第364話 難しそうな話ですが何か?
トレドの街でのある日の事。
「それは宿題ですか?僕は地元南部の名門学校で三年連続トップの成績を残しているのですよ。ライバルらしいライバルもいないくらい圧倒的に。エリザベス王女殿下も王都の学校では成績優秀だそうで、研鑽に励んでおられるのですね、素晴らしいです。わからない事があったら僕にお聞きください。何でもお教えますよ。周囲の凡人達は聞かれてもお答えできないでしょうから」
王女リズと、リュー達が街長邸のテラスで学校の宿題を一緒に解いていると、エラソン辺境伯の嫡男であるマジデールが自分の自慢を挟みながら失礼な言葉を吐き、挑発的な視線をリューに向けてきた。
それにはリーンとスード、そして、ランスもカチンときたのか、マジデールに対して一斉に鋭い視線を送った。
さすがにこれにはマジデールもたじろいだ。
「マジデール殿、私の友人達への誹謗は止めて頂けますか?それに、こちらにいるリュー君……、ミナトミュラー準男爵や、リーンさんは私以上に優秀ですよ」
王女リズは、マジデールの発言を咎めた。
これにはマジデールも焦った。
下級貴族のリューを庇うとは思っていなかったのだ。
「し、失礼しました。……それにしても、王女殿下以上に優秀とはそれはまた、興味がありますね。ちょっと、宿題を見せてもらっていいかな?」
マジデールはそう言うと、メンバーの中で一番格下っぽいランスの宿題を強引に取り上げると、内容を確認した。
「……た、確かにかなり難しい問題を解いている様だ。ですが、僕なら時間を掛ければ解けない事も無いですよ」
マジデルは想像以上に難しい問題が書かれた問題用紙に明らかに狼狽えるのだった。
「この問題は王女殿下やリュー、リーンの解いている問題とはまた別だぜ?」
ランスが、マジデールから問題用紙を取り返すとそう答えた。そして続ける。
「俺とスードの問題用紙は標準の簡単なものだけど、王女殿下とリュー、リーンの解いている問題はまた別の難しいやつだぜ?それが解けるなら王立学園トップレベルだけどな」
「何!?」
マジデールはリューの傍に早足で歩み寄ると問題用紙を掴んで目を通す。
一時、食い入るように問題を上から下まで読み返していたが、言葉が出てこない。
余程難し過ぎたのか、虚勢を張る事もできず、固まっている。
その問題用紙をマジデールの手からリューが取り返した。
「君の学校も優秀なんだろうけど、僕達も国内一の学校に通っている誇りがあるからね、あまり挑発はしないでもらえるかな」
リューはそう答えると、問題を解き始める。
マジデールはその様子に固まる。
自分には問題の意味さえ理解出来ずにいたのに、王女に媚びて準男爵の地位を得た小僧(とマジデールは勘違いしている)は、問題をスラスラと解き始めた。
もちろん、その答えが合っているのかもわからないのだが、その解く姿に迷いがない。
そこへリーンがリューの解答を覗き込んで確認すると、
「あ、そういう事なのね!私、ザック名誉教授著『魔法大系理論』に書かれているムズイ方式が正解かと思っていたわ!」
と、納得してリーンもスラスラと書き始める。
「……そういう事なの?私はクライトン教授の書いた論文が参考になっているとばかり……。確かに、リュー君の答えの方が魔力転換の面から効率的な気がするわ」
と、王女殿下もリューの解答を覗き込んで確認すると、驚きつつも理解して答えを解き始めた。
三人の間で何やら難しいやり取りが交わされ始めた為、マジデールは何を言っているのか微塵も理解出来なくなっていた。
「サーバン期の古代理論の方が、無駄も多いけど、真理に近かったりするからね。無駄さえ省ければこの理論も意外に証明出来るかもしれない」
と、リューが、何となく凄そうな事を言ってのけると、マジデールは何も言えず、ただ体を硬直させていた。
自分が全く理解できない事をまだ下の学年のはずの三人が当然の様に理解して問題を解いているのだから仕方がないだろう。
その姿に王女が苦笑する。
自分もリューとリーンの凄さに驚かされた時、こんな感じだったのかもしれないと思っての自嘲気味な苦笑であったのだが、マジデールは自分が呆れられたと思ったのだろう顔を赤面させると、
「勝ったと思うなよ、ミナトミュラー!」
と、捨て台詞を残してテラスから室内へと逃げるように走っていくのであった。
「何で僕が捨て台詞を言われるの!?」
リューはこの場からいなくなったマジデールにツッコミを入れる。
「はははっ!今回も痛快だったな。さすが、リュー。マジデールも完膚なきまでに叩きのめされてたな!」
ランスがマジデールの表情を思い出してツボに入った様に笑う。
「さすが主です。これで奴も主に対して失礼な態度はもう取れないでしょう」
とスードがリューを称賛した。
「いや、ちょっと待って!僕は何もしてないからね!?」
リューは、二人の賛辞にツッコミを入れた。
「今回はどちらかというと、リズの苦笑が止めを刺した感じだわ」
リーンが友人に話を振った。
「私なの?確かに苦笑はしたけれど……。私、自嘲のつもりだったのよ?」
王女リズは困った顔をする。
「どちらにせよ、いい気味だよ。あの坊ちゃん、負けた事なさそうな自信家だったからな」
ランスが王女リズに答えると、それに賛同する様にリーンとスードも頷くのであった。
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