第402話 校長室ですが何か?

 リューとライハート伯爵家の令嬢『剣豪』のレオーナとの食堂横の決闘は、二年生のみならず、一年生の間にもすぐに広まった。


 もちろん、その日の内にリューは担任のスルンジャー先生に職員室に呼び出され、校長室にすぐ行くように言われた。


 リュー達がノックをして入ると、先に、一年生の『剣豪』レオーナが校長室にいて厳重注意を受けていた。


「ミナトミュラー君もそこに並びなさい」


 校長は王国魔法士団の団長を務めていた事もある実力者であり、学園再建を行った人物である。


 現役を一度引退して周囲からは「老師」と呼ばれている人物であるが、普段は温厚な感じの老紳士だ。


 だが、部屋に入る前から聞こえて来ていたが、先にきた『剣豪』レオーナはこっぴどく怒られていた。


「──レオーナ君、ここにいるリュー・ミナトミュラー君は相当な実力の持ち主である。さらには王家も期待しているからこそ男爵という地位にまで昇りつめている」


 校長老師は、リューが入って来ても説教を止めるつもりが無かった。


 そして続ける。


「それにだ。上級生を軽んじる行為があった事も報告で聞いている。その結果がこれだ。わかるな?」


『剣豪』レオーナは獅子人族であるから怒られてもその表情は冷静そのものであったが、その獅子の耳と尻尾はうなだれるように元気が無いのが見て分かった。


「処分については、担任から伝えさせる。君からもミナトミュラー君に謝罪しなさい」


 校長老師は厳しくそう言うと、獅子人族の『剣豪』レオーナは、


「ごめんなさい……」


 と怖いくらい素直に謝ってきた。


 リューはこれも作戦の内ではないかと一瞬勘繰ったのだが、本人の耳や尻尾を見る限り本当に反省しているように見えた。


「君は誰かさんの作戦に従っただけみたいだし、もういいよ。それよりも怪我は大丈夫かい?僕も手加減したつもりだったのだけど、威力が思ったより強かったから少し焦ったよ。ごめんね。傷は残っていない?」


 リューの言葉に表情こそ冷静沈着なレオーナが目を見開いて反応した。


 どうやら、手加減したという言葉に相当な驚きがあったようだ。


「だ、大丈夫だ。いや、です……。ミナトミュラー先輩は本気ではなかった……のですか……?」


 レオーナは愕然とした表情で改めて確認する。


「お互い本気を出したら死人が出るから、多少はね?真剣での切り合いだと危ないから一瞬で決めようとは思うよね。はははっ……」


 リューは短刀に魔力の込め方が強すぎた事を内心反省していたから、そう答えると苦笑した。


 レオーナは驚きに目を見開いたまま、数秒リューを見つめていたが、視線を校長老師に戻すと、退室していいか確認した。


「ああ、レオーナ君は退室しなさい。ミナトミュラー君にはまだ話があるからな」


 レオーナは校長老師、そして、リューに深々と頭を下げると退室するのであった。


 レオーナが退室して扉が閉まると、校長老師が深々と溜息を吐いた。


「ミナトミュラー男爵。此度の決闘については職員の目撃談も多かったから君にほとんど非が無い事はわかっている。だが、話の様子から伺うに、とんでもない魔法を使用したみたいだな?」


 校長老師は元王国魔法士団団長である。


 魔法について詳しくて当然だからリューの使用した魔法についてもある程度理解しているようであった。


「とんでもないかはわかりませんが……。今回使用してみて威力が凄いのはよくわかりました……」


 リューも短刀の事を言っていいものか微妙だった為、言葉を多少濁して答えた。


「『対撃万雷』……。それを使える意味がわかっているかね? ……それは勇者の対撃固有魔法だ。それも高位の。それを君が使ってしまったという事は……」


 校長老師は意味ありげにリューを見る。


「え……。ち、違いますよ!? 僕、勇者じゃないですからね!? 『対撃万雷』がどんな魔法かは知りませんが、多分それに模した魔法です。それだけです!」


 リューはなぜ自分だけ残して話を聞くのかがわかり、慌てて答えた。


 校長老師は学園一の天才生徒であるリューがまだ、学校側に言っていない事があると疑ったようだ。


 その確認の為にリューだけ残したのだ。


「本当かね?」


「本当です!」


「……それはそれで、模した魔法とやらが個人的には気になるところだが……」


 校長老師はじっとリューを見つめる。


 目を逸らす、リュー。


 さすがに国宝級の聖剣をばらばらにして、その上位互換の短刀を作った結果とは言えない。


「それで僕は決闘を受けた事について処分は?」


 リューは話を逸らす為に自分から今回の処分を促した。


「……。──レオーナ君が、自分の非を認めているからな。ただし、先程君が言った誰かさんの作戦とやらについては彼女は一切認めなかった。自分一人で責任を負うつもりなのだろう。一応、誰かさんである当人のルーク・サムスギンにも話を聞くつもりではあるが……」


 校長老師は全て知っているようだ。


 その上で言葉を濁した。


 そして、続ける。


「──その結果次第のところもあるが、リュー・ミナトミュラー男爵についての下級生の失礼な態度に対し、君が教育的指導を行ったという解釈になるだろう。貴族として決闘で証明した事にもなるしな」


 校長老師はそう答えると、


「また、話を聞くと思うが、例の魔法については論文を出してもらえるとこちらも助かるのだが……?」


 と個人的な興味におけるお願いを漏らした。


 リューは一言、


「極秘事項なので」


 と、技術的に明かせない事を匂わせる。


「……そうなるか。──はぁ……、わかった。それでは下がってよい」


 校長老師が、残念そうな溜息を吐く中、リューは校長室を後にするのであった。



 職員室の前にいくと、勇者エクス達がいた。


 レオーナに何を聞かれたのか処分はどうなったのか聞いているようだ。


 リューはそれを脇目に教室に戻るのであったが、その姿に気づいた勇者エクス達の刺さるような視線を向けられるのであった。


 勇者エクスは何も言わなかったが、サムスギン辺境伯の子息ルークは、


「勝ったと思うな」


 という遠吠えをぶつけてきた。


「ルーク君だったっけ? 君の最悪な作戦のせいで彼女が処分を受けようとしているのだから、男なら自分の非を認めて、自分の尻拭いは自分でしなよ?」


 リューはルークに厳しい言葉を投げかけると、サムスギン辺境伯の子息ルークは、顔を歪めると何も言い返せず、下を向く。


 リューは、それを確認せず、迎えに来たリーン、スードと合流して教室に戻るのであった。

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