第493話 最終日ですが何か?
ショウギ大会三日目、つまり大会最終日。
この日は午前中に準々決勝、午後から準決勝、決勝が行われる。
準々決勝は四試合、当然ながら同時に行われ、持ち時間は各自一時間だ。
ノストラは二度目の経験から持ち時間をしっかり考慮して謎の仮面集団の一人サンゴー相手に終始リードする展開で指していた。
「さすがフナリ氏。今回ダークホースが多く、相手の指し筋が未知だが、時間を使って慎重に見極め、有利な展開を譲らないな」
「対戦相手のサンゴー氏も相当な腕前なんだがな……。相手が悪かったな」
「いや、最後までわからないぞ?」
と一番の注目選手であるフナリ(ノストラ)の対局に当然ながら観戦者は一番集まっていた。
そして二番人気に躍り出ていたのが、初戦で優勝候補のギョーク侯爵をはじめ、強豪貴族を立て続けに破った兎人族の女学生ラーシュであったのだが、これは少し不運と言ってよかったかもしれない。
それは、フナリ(ノストラ)とラーシュは順当に行けば、準決勝で対戦するからだ。
観戦者達の間では、事実上の決勝戦と指摘する声もある程で、ラーシュが今大会でかなり高い評価を受けている事がわかる。
そして、不気味なのが、謎の仮面集団イチゴー、ニゴー、サンゴーであった。
イチゴーは三回戦で前回準優勝者であり、優勝候補の一角ケイマン男爵を破るという金星を上げており、そのイチゴーを筆頭に同じ仮面集団としてニゴー、サンゴーもここまで勝ち上がって来ていたから、観戦者達はこのショウギ大会を荒らす為にどこからか派遣されたショウギのプロ集団ではないか? とよくわからない陰謀説を唱える者も現れる程、ショウギファンたちの間でもその評価が割れている。
実際、ここまで三人も残っているのだから、不気味さはあった。
だが、その一角をついに優勝最有力であるフナリ(ノストラ)がサンゴーを終始有利に進めながら圧勝して見せた。
サンゴーが「参りました」と降参すると、観戦者達からは安堵と共に歓声が上がる。
陰謀説を信じる一部のファン達がショウギ大会の名誉を守ったと喜んだのだ。
「異様な盛り上がり方してない?」
リューがノストラの勝利に喜ぶ観戦者達を指差してリーンに聞く。
「さあ? きっとノストラのファンじゃないの? 一部ではフナリ(ノストラ)をショウギ名人と呼んで崇拝する人もいるらしいから」
リーンがその耳の良さで観戦者達の声を聞いてもたらされた情報であったが、それにはリューも少し驚く。
「へー、そうなんだ! それじゃあ、次回からノストラが優勝した大会は名人戦大会と名付けるといいかもね。──どう、レンド?」
「いい案ですね! 今大会も優勝者にちなんだ名前にする事で箔が付くでしょうし、良いかもしれません」
レンドもリューの提案に賛同する。
「でも、また、ノストラ(フナリ)が優勝したら同じ名前にならない?」
とリーンが鋭い指摘をした。
「その場合は、王城の傍だから王城戦大会とでも名付ければいいのさ」
リューは思い付きでそんな提案をする。
「それもいいですね! 年に数回大会をして、その大会優勝者はその冠を基に頂上対決をするというのも面白いかもしれません!」
レンドは商人として、総責任者として盛り上がりそうなネタに食いつく。
前世の将棋と同じ流れがこちらでも起きそうだなぁ。
リューはレンドの考えに感心しながら、ショウギ好きの考える事は同じなのかもしれないと思うのであった。
観戦者をはじめ、ショウギファンのほとんどが予想した結果が準々決勝では出る形となった。
優勝最有力候補である商人の『ショウギ名人』フナリ(ノストラ)。
兎人族の女学生、優勝候補を初戦から破った『ダークホース』ラーシュ。
予選からその仮面姿が観戦者から不気味に思われていた仮面の指し手『二番手』のニゴー。
予選で前回準優勝者であったケイマン男爵を逆転で打ち破った、こちらも謎の仮面指し『謎の優勝候補』、イチゴーの計四人が準決勝進出者となった。
異名は大会を盛り上げる為、レンドが捻り出して司会者が拡声魔法によって中央会場にそれを紹介していくと、観戦者達も異様な盛り上がりを見せる。
どうやらレンドの思い付きで名付けた異名が、受け入れられたようだ。
「俺はやはり優勝は『ショウギ名人』だな!」
「いや、次の対局で『ダークホース』との試合だぞ?その後、連戦で決勝戦となると負担が大きいから、意外に『謎の優勝候補』が有力かもしれない」
「……確かに。『二番手』も『謎の優勝候補』も同じ仮面集団の仲間同士、潰し合いを避け、準決勝はどちらかが勝ちを譲って楽に上がってくるかもしれない……」
と異名で論評され始めるのであった。
そんな中、準決勝が行われた。
これは想像通りというか、想像以上というか、ショウギファン達にしたら、この棋譜(対局結果を記したもの)は前回大会に続き垂涎の名勝負となった。
前回優勝者のフナリ(ノストラ)がどっしりと貫禄の受けでラーシュを迎え撃つ対局は攻め続けるラーシュをフナリが悉く受け流し、気づくとラーシュの玉は詰んでいるという攻防一体の見事な勝負であった。
「参りました!」
ラーシュは尊敬するノストラに完敗だったので踏ん切りがついたのか、すぐに負けを認めた。
そして、その横で行われていたもう一試合。
これは誰もが予想していた展開、ケイマン男爵を破った謎の仮面集団のボスと思われるイチゴーの圧倒的勝利、と思われていたのだが、これが全ての観戦者の想像を遥かに超える展開だった。
イチゴーとニゴーの対局は両者とも持ち時間を使い果たし、十秒ルールでの壮絶な指し合いになったのだ。
観戦者は息を飲み、自分の試合が終わったフナリ(ノストラ)も、試合展開に真剣な表情で睨むように見つめる中、イチゴーの「参った……」という本当に悔しいのか絞り出すような声で負けを認めて対局が終了した。
「おお!」
その瞬間、観戦者達からもその見応えある対局に手放しの賛辞が起きる。
「これは凄い対局だった!」
「何て大会だ! 名対局ばかりで痺れちまう!」
「これは決勝が楽しみだ!」
こうして、激戦に次ぐ激戦の中、ついに決勝戦が行われる。
「……これは、凄い事になったわね。ラーシュが負けたのは残念だけど、どれも良い対局だったからノストラが優勝しても誰もが納得するのではないかしら?」
リーンがそう今大会を評価した。
「いや、リーン。意外にノストラとニゴーの差はほとんどないと思うよ? というかイチゴーに本気で対局して打ち勝つニゴーって絶対宰相閣下だよね……!?」
リューは傍に居たレンドに向かってその正体を言い当てて見せるのであった。
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