するよ?」
ジーロはリーンの言葉に断ろうとする。
「大丈夫だよ、ジーロお兄ちゃん。学園の後輩なんだけど剣一筋の子だからあっちもジーロお兄ちゃんの存在は喜ぶと思う」
リューも問題無いとばかりに頷いて応じた。
「そう? ならいいけど……。──それじゃあ、よろしく頼むよ」
ジーロはリューの言葉に甘えると笑顔でお願いするのであった。
翌日の朝。
スードがリューから貰った自転車を飛ばしてランドマークビルを訪れていた。
休みでいいと言ったのだが、久し振りにジーロと剣を交える事が出来ると思って休みを返上でやって来たのだ。
それに、一年生の後輩が訪問する事も楽しみの一つにしていた。
リューとリーンは苦笑するとジーロを伴って馬車に乗り込む。
『次元回廊』は現在、ランドマークビル、ランドマーク本家、南部エリザの街、東部に出入り口を設けている為、マイスタの街への出入り口は閉じてしまったのだ。
近々東部は閉じる予定だが、それまでは馬車でマイスタの街まで通勤する予定である。
こうして馬車に揺られて一時間足らずで、マイスタの街に到着した。
現在のマイスタの街は従来の城壁とは別に街を拡大する為、さらにその外周に城壁を築く計画がなされている。
一大事業になるが、この一年でミナトミュラー商会をはじめとしたリューの資産は跳ね上がっており、新たな城壁についても、商会の建築部門があるから通常の予算よりも遥かに安く造れる事から決断したのだ。
王家にも申請をしてOKは出ているから問題がないのはもちろんの事、軍とも信号弾などの契約で良い関係を築きつつあるので横槍が入る事はなさそうである。
丁度、ランスキーが城門の手前付近でその城壁建築の下見をしていた。
「ランスキーご苦労様!」
リューが馬車から身を乗り出して手を振る。
「若、お疲れ様です。そちらは? あ! もしや、ジーロの伯父貴ですか?」
ランスキーは初見のジーロに対し、リューの親であるファーザと同じ赤い髪に茶色い瞳、そしてリューと同じ面影を感じてズバリ当てて見せた。
「はははっ、正解! ──ジーロお兄ちゃん、僕のマイスタにおける一番の部下、ランスキーだよ。ランドマーク本家にはよくいろんな理由で赴いているんだけど、ジーロお兄ちゃんとは初めてだよね」
「初めまして。ジーロ・シーパラダインです。弟のリューがいつもお世話になっています」
ジーロは弟の部下であろうとも丁寧に挨拶をする。
「こちらこそ、若には俺達の親分としていつもお世話になっております」
ランスキーは部下達と共に、頭を下げる。
「それじゃあ、ランスキー、建築部門のみんなもあとはよろしくね」
「「「へい!」」」
元気よく答える部下達をあとにリュー達を乗せた馬車はマイスタの街に入っていくのであった。
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