第424話 不穏な報告ですが何か?
ある日の事。
イバルがリューの『次元回廊』で南部に通うのが日課であったが、この日もそのエリザの街の竜星組支部に出かけていた。
「イバルの旦那、妙な報告があるんですが」
この南部に出張中であるミナトミュラー家直系の部下の一人が、各地に放っている間者の報告の一つを持って来た。
「これは?」
「へい。交易の街トレドからの報告書です」
「……あっちで人を集めているシシドーに不審な動き?」
イバルは報告書に目を通して、眉をしかめた。
シシドーはこの南部の裏社会一帯を任せようとしているリューの祖父カミーザの元で更生させた人材だ。
今は、トレドの街で人を集めさせる為に送り込んである。
「こちらから資金提供して人集めの支援もしているじゃないですか。それを断ってきまして、それに最近、連絡もあまり寄越さなくなっています」
「連絡も?」
イバルは部下が何を言いたいのかを理解した。
シシドーが地元の連中を集める過程で何かのきっかけで変遷し、竜星組から独立を企んでいるのではないかという事をだ。
「シシドーはリューにかなり心酔していたと思っていたんだけどな……。ここに来て裏切りの可能性か……。こっちが手薄になるが人を割いてトレドの街の間者を増やして情報収集を強化してくれ」
「へい。それとうちに対抗しようとしているエリザ連合についてですが……」
「なんだ?」
「エリザ周辺のみならず、先程のトレドの街にも勢力を伸ばして、うちに対する包囲網を敷いている可能性があります。シシドーの奴、それを知ってあっちに寝返ろうとしているんじゃないかと」
「寝返りか……。その読みが当たったら不味いな。トレドの街はシシドーを使ってうちの勢力下に入れ、敵勢力を半包囲態勢で迎え撃つつもりだったのに、逆にこっちが半包囲されると、このエリザの街も放棄する事態になりかねない。これは上にすぐ報告しないといけないな」
南部の処理を一任されているイバルは部下の報告とこれまでの情報を精査した進言に、深刻に受け止めた。
トレドの街にやっているシシドーには十分な資金も渡していて、これまでの報告でもシシドーの人脈や本人の立ち回りでトレドの街の裏社会をほぼ手中に収めるところまでいっていたはずだ。
それが丸々、エリザ連合に流れると、全てが台無しになる。
「我々はどうしましょうか?エリザ連合はこの街からほとんど駆逐してますが、トレドの街を失ったとなると、奴らの反撃が必ずあると思います」
部下に言われるまでもなく、そうなるだろう事はイバルにも予想できた。
被害を最小限に抑える為にも、部下を集結させ、一旦、このエリザの街を放棄するべきでないか?
イバルはその事を、いつもの時間に迎えに来るだろうリューに提案した方がいいかもしれないと思うのであった。
「シシドーに裏切りの可能性が?」
リューはエリザの街に迎えに行ったイバルからその場で報告を受けて驚いた。
「どうするリュー。このままだと、この支部に出張している直属の部下達にも危害が及ぶかもしれない。俺としては、一旦、この街から撤退して、態勢を整え直す必要があると思うんだが……」
イバルが、大事な判断をボスであるリューに促した。
「うーん。シシドーがねぇ……。ちょっと、待ってくれる?シシドーは確かに新参者だし、最初の頃は中々態度も改めなかったけど、ああいうタイプは一度その態度を改め直すと義理堅い事が多いんだよね……。おじいちゃんからも保証してもらってたし、もう少し様子見てくれないかな?」
リューはシシドーの裏切りの可能性がどうしてもピンとこないのか、イバルの提案を保留する形でお願いした。
「確定事項ではないから、様子は見る。だが、シシドーは馬鹿じゃない。きっとギリギリまでは手の内を見せようとしないと思うぞ?それにこちらとの接触を急に避け始めている様子からみてもあまり期待は出来ないと思う」
イバルは常に冷静に物事を見ている。
今回はリューの私情が入っているとみて、冷静な判断を促した。
「気になるのはそこなんだよね」
「?」
「だってさ、こちらを裏切る気なら、うちとの接触はギリギリまでしておいた方が良いと思うんだよね。警戒されたら意味ないじゃん。それを急にでしょ?」
「どうだろう?シシドー側にとって最低限のけじめとして連絡を断ち、完全に裏切るまでの間は有耶無耶にしておこうと判断したようにも思えるんだが」
「なるほど。そうとも取れるのか……。一応、シシドーがこちらとの接触を嫌がっているならこちらから無理に連絡取らなくていいよ。ただし、監視は怠らないで。僕の予想だと一波乱は確実にあると思うからその時、介入できるようにしておいて」
「一波乱?」
「うん。あと、エリザ連合を名乗るうちへの対抗勢力の本部の位置はわかっているのかな?」
「あ、ああ。エリザの街から少し離れた港街サウシーにあるみたいだ。部下からそう報告を受けている」
「サウシーの街かぁ。あそこは王家直轄領じゃないよね」
「ああ。あそこはどこの派閥にも属さないサウシー伯爵の領都だ。あそこは独特の発展をしていてどこも手を出しにくい街だ。──それよりもシシドーはいいのか?」
「シシドーを監視したら、きっとサウシーの街の敵拠点が絡んでくると思うから」
リューが意味ありげにイバルに答えた。
「?──そりゃあ、シシドーの裏切る先はエリザ連合だろうから、その拠点があるサウシーの街は注意していれば絡んでくるとは思うが……。やはり、リューもシシドーが裏切ったと思っているんじゃないか?」
イバルはリューの考えが読めなかったので、直球で疑問をぶつけた。
「どうだろうね?どちらにせよ、サウシーの街を監視してそこに乗り込む準備はしておいて。早くてチャンスは多分、次の休みかな」
リューは不可解な予言をして見せた。
「次の休み?それは学校が休みの時って事か?」
「うん。もしかしたら外れるかもしれないけどね」
リューはいたずらっ子っぽく意味ありげに笑うと、疑問に思うイバルを煙に巻くのであった。
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