第423話 決闘後の両陣営ですが何か?

 二年生で二番目の強さを誇るミナトミュラー男爵の従者で美女のエルフ・リーンと、一年生勇者に次ぐ実力者で、獅子人族ライハート伯爵家の令嬢、『剣豪』持ちのレオーナの勝負は学園の先輩として以上の実力差を示してリーンが圧勝した。


「……あのレオーナが前回に続き完敗だと……?」


 サムスギン辺境伯の子息、ルーク・サムスギン万全の対策を練ってきたつもりでいただけに、純粋な剣技での勝負でレオーナが足下にも及ばなかった事に愕然とした。


 リューのドス対策もしていたのに、この有様である。


 勇者エクスもその驚きは一緒で、自分には及ばないものの、いつも手合わせしているレオーナの敗北は信じられないものであった。


 ミナトミュラー男爵の従者というが、護衛を務めている事からも、本当に強いのはこのエルフで、普段は手を抜いて主である男爵に花を持たせていたわけか……。


 と、ルークがレオーナの敗戦をそう分析して、親友である勇者エクスに吹き込んだ。


 その分析に勇者エクスは素直に信じて、なるほどと頷く。


「ルークの策の裏をかかれたという事か……」


 勇者エクスはそう結論付けた。


 ギャラリーがこの勝敗の行方について騒いでいる中、二人がコソコソと話しているのを耳の良いリーンは聞き逃さなかった。


「そこの二人、聞こえているわよ!リューの方がもっと強いって私言ったわよね!?それなのにそんな馬鹿な推測しかできないのなら、一生リューの足元にも及ばないわよ!?」


 リーンは勇者エクスとルークの二人に大きな声ではっきりとそう告げる。


 勇者エクスは聞かれていた事にびっくりしつつ、そのリーンの言葉の意味をルークに確認するように見つめる。


 ルークは首を振る。


「エルフのあなたが強いのは認めよう。レオーナも標的だったミナトミュラー男爵が相手ではないから油断していたにしてもだ。だが、それでもうちのエクスの方が強い事に変わりはない」


 そう言うと、まだ、負けていないとルークは傍の勇者エクスも諭すように答えた。


 そんな中、敗北したレオーナがボロボロの体でリーンに歩み寄る。


「……私は油断も奢りもなかった。万全の態勢であなた……、いえ、リーン先輩に挑んで負けました。私の完敗です……」


 ルークの言葉を否定するように、負けたレオーナは痛々しい姿で、自分の負けを素直に認め、膝を突いた。


「剣豪ちゃん、あなた見込みあるからこれからも頑張りなさい。リューや私には及ばないにしても、これからもその腕を磨けば、良いところまではいけると思うわよ」


 リーンは笑顔でそう応じると、治癒魔法でレオーナの怪我を治療し始めた。


 その行為にギャラリーからは拍手が送られる。


 そして、両者の健闘が讃えられた。


 そんな中、レオーナは呆然と自分の治療を行うリーンを見つめるのであった。



 サムスギン辺境伯邸の内庭における、一年生対二年生の代理戦争とも言える決闘は二年生に軍配が上がり勝負は決した。


 勇者エクスは、「勝敗は兵家の常」と落ち着いて動じない姿勢であったが、会場を提供したルーク・サムスギンは歯噛みしていた。


「敵の切り札があのエルフだったのは間違いない!くそー!剣の腕に優れているエルフなんて誰が予想出来るというんだ!」


 と自室で荒れ、親友の勇者エクスに諭されるのを使用人が目撃するが、その事はほとんどの者が知らない事実である。



 オチメラルダ公爵令嬢エミリーはレオーナが負けた事にかなりの驚きがあったが、勇者エクスの親友としていつも態度が大きいルークの悔しがる姿を見るのは密かに爽快な気分であった。


 勇者エクスは素直でいい少年だとは思うが、ルークの偏った情報を信用して判断しているから間違いが多いように見えていた。


 だからエミリーは時折、勇者エクスにアドバイスはしていた。


 だがやはり、親友であるルークを一番信用しているようだ。


 自分の意見は二の次になっている。


 レオーナは負けてから何か塞ぎ込むように考えていたが、それに対してルークは罵倒に等しい厳しい事を言っていた。


 これには勇者エクスも止めに入って、ルークに謝るように言ってはいたが、それでもルーク側の意見を信用しているようだ。


 それがエミリーには、何となく滑稽に映る。


 平民時代からその才能で有力貴族の子息であるルークに見込まれて友人となり、その支援を受けて王都に乗り込み、勇者として爵位も得て人気者にもなった。


 それらは全てルークの策である事は確かだからこそ、全幅の信頼を寄せているのだろう。


 自分も知恵者のルークの考えには否定しない事も多い。


 上級貴族として生きて来た自分にとっても考え方としては理解できる部分が多いからだ。


 力を持っている事はその分、責任もあるからこそ特権階級として人の上に立つのだ。


 ルークの思考はそこから始まるのだが、しかし、最近のルークはその考えに溺れている気がした。


 エミリーは、最近平民の商人と会い、よく話す事で、少し考えを改めていたから力についても貴族である事と別に考えるようになってきた。


 自分は腐ってもオチメラルダ公爵家の令嬢だ、しかし、平民の商人に支援を受けてその家名を保っている。


 この時点で貴族としての誇りについて、考えさせられたのだ。


 平民であっても力があり、知恵に優れた者もいる。


 それを実感していたから、ルークの今の状態は危うく映る。


 そして、それを信じて正義を振るう勇者エクスに今のまま従っていて良いものかと心配になるのであった。


 一年生の間でも疑念が生まれていた。


 ルーク・サムスギンの勇者最強説にである。


 ほぼ互角と言われていたレオーナ嬢が圧倒的な差で完敗したのだ。


 だからルーク・サムスギンの言葉は今までと違い空虚なものに聞こえるのであった。



「リーンの独壇場だったね」


 リューは、帰りの馬車の中、自分の従者の活躍を褒めた。


「さすがリーン様です!あのレオーナ嬢は、自分と比べたらどのくらいの実力でした?」


 リューの護衛役であるスードはそこだけが気になっていた。


「……そうね。あの剣豪ちゃんそれなりに強いわよ。スードでも油断したら足元すくわれるかも」


 リーンがそう評価すると、


「それはかなり強いな……」


 と、イバルが驚く。


「むむっ……。それは手合わせしてみたいです。主、次は自分に戦わせてください!」


 スードは、順番待ちがあるかのように挙手する。


「いや、もうさすがに次はないから!」


 リューはスードにツッコミを入れると苦笑してランドマークビルへと帰宅するのであった。

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