第382話 新クラスですが何か?

 リューとリーンは二年生校舎の玄関から入ったところのスペースに人だかりが出来ていたので、そこに混ざった。


 そこには新しいクラス編成が張り出されていたのだ。


「どれどれ……、僕達はどのクラスかな?」


 リューとリーンが人混みをかき分けて張り出された掲示板の下に行く。


 そこには丁度、ランス・ボジーンがいた。


「おう、リュー、リーン。おはよう!去年一年の成績順でほとんどはクラス編成されたみたいだけど、王女クラスは基本同じみたいだな。昨年と違うのはそこに成績優秀者が何人か普通科クラスから入っている事くらいだと思う。だから俺達、また一緒だぜ」


 ランスはそうリュー達に教える。


「じゃあ、今年もまたよろしく!」


 リューはランスにそう答えるとお互いハイタッチするのであった。


「ほんとうね。知らない名前もうちのクラスに十人くらい入っているわ」


 リーンも張り出された編成表を見てそう口にした。


「……やりました、主。自分も主と同じクラスに入ってます……!」


 そこにいつの間にかリューの背後に人混みに紛れてスード・バトラーが立っていた。


「うわ!いたのスード君!?──あ、本当だ。王女クラスの名簿の最後という事はギリギリ入った感じなのかな?あ、三学期の小テストの成績や二学期の武術大会での成績なんかも評価されたのかもしれないね」


「主に勉強を見てもらったお陰です……!」


 スードは感無量という感じだ。


「スード君の努力の賜物だよ。他は普通クラス出身の子達みたいだ。じゃあ、教室に行こうか」


 リューは、新クラスの名簿をざっと見て確認すると、他の生徒の邪魔にならないように移動するのであった。


 教室に到着するとそこには新しいクラスメイトにいつもの顔ぶれがいた。


 イバル・コートナインと、シズ・ラソーエ、ナジン・マーモルンだ。


 一年生の時と違うのは、シズとナジンの二人が右隅にいたのに対し、今回は左隅の一部にいた事だ。


「やあ、みんなおはよう。いつもの左の隅っこは取っておいたよ」


 ナジンがリュー達の指定席を空けて出迎えた。


「……みんなおはよう。新学期もよろしく……ね」


 シズもナジンに続いて挨拶する。


 イバルも横に移動した。


「三人共早いね。ありがとう。じゃあ、いつもの通り、左隅っこの方に座らせてもらいます」


 リューは笑いながら席に着く。


「じゃあ、私はその右横ね」


 リーンも着席する。


「俺もじゃあ、いつもの左横の席に……、ってスード、そこは俺の定位置だから!」


 スードがしれっとランスのいつもの席であるリューの横に座ったので注意した。


「……わかりました。では主の前の席に……」


 スードは残念そうにするとランスに席を譲って移動するのであった。


 そして、リーンの横にシズ、そしてナジンが座る。


イバルは前の席でスードの横に座った。


 そこへエリザベス第三王女が教室に入って来た。


「「「おはようございます、王女殿下」」」


 教室内の生徒達が一斉に息を合わせたかのように挨拶する。


「みなさん、おはようございます」


 エリザベス王女愛称・リズは隙の無いいつもの笑顔で生徒達に挨拶を返す。


 普通クラスから上がって来たばかりの十人程の生徒達は右隅っこの方で、生の王女殿下に興奮して黄色い声を上げる女子生徒もいた。


 王女リズは、教室を軽く見渡す。


 そして、リュー達がいつも通り、左隅っこの一番後ろに陣取っているのを確認すると、くすっと笑う。


 他の生徒達は、王女リズが一年生の時と同じように真ん中に座ると思い、席を空けていたが、その王女リズはリュー達のいる左隅っこの方に歩いていく。


「……リズ、こっちにどうぞ」


 シズが、それに気づくと自分の席を空け、ナジンに横にずれる様に促した。


 教室がざわついた。


 王女がシズが空けた席に進んで座ったからだ。


「ありがとう、シズ。リーンもよろしくね」


 リーンとシズに挟まれる席に王女リズは座った。


 これを見て、ランスは、


「これは俺が移動しないとまずいな」


 と漏らして席を立つと、王女リズの前の席に移動した。


 それで察したのかナジンもシズの前の席に移動して王女リズを囲む形をとった。


 順番でいくと後列の左から、リュー、リーン、リズ、シズ。

その前列の左から、スード、イバル、ランス、ナジンである。


 これまで王女の取り巻きを自負していた貴族の子息令嬢達は呆然とこの光景を眺めていた。


 確かに一年生の後半はエルフの英雄の娘リーンや侯爵令嬢シズに愛称で呼ぶ事を許す程親しくしていたから、何となくそんな感じはしていた。


 だが、まさか自ら左隅の席の方に行くとは思っていなかったら、どう反応していいのかわからないのであった。


 そこへ、知らない生徒が一人入ってくる。


 兎人族のようで、その兎の特徴的な長い耳をピンと立てて初めての教室の雰囲気を警戒する様に動かしている。


 その背後から今年も担任を任されたビョード・スルンジャー先生が入ってくると、「みなさん、席について下さい。一年に引き続き、私がみなさんの担任を務める事になりました。普通クラスからも十名ほどこのクラスに入った生徒もいますのでみなさん仲良くする様に」


 と、第一声を放った。


 そして続ける。


「えー、この王立学園では非常に珍しい事ですが、この二年から編入生がこのクラスに一人加わる事になりました。西部地方の学校から来たので、右も左もわからない状態ですので、みなさん、移動教室など一緒に行動して教えてあげて下さい。──それでは、ラーシュさんから自己紹介してもらいましょうか」


 スルンジャー先生が、兎人族の編入生に自己紹介を促した。


「ぼく……、私の名前はラーシュです。西部地方の学校から来て何もわからないので、色々と教えて下さい……」


 ラーシュと名乗った子(制服からどうやら女の子のようだ)は、スルンジャー先生に空いている席に座る様に促され、隅っこを選んだのかリューの前の席に歩いて行った。


 リューはリーンに丁度、「兎人族でラーシュってあの時の奴を思い出すわよね」と言われている最中だった。


「あの時のって、誰の事?」


 リューがリーンに答えていると、兎人族の女の子は後ろの左隅の二席が空いていたので、そこに向かうと、リューではなくその前の席に行き、隣のスードに「横、良いですか?」と確認してスードもそれに頷く。


 そして、兎人族の女の子は後ろの席のリューにも何となく挨拶しようとして視線が合った。


「「……え?」」


 二人は相手の顔を確認すると、固まった。そう、二人は顔見知りだったのだ。


 ラーシュは西部地方一帯の裏社会を牛耳っている聖銀狼会大幹部の参謀を務めていた兎人族のラーシュその人だったのであった。

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