第426話 過去の解決ですが何か?

 ランドマーク家の応接室で、リューはドイアーク伯爵らの過去の罪を追及しようとしていた。


 その追及の糸口になるのが執事のマーセナルである。


「このマーセナルは、あなた方が罠にかけ、罪人として処罰したニンゼン準男爵の元執事です」


「!?──ハーメルン男爵、これはどういう事だ?あの時の事件についての処理は任せておいたはず。そして、全てうまく処理したと言っていなかったか?」


 ドイアーク伯爵は失言をしないように、ハーメルン男爵に確認する。


「い、いえ……。失踪して数日後には街外れの森で魔物に襲われた身元不明の男の死体が見つかってそれが、元執事だろうとの証言は得ています!」


 ハーメルン男爵はそう弁明した。


 伯爵の執事もそれに同意するように頷いている。


 そこへリューが事実を語る。


「マーセナルは失意のどん底状態で森に入ったところを確かに現地で数人に見かけられていました。ですが、マーセナルに当時の話を聞いたところ、森で偶然出会った浮浪者の男性に必要が無くなった執事服など身ぐるみ譲って、帰郷していたというのが事実です。どうやら、その男性はその服を着たまま魔物に襲われ亡くなられたようで、ニンゼン領ではそれがマーセナルと勘違いされたようです。これもうちの部下が調べて裏を取ってあります」


「!」


 ドイアーク伯爵は驚くと責めるように執事と与力のハーメルン男爵を睨んだ。


「伯爵様、そのニンゼン準男爵の執事が生きていたとしても、当時の証拠はすでにないはずです。落ち着いて下さい」


 執事はそう言うとドイアーク伯爵を宥めた。


「そうです。その男が元執事のマーセナルだとしても、当時、ニンゼン準男爵の悪行の数々を示す、彼自身が残した証拠書類が元で裁かれたのです。何も恥ずかしいところはありません」


 ハーメルン男爵も罪状を追求した当人として発言した。


「その証拠書類とやらも、あなたが職人に作らせた偽造である事も、うちは掴んでいます。──ハーメルン男爵。偽造書類作成を頼んだ腕の良い職人相手に報酬を渋ったら駄目ですよ?その職人からも証言を取り、王都に来てもらっています」


「何!?そんな馬鹿な。ここまでどのくらい時間が掛かると──」


「うちの部下がうちのマーセナルの為に気を利かせて、職人を買収、証言が必要になるだろうとこちらに送り届けてくれたのですよ。現在、王家に証拠書類と共に保護してもらっています」


 リューは、ハーメルン男爵の言葉を遮るように事実を述べた。


「お、王家にだと!?そんな馬鹿な!」


 ドイアーク伯爵もあまりの用意周到ぶりに言い訳を言えず、驚く事しかできない。


「ドイアーク伯爵。今あなたがどう言い逃れしようかと、ありとあらゆる思考を巡らしているのはよくわかります。でも、すでに僕がここであなたを追及しているのは全ての証拠が揃っており、最早、逮捕してもらうだけだからです」


 リューはそう言うと、応接室の扉を開けた。


 そこには近衛兵を連れた一人の男性が立っている。


「こちらは、国王陛下直属で特別犯罪、特に貴族による犯罪調査を行っているコロンポー伯爵です」


 リューは室内にいる全員に紹介した。


「──ドイアーク伯爵、ハーメルン男爵。あなた方にはいくつかの罪の疑いが掛かっております。被害者も多数おり、その方々からの訴えも全て、このリュー・ミナトミュラー男爵の方から証拠提供と共に受理されております。それではご同行して頂けますか?」


「ま、待ってくれ……!全てはこのハーメルン男爵の企みなのだ!それをこの執事が採用したから私はただそれにサインしただけで……」


 ドイアーク伯爵は自分可愛さに部下達を売ろうとした。


「伯爵様!それは酷いですよ!そもそも、嵌める為に策を出せと言われたのはあなたではないですか!」


 ハーメルン男爵はもう、与力として寄り親であるドイアーク伯爵を守るつもりは一切ない。


 先にドイアーク伯爵が自分を売ったから守る必要性がないと判断したのだ。


 そこに主従関係は全く無く、打算のみで結ばれた関係である事がはっきりと伝わってくるのであった。


「お、お待ちを!ドイアーク伯爵様は書類の偽造のサインにだけ関わりました。あとは私とハーメルン男爵が行った事であり、主犯はこのハーメルン男爵です!」


 執事は主君を庇いつつ、トカゲの尻尾切りで与力のハーメルン男爵に罪を擦り付け始めた。


「……いまさら罪の擦り付け合いをしても証拠は揃っているので、言い逃れは出来ませんよ?」


 リューは呆れてそう注意すると、コロンポー伯爵に頷く。


「詳しくは近衛騎士団本部で聞きましょう。──拘束せよ」


 コロンポー伯爵の命令で近衛騎士達が応接室に入ってくる。


「何かの誤解だ!待ってくれ!」


「全てはハーメルン男爵一人の犯行だ!」


「私は主人の命令に従ったまでだ!助けてくれ!」


 ドイアーク伯爵と執事、そしてハーメルン男爵の言い訳と悲鳴が応接室に響き渡るが、それも近衛騎士に拘束、連行されると遠のいていくのであった。


 コロンポー伯爵はリューに会釈すると、


「久しぶりに仕事しましたよ。閑職だと思ってましたが、これはこれで楽しいですな!」


 と、笑うと帰っていくのであった。


「……今回の商談は、いい経験になったな」


 父ファーザは一連の流れを唖然として見ていたが、そう前向きに結論付けた。


「ごめんなさい、お父さん。証拠が集まったのが数日前だったから、コロンポー伯爵との打ち合わせだけでいっぱいいっぱいだったんだ。それで報告するの忘れてたよ」


 リューは次から次に西部地方から送られてくる情報と証人の証言を精査して今回の捕り物劇になった事を説明した。


「なんにせよ、お前のところの執事の仇が取れて良かったな。──今日はもう家でゆっくり休みたいから、リュー送ってくれ」


 父ファーザは仇を取ったマーセナルを労うと、リューの『次元回廊』でもって帰宅するのであった。



「若様。この度はありがとうございました……」


 執事のマーセナルは目に光るものを見せながら、主君であるリューに感謝の言葉を述べた。


「これでマーセナルも心置きなく働けるでしょ?まぁ、この後、証言台に立ったりと忙しいと思うけど出来る範囲で仕事してね」


 リューは笑顔で答える。


「リューに感謝して、より一層仕事に励みなさい」


 リーンもリーンなりに励ましの言葉をマーセナルに掛けた。


「はい。若様、リーン様の為にも、より一層励みます」


 マーセナルはその場に跪くと、頼もしい少年の主人に改めて忠誠を誓うのであった。

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