第389話 二人の男爵ですが何か?

 新学期も数日が経ち、新入生も学校に慣れて来た頃の朝。


 リューとリーンはいつもの如く、ランドマーク製の馬車での登校中、丁度、前を王家の馬車が走っており、ミナトミュラー家の御者が車内のリューにそれを知らせた。


「今日はリズ早いね」


 リューは向かいに座るリーンに話しかけた。


「そうね。でも、昨日、リズがみんなの登校時間を気にしていたから、合わせたんじゃないかしら?」


「そうなの?」


「リズが登校してくる時間にはみんな揃って話しているじゃない?その間にリズが聞き逃している事も多いから、普段は私やシズが話していた内容を教えたりするんだけど、きっとそれが気になったのね」


「それでか!──うん?なんだか玄関前に人だかりができていない?」


 馬車が学校に到着して先に王女リズが馬車から降りていたが、その周囲に人が集まっているようだ。


 続いてリューとリーンも馬車を降りる。


 集まっている生徒達は二年生とわかるのだが、王女リズの前に立っている生徒達はどうやら違う学年のようだ。


「あれ、一年生の制服じゃない?」


 リーンがリューに指摘した。


今年の一年生から制服の袖の縁の色が変更されているのだ。


 丁度、その一年生達が王女リズに挨拶をしていた。


「私の名は、エクス・カリバール男爵といいます、王女殿下。最年少男爵にして、勇者スキルの所有者です。この度は殿下にご挨拶をと思い、友人共々こちらに参りました」


 数人いる一年生の中でも威風堂々として青色の髪に燃えるような赤い瞳をした美少年(十三歳)がお辞儀をした。


 それに倣うように他の一年生も王女リズにお辞儀をした。


 どうやら、他の一年生を見る限り、受験で上位を占めた噂の面々のようだ。


 一人は金髪縦ロールの派手な髪形に黒い瞳の女性、きっとオチメラルダ公爵家のエミリー嬢(十六歳)だろう。


 その横には、獅子人族で背の高い橙色の髪に赤い瞳の女性、こちらはライハート家の令嬢(十五歳)に違いない。


 勇者の背後には知的な雰囲気を持ち、それでいて金色の長い髪が豪奢で青い瞳に眼鏡の少年が周囲に目を凝らしている。彼がサムスギン辺境伯の子息(十三歳)だろう。


 新入生の上位陣が王女リズに挨拶に来たのはわかったが、当の王女リズは対応に困っていた。


 自分は早く教室に赴いて友人達とひと時の会話を楽しみたいのだ。


 それが今、この新入生達によって阻まれていた。


「ええ、それは存じ上げています、カリバール男爵。それにそちらのエミリー嬢とは何度か顔を合わせています。──ご機嫌よう、エミリー嬢。他の方は初見ですが、サムスギン辺境伯の子息であるルーク殿に、小さい子供の頃以来だけどライハート伯爵家のレオーナ嬢かしら?」


 王女リズは一人一人挨拶される前に勘を働かせて言い当てて見せた。


「王女殿下にお名前を知って頂けていて光栄至極に存じます」


 サムスギン辺境伯の子息ルークが深々と会釈する。


「それでは、これ以上はみなさんのご迷惑にもなるので──」


 王女リズは早速、切り上げて教室に向かおうとした。


「エリザベス王女殿下。よろしければ我々に少しお時間を頂けないでしょうか?殿下は王家の人間としてこの学校でも特殊な存在かと思います。私もそういった意味では同じ立場。勇者スキルに突然目覚め、その事により陛下より直接男爵位を賜り、特殊な立ち位置に困惑しております。殿下とは歳も同じですし、そういった意味では分かり合えるかと思うのです。幸いな事に同級生達は私の存在を知ってこの学校を受験してくれた理解がある者達です。殿下の良き理解者としても友人になれると思うのですがどうでしょうか?」


 勇者エクスは長々と語るとそう問うてきた。


 要は、特別な地位にあるお互いで、仲良くしませんか?ということなのだろうが、微妙に王女リズの友人は理解がないだろうけどこっちはあるよ。と言っているようにも聞こえる。


 勇者エクスは悪気がなさそうではあるが、それが何とも今回は質が悪い。


 リューはリーンと目を合わせて嘆息すると、王女リズに助け舟を出す事にした。


「リズ、おはよう。挨拶が済んだのなら、教室行こうよ。みんな待ってると思うし」


 リューは、横から割って入るとリーンと二人、王女リズに声を掛けた。


「誰だ君は?王女殿下に馴れ馴れしくして失礼じゃないか?それに最年少で男爵位を叙爵した勇者エクスにも失礼だろう?」


 サムスギン辺境伯の子息ルークが割って入って来たリューの腕を掴んで咎めた。


「リズと私達は友人なのよ、馴れ馴れしくて当然でしょ?それにその手を離しなさい。あなたが言う男爵は他にもいるのよ。リューがそのもう一人。あなたこそその失礼な物言いを止めなさい」


 リーンがリューの腕を掴んだサムスギン辺境伯の子息ルークの手首を掴んで離させた。


「エクス以外の男爵?……なるほど、君がミナトミュラー男爵か。だが、うちのエクスは勇者持ちの男爵だ。親の出世のお陰で地位を得た者とはその意味が全然違う。それに王女殿下の懐の深さに付け込んで馴れ馴れしくするのは浅ましいぞ」


 ルークはリーンの手を振り解きながら、リューを糾弾する。


「ルーク、待つんだ。ここは王女殿下の御前。私達も少々失礼だと思う。──王女殿下、朝から失礼しました。今日は、この辺で一年生校舎に戻りますが、お昼休みにでもまたお話いたしましょう。それでは!」


 爽やかな物言いで勇者エクスは王女リズに会釈すると他の一年生を促して自分達の校舎に戻っていくのであった。


「なんて失礼な奴なのかしら!リューの出世を実力では無いような言い方してたわ!」


 リーンが腹立たしそうにサムスギン辺境伯の子息の発言に怒るのであった。


「外から見ると僕はそう映るって事だね。勉強になったよ」


 リューは笑いながらリーンを宥めると、改めて王女リズに教室に行くように促すのであった。

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