第348話 元伯爵ですが何か?

 リューを含めた王女一行は、シーパラダインの街から西に半日も移動すると、王家直轄領に入った。


 そこは旧モンチャイ伯領であり、さらにここから西に向かうと南部派閥首領であった旧侯爵領の領都であったエリザの街がある。


 最終目的地はそのエリザの街であるが、王女リズは新たな王家直轄領一帯に赴き、王家の威光を見せる必要があったから、各地を数か所巡って到着する予定になっている。


 旧モンチャイ領は、ランドマーク家に下賜したシーパラダインの街を領都にしていたモンチャイ伯爵の領地の一部で、王家直轄領に組み入れられているのだが、領境の村に到着して一行が馬車から下りると、村人達が歓待してくれた。


「ええい! 貴様らどけ、どかぬか! 道を開けよ!」


 その人混みをかき分けてやってくる集団があった。


「王女殿下、後ろにお下がり下さい」


 ヤーク子爵が今回の王女リズの護衛を任された近衛騎士団の隊長として、この接近してくる集団の前に立ちはだかった。


 リューも、リーン、ランス、スードと共に、王女リズを護る為、傍で剣に手をやる。


「王女殿下! 我々は王家の忠臣であったモンチャイ伯爵家所縁のものです! どうかお目通りを!」


 そう言って前に出て来たのは、モンチャイ元伯爵本人であった。


 今は、爵位を剥奪されて平民に落とされるという厳正な処罰が行われ、領都であった旧モンチャイの街(現・シーパラダインの街)から立ち退きを迫られ、現在の王家直轄地である旧モンチャイ領に移り住んで雌伏して時が来るのを待っていたのだ。


 そこに王女一行がやって来る事を耳にし、一族で再起を図って王女の前に現れたのであった。


 それにしても、王家の忠臣だったなら、王家により直々に昇爵されたランドマーク家に手を出すのは誤りだったのだ。


 どうやらこのモンチャイ元伯爵は、まだ、そこが理解できていないらしい。


 それに、侯爵の南部派閥は、エラインダー公爵派閥とも親密な仲であったから、モンチャイ元伯爵を王家の忠臣であったとは思いづらい。


「さがれ、モンチャイ!王女殿下の御前で失礼であるぞ!」


 マカセリン伯爵が、モンチャイ元伯爵を叱責する。


「マカセリン伯爵、昔、揉めた事もあるが同じ伯爵だった誼だ。王女殿下にお目通りを!」


「下がれと言っている!」


 ヤーク子爵が、近衛騎士に目で合図すると、騎士達がモンチャイ元伯爵とその一族を押し返した。


「ヤーク子爵だな!?どけよ、私は仮にも元伯爵だぞ!この騎士達をどけぬか!」


 モンチャイは、まだ、過去の栄光が忘れられないのだろう。


 今やただの平民だ。


 とはいえ、財産も手元にいくらかあるはずなので、裕福な暮らしは出来ているはずで、実際、その姿は裕福な貴族時代と一切変わらない出で立ちであった。


「貴様も元貴族なら、王家への礼儀も弁えているはず。それとも、旧侯爵の南部派閥ではその様な礼儀も教わっていなかったのか!この愚か者が!」


 マカセリン伯爵が、モンチャイを痛烈に叱責した。


「我々は侯爵に騙されていただけだ!それに、ランドマークは、元平民の成金小貴族。私はその狡猾な成金小貴族の罠に掛かってしまっただけだ。──王女殿下、忠臣であるモンチャイ家にお慈悲を!もう一度、我々に爵位を賜れますよう、陛下に助言をお願いします!さすれば、このモンチャイ、あの卑怯で狡猾なランドマークの化けの皮を剥がして見せます!」


 モンチャイの責任転嫁と、ランドマーク家への侮辱は、リューにとって許されるものではなかった。


 そんな怒り心頭のリューに気づいてリーンが、


「スード、ランス!リューを押さえて!」


 と、声を掛けた。


 二人はリューの殺気にギョッとして、リーンの言葉に従った。


「リュー、我慢しろよ、ここであいつをやるのは駄目だ!」


「主、怒りを抑えて下さい!」


「リュー、駄目よ!」


 ランスとスード、そして、リーンが三人がかりでリューを止める。


「黙りなさい、モンチャイ!あなたの言い分は、すでに国の法に基づいて裁かれた事。それを無視するという事は、王家の決定に異を唱える事と同じ。さらに、忠臣であるランドマーク伯爵家への誹謗中傷、この私が許しません!」


 王女リズは、一歩前に出ると、集まっている村の者達全員の耳に通るような鋭い声で𠮟責した。


 その王家の者に相応しい威厳と、透き通るような声、そして何より、後光が差し光り輝くようなその荘厳な雰囲気の姿に、その場にいた誰もが呑まれるのであった。


 リューは王女リズが見た事がないほど怒り、声を張り上げてモンチャイを叱責した事に驚き、怒気も思わず収まった。


「……リズも怒る時は怒るのね。ビックリしたわ」


 リーンも、友人の意外な面を見て驚き、半ば感心するのであった。


 モンチャイは王女の怒りに触れて、その開いていた口を閉じた。


 ヤーク子爵はすぐにモンチャイと一族の者達を取り押さえる。


「王家への侮辱罪は重いぞ、モンチャイ。前回は爵位剥奪だけで済んだ事の意味を理解できていなかった様だな。──村長、この者達を兵士に引き渡すまで拘束しておけ。その費用は、あとで全てこちらで引き受ける」


 マカセリン伯爵は、そう言い渡すと、モンチャイと、その一族は引き立てられて行くのであった。


「多分あの者は、身なりは良かったですが、あれほど必死になるところを見ると、財産の方は散財して底をついていたのかもしれませんな」


 マカセリン伯爵に、ヤーク子爵が庇うでもなく進言した。


「人間そう易々と生活水準は落とせないというからな……、愚かな事だ。──王女殿下、水を差されましたが、次の地へ移動しましょう。──村長、邪魔が入ったがこの村の精一杯の歓待は忘れぬぞ」


 マカセリン伯爵は、おろおろしていた村長にそう伝えると、リューと王女一行は馬車に乗り込み、次の地へと移動するのであった。


【あとがき】


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


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それでは続きもお楽しみ下さい(。・ω・)ノ゙♪

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