第381話 通学ですが何か?
リューはマイスタの街の街長として、明け方まで続いたお祭りを見届けた。
当初、ランスキーが、
「自分が祭りは終始監督しておくので、若は新学期に備えて先にお休み下さい」
と気を遣ってくれたのだが、自分が昇爵した事よりも、マイスタの街の住民達が昇爵を自分の事の様に喜んでくれる姿を見るのが嬉しくて結局、明け方まで街を巡回して過ごしたのであった。
そんなお祭りを終えての執務室。
「もう、リューも馬鹿ね。お陰で私も寝れなかったじゃない」
リーンは眠そうにしながら、いつもの定位置にある椅子に座ると、徹夜した事をリューのせいにした。
「自分だって楽しんでたじゃない。お互い様だよ」
リューはリーンが露店でお菓子を買って楽しんでいたのを傍で見ているから笑って指摘するのであった。
「若様、姐さん、朝食とお茶をどうぞ」
メイドのアーサがスッと二人の前にお盆に乗せた朝食とコーヒーを出す。
「ありがとう。アーサもお祭りは楽しめた?」
「もちろんだよ、若様。それより、ボクも南部に連れて行ってくれたら良かったのに!」
アーサはリュー達が留守の間、街長邸の留守を守っていたのだ。
「さすがに、僕がメイドを連れていくわけにはいかないよ。──そう言えば、アーサは僕達がいない間、何をしてたの?」
リューは、留守の間のアーサ達の仕事内容に興味を持った。
「色々やってたよ。普段通りの仕事はもちろんだけど、執事のマーセナルの命令で、オイテン準男爵の手助けもしたし」
「ああ!報告にあった、オイテン準男爵襲撃未遂事件の事だね?あれ、アーサも関わっていたのか、ありがとうね」
リューは歳の離れた貴族の友人であるオイテン準男爵には色々とお世話になっていた。
オイテン準男爵とはまだ幼い我が子の為に、現役を貫いている老紳士だ。
貴族絡みの情報は、このオイテン準男爵が横の繋がりを駆使して詳しいので、リューがいない休みの間の情報は、執事のマーセナルに色々と流してくれていた。
そしてそれをランスキー達にも共有していたのだ。
その中で、リューに対する不穏な情報をいくつか入手したオイテン準男爵が友の危機とばかりに急いで留守を預かるマーセナルにいつものように知らせてくれた。
それは、酒造ギルドの元会長ボッチーノ侯爵とヨイドレン侯爵がリューの酒造部門に間者を送り込もうとしていたのだ。
それもただの間者ではなく、全ての樽に特殊な薬を密かに流し込む事で味を悪くし、評判を落とす計画だったとか。
いち早くオイテン準男爵が他の下級貴族からその情報を買い取って入手、知らせてくれた。
そのお陰でその暴挙は未然に防がれたのだが、失敗に伴い、情報をミナトミュラー家側に流したオイテン準男爵が恨みを買って襲撃されそうになっていたのだ。
その襲撃情報をランスキーが掴み、部下の手配を指示していたところに、所用で王都にいたマーセナルとその護衛として一緒にいたアーサが遭遇、時間が勿体ないという事でアーサが先行でオイテン準男爵の元に走った。
そこへ丁度、オイテン準男爵の家に襲撃を掛けようとしていた連中と遭遇、それをアーサが片付けたのだという。
「ちゃんと、襲撃犯は生かさず殺さず、ギリギリのところで止めておいたよ」
アーサはニッコリと笑みを浮かべる。
「アーサのギリギリは相当だよね?──でも、まぁ、体にきっちり教え込むのは大事だからね。あちらも連中の姿を見れば、当分はそんな馬鹿な事はしないだろう。アーサ、ご苦労様」
リューは友人を助けてくれた自慢のメイドを褒めるのであった。
「えへへ。役に立てて良かったよ。それにしてもオイテン準男爵も肝が据わった人だね。襲撃未遂とはいえ危機一髪だったわけだけど、その事を報告しても怖がる様子は全くなかったよ」
「ははは。オイテン準男爵は元武人だからね。歳ではあるけども、その生き方は昔も今も変わらない気がする」
リューは歳の離れた友人を褒められて嬉しくなるのであった。
「リュー。そろそろ、学校に行く準備しましょう。アーサ、湯浴みの準備してくれる?」
「姐さん、その準備は済んでいるよ」
メイドのアーサは、胸を張るとリーンを案内するのであった。
リューとリーンは登校の準備をすると、早速、ランドマーク製の自慢の新しい馬車に乗り込み、王立学園に向かうのであった。
馬車はマイスタの街から王都の北門を通過して学校の方向に進む。
その道中、行き交う馬車の中にはランドマーク商会運送部門の大型馬車や、同じく軽運送の三輪車、そして人力タクシーが通り過ぎていく。
中には、ランドマーク商会のやり方を真似して自前の古い馬車を何台も用意して運送専門の商会を立ち上げたと思われる馬車も通り過ぎるが、どこまで本家の仕事の質まで真似できているかは怪しいものだ。
当然ながらランドマーク商会の運送部門は、時間通りに運ぶのはもちろんだし、荷物の品質の劣化を防ぐ為に、荷物と一緒に入れる緩衝材から気を遣っていて、その研究も行っている。
ミナトミュラー商会の研究部門で責任者であるマッドサインに繊細で軽い衝撃で傷がつく食材や傷みやすい魚などのナマモノ、ガラス瓶の様な割れやすいものまでそれぞれにあったものを開発させていた。
だから、ランドマーク運送の評判は日増しに上がっている。
鮮度の高い食材を提供できると飲食業者も大喜びだ。
「ふふふ。王都内でのランドマーク家の評判はかなり良くなっているね」
リューは、通り過ぎるランドマーク商会運送部門の馬車を見ながらリーンに車内でそう漏らす。
「そうね。でも、慢心は禁物よ。ゆくゆくは全国展開でしょ?」
リーンは釘を刺した。
「そうだね。王都でもまだまだこれからだし、うちもそれに貢献していかないとね」
リューはリーンの言葉に気合を入れ直す。
そして、馬車は二年生棟のある玄関に到着した。
「それに私達は今日から二年生よ。後輩も出来るんだからね?」
そう忠告すると馬車を降りる。
続いてリューも馬車を降りる。
「リーン様、おはようございます!」
「ミナトミュラー君、おはよう!」
「おはよう、ミナトミュラー君。乗って来た馬車って、新モデルだよね!?」
二人の元に、早くも同級生の人だかりが出来る。
二年生の初日は、一年生の頃の初日に比べたら、かなり良い出だしになりそうであった。
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