第366話 誰かの危機ですが何か?

 トレドの街長邸の前に三十分後に集合の約束の元、リューとリーン、スードの三人が早速、ワクワクを止められないとばかりに、十五分前集合していた。


 それから遅れる事十五分後、エラソン辺境伯の息子マジデール、ゴーマス男爵、護衛の兵士の計四人がようやく現れた。


「何を丁度に来ているのよ!自分達が誘ったのだから、せめて私達よりは早く来るべきよ!」


 リーンが、時間通りに来たマジデール達を叱責した。


 いや、僕達が早く来過ぎただけだから!


 リューは、リーンの理不尽な言葉に内心でツッコミを入れる。


「わ、悪かった……。(なんだかこいつら、こちらよりノリノリじゃないか?)」


 マジデールはゴーマス男爵に困惑して耳打ちするのであったが、気持ちを切り替えると、早速夜の街へと向かうべく馬車に乗り込むのであった。



 大きな通りに到着するとマジデールが歩いて街を見物しようと誘うので一行は歩いて夜の明かりでライトアップされた街を歩く事にした。


 十五分ほど、マジデールの先導の元、街を歩いていたが、


「地元の人間に教えてもらった、良いお肉を出すお店に案内するよ。こちらが近道だから付いて来な」


 と、人通りが少ないわき道にマジデールが入る。


「あんたら、この道は止めておきな」


 わき道の傍に露店を出していた店主がリュー達に声を掛ける。


「気にする事はない。さぁ、行こう」


 マジデールは店主の言葉を遮るとリューを先頭に立たせるように導く。


 リーンもスードももちろん、楽しみがもうすぐやってくるとばかりに、リューの後ろに付いて行った。


 その暗がりのわき道を奥に入っていくと、十人程のチンピラが道を遮っていた。


 リュー達はその端を通り過ぎようと脇によると、


「おい、ガキども。ここは今から通行料が発生する事になった。通りたければ持ち金全部置いて行きな」


「……じゃあ、引き返そうか」


 リューが振り返るとマジデールとゴーマス男爵、兵士二人の背後にも十人近くのチンピラが道を塞いだ。


 意外に人集めたなぁ。


 リューは、感心した。


 そこへ、「それでは後は任せたぞ、チンピラども。死なない程度に痛めつけて後で報告してくれ」と、マジデールが早速、自分からこの状況を作った事を宣言するように告げた。


「これはどういうことですか、マジデール殿」


 リューはわかっていた事だが、一応、この状況の確認をする。


「うちは裏社会にも顔が広くてな。ひとたびその関係者に声を掛ければお前らが生活する王都の裏社会のチンピラも動かす事は造作もない程だ。ましてやここは南部。お前たちを叩きのめすのに僕が手を下す事もない」


 マジデールは悦に入ったのかべらべらと話してくれた。


 そこでチンピラ達が動いた。


 なんと、マジデールの護衛をしていた二人の兵士を持っていた剣で太ももを突き刺したのだ。


 ぎゃっ!


 兵士二人は予想外の不意打ちに悲鳴を上げるとその場に崩れ落ち、地面で悶絶する。


「な、何をしている!?こちらは雇い主の側だぞ!」


 マジデールが怒ってチンピラ達を恫喝した。


「雇ったってのは、ここいらの雑魚をまとめていたコモーノ一家の事か?俺達はそいつらからこの計画を買い取ったから、雇い主はお前じゃない。つまり、お前らはエラソン辺境伯から身代金を頂く為の餌だ」


 チンピラ達のボスと思われる体格の良い禿げ頭に目じりに傷がある男が不敵にニヤリと笑うと、チンピラ達に指示をする。


 マジデールとゴーマス男爵は羽交い絞めにされ、すぐ身動きが取れなくなった。


「ガキども、お前らはおまけだから見逃してやってもいいぞ?あんまり金にもならなそうだしな。それに、こっちはこれからエラソン辺境伯と取引しないといけない忙しい身だ。だからお前らに構っていられない。──まぁ、俺達がこの辺境伯の坊ちゃんの計画からお前らを助けてやったんだ。もしもの場合、不利な証言はしないよな?」


 ボスの男は意外と話が分かる人物のようだ。


 リューはボスの言う通りの条件を飲んで帰っても良いところではある。


「た、助けて……!」


 怯えたマジデールがリュー達に懇願した。


 ゴーマス男爵の方は、顔を強張らせながらもまだ、冷静なようだ。


「……はぁ。──ボスの方。エラソン辺境伯と事を構えるのはちょっと不味いかもしれないですよ。辺境伯は子供の育て方は間違っていますが、かなりのやり手なのは確か。それにこの街は今や王家直轄領。身代金目当ての取引はみなさんどころかその家族や一族郎党にも罪が及ぶかもしれません」


 ボスの男に話が通じるかわからないが、見逃してくれようとした代わりにリューはアドバイスした。


「……助けてやろうとしてやったのに、奇妙な事を言いやがるガキだ。物怖じもしていないと来てやがる。それとも王都の連中は感覚がおかしいのか?」


 どうやら、リュー達が王都から来ている事も知っているらしい。


 マジデールがコモーノ一家とやらに、そこまで情報を流していたのだろう。


「そういうわけではありませんが、僕も裏社会の事はそこそこ知っている方なので親近感が湧きました。だからこの身代金狙いはかなり危険だと警告しておこうかなと」


 リューは最終的な警告のつもりでやんわりと答えた。


「ほう。道理で肝が据わっているわけだ。王都にはうちもコネがある。お前らもそのコネを使って身代金を請求してもいいんだぞ?」


 ボスはリューの方も軽く脅してきた。


「そうなんですか?ちなみにそのコネはどの組織とあるのでしょうか?」


 リューは興味を惹かれて聞き返した。


「本当に奇妙なガキだな……。──聞いて驚け、王都と言えば、『闇組織』の後継と名高いあの『竜星組』よ!うちはその流れの下部組織にコネがある」


「……なるほど。身代金狙いの地方組織と関係性のある下部の組がうちにいるのは、上に立つ身としては見過ごせない……」


 リューがそうつぶやくと、場の空気の温度が一気に下がったような雰囲気に陥った。


「なっ!?」


 ボスの男はいち早くその変化に気づいて、目の前にいる少年が大きく見える錯覚に陥った。


「このガキどもは殺せ!」


 ボスの男は、本能的に後ろに飛びのくと、チンピラ達にリュー達を片付ける様に命令した。


 丁度、マジデールとゴーマス男爵を縛り上げ、目隠しと猿ぐつわをしてどこかに運ぼうとしていた事もあり、突然、容赦のない命令に驚くチンピラ達であった。

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