第458話 本格収集ですが何か?
ランス達同級生のおもてなしをしたリューは、新店舗オープンの為の準備もあり、昼過ぎには解散となった。
リューとリーン、警護役のスードはランドマークビルの自宅に戻ると、最近の日課である東部地方に向かう事にした。
「主、今回は自分も同行してよいのですか?」
最近、リューとリーンは帰宅が深夜だったので、その時間に王都郊外の自宅へ帰らせるのはかわいそうだとスードの同行はこれまで許可していなかったのだ。
「今日は早めに帰る予定だから、スード君も同行して問題無いかな。──それじゃあ、行こうか」
リューは早速、馬車を魔法収納に納めると、リーンとスードを先に移動させる。
その後に、御者、そして馬の順で移動させた。
「ここはどの辺りなんですか?」
スードが御者と一緒に馬に馬車を装着しながら聞く。
「ここは確かサクソン侯爵派閥のネイカ子爵領を通過したところかな。裏社会だと『黒虎一家』の縄張りかな」
「『黒虎一家』というのは確か……、東部地方南東域に勢力を持ち、同じく西域に勢力を持つ『蒼亀組』や東部最大勢力の『赤竜会』の三勢力で拮抗しつつ抗争を続けている組織……、でしたっけ?」
「お? スード君よく知っているね! あれ? 僕は話した覚えがないんだけど?」
リューは東部地方の情報は乏しい事から、まだ、誰にも話さずにいたのだ。
知っていると言うとランスキー達幹部くらいのものだが。
「主達がマイスタを留守の間、ランスキーさんから教えてもらって予習しておきました」
スードはリューに褒められてまんざらでもない表情だ。
「そうだったのか。今この三勢力で飛び抜けているのが、『赤竜会』でね。危機感を持った『蒼亀組』と『黒虎一家』が手を組んで対抗している状況みたいなんだけど……。『黒虎一家』の動きが不穏な感じなんだよなぁ」
リューはそう答えながら、準備が出来た馬車に乗り込む。
リーンとスードも続くと馬車は走り出した。
「不穏とは?」
スードは現在の状況を把握しようとリューに聞き返す。
「今、あまり戦力にならない下っ端のチンピラにまで声を掛けて、こんな端っこの主街道から外れた道で検問めいた事をしているからね。情報統制して何か大事な情報を漏れないように警戒しているような行動がちょっと引っ掛かるんだ」
それは、先日の道を塞いでいたチンピラ達を懲らしめた事から、気になって情報を集めながらゆっくり進むようにした事から気づいたものだった。
「本当そうよね。今は『赤竜会』に対抗して北に兵隊を投入する時のはずなのに、こんな南を警戒させるなんて、何を恐れているのかしら」
リーンもリューと同じく同意見であったから、首を傾げる。
ただでさえ、噂では最近の『赤竜会』は怪しい動きが多く、隣国からのお金が大分入って来ていると言われているだけに、『蒼亀組』と連携を強めていかないと生き残れない状況のはずだ。
「この領地はネイカ子爵領になるんですよね? 表の問題はないのですか?」
スードが疑問を口にした。
「ネイカ子爵が所属するサクソン侯爵派閥自体はスゴエラ侯爵派閥との関係性は良好なんだ。だから、本当はスゴエラ侯爵領に続く道に検問を置くような愚かな真似はしないはずなんだけど……」
「でも、おかしいわね。裏社会の人間が領内の道を勝手に検問していたら領兵が駆け付けそうなものじゃない?」
リーンはふとスードの疑問から、不可解な問題に気づいた。
「……でもそれは、表でのシバイン侯爵派閥とサクソン侯爵派閥との争いと連動していると考えると……。いや、それでもおかしいか……。という事は、このネイカ子爵が単体で『黒虎一家』と何かしら通じている事になるね」
リューも車内で揺られながら、考えを整理する。
「情報が少ないのになんだか複雑すぎるわね」
リーンが当然の指摘をした。
「そうなんだよね。情報がまだ少なすぎるんだよ、僕達」
リューがリーンの指摘に苦笑して結論を口にする。
そこに御者から、
「ネイカ子爵領を通過しました」
という報告が前の御者台から聞こえてきた。
「北側に検問はないのか。増々、意味が分からないなぁ」
リューは頭を抱えるように悩む。
「リュー。ここからは時間が掛かるけど情報収集を中心に進めない?」
リーンは考え込むリューの背中に手をやって気分転換も踏まえて勧めた。
「そうだね、もう、東部地方に入ったし、当初の目的は東部全体の情報収集だったから、ちょっと南だけどここから収集を強化するか」
リューもリーンの提案に理解を示すと御者に近くの街に寄るように命令するのであった。
夕方に到着した街はサクソン侯爵派閥に属するタージ伯爵領の小さな街であった。
「治安も良さそうな街ですね」
街に入った一行は、まず、スードが周囲を確認しながら馬車を降りてそう感想を漏らした。
そこにリューとリーンも続いて降りる。
「今日は、その辺のチンピラさんに一度、絡まれてから帰ろうか」
と奇妙な提案をリューがした。
「絡まれて、ですか?」
スードはリューの意図が分からず、頭の中は疑問符だらけであったが、主の考えである、素直に従うべく裏通りを探して脇道に入っていく。
御者には馬車を見てもらい、リューとリーンもスードの先導で進んで行くと、早い段階でリュー達はチンピラに囲まれた。
「ガキが、こんなところに来るもんじゃないぜ? へっへっへっ! 金目の物とそのエルフの美女を置いていきな」
チンピラのリーダー格がナイフをチラッと見せつけながら、言い慣れた台詞を口にした。
「どこの安全そうな街も裏通りの治安の悪さは、変わらないなぁ」
リューは悪い笑みを浮かべるとリーン、スードの三人であっという間に、チンピラを返り討ちにするのであった。
「す、すみません!ただの出来心なんです、勘弁してください!」
チンピラ達は土下座すると、リュー達に詫びを入れる。
「じゃあ、許す代わりに聞きたい事があるんだけど?」
こうしてリュー達は東部地方の裏の情報を現場のチンピラ達から聞き込み開始するのであった。
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