第338話 王女の初日ですが何か?

 王女一行を迎えたこの日、ランドマーク領の方でもランドマーク伯爵が領主として歓迎式典を行った。


 翌朝には南部の王家直轄地に向かう予定になっていたので、お昼からの式典は形だけの控えめなものが行われた。


 これは王家側の官吏との打ち合わせ通りだったから、問題は無かったのだが、その式典が終わった後、リューがエリザベス王女に同級生の感覚で領都を案内すると提案したものだから、近衛騎士団隊長であるヤーク子爵が目くじらを立てた。


「ミナトミュラー準男爵!王女殿下に対してきやすく声を掛けるとは無礼千万であるぞ!身の程を知れ!」


「待たぬか、ヤーク子爵。ミナトミュラー準男爵は、王女殿下とはご学友なのだそうだ。もちろん、親しき中にも礼儀あり。学外での態度には気を付けて貰わないといけないが、準男爵も王女殿下への気遣いからだ。そう目くじらを立てる事でもあるまい」


 今回の一団を任せられているマカセリン伯爵が、年長者らしくおおらかにリューを庇って見せた。


「ご学友ですと!?」


 ヤーク子爵は、驚いてリューを確認する様に見た。そして、続ける。


「いや、しかし。優秀な王女殿下と一般生徒ではやはりその差を自覚して貰わないといけないでしょう」


 ヤーク子爵は、エリザベス王女をかなり評価している様だ。


 その王女殿下より、一応、成績は上ですよ?


 さすがに口に出して言うわけにもいかなかったので、リューは心の中で指摘した。


「ヤーク子爵、少し不勉強が過ぎるぞ。このミナトミュラー準男爵は、現在の王立学園において王女殿下を超える程の成績を残している人物。もちろん、成績で人を判断するのは軽率ではあるが、学園外でも準男爵は酒造関係でも名を馳せている人物。子爵も聞いた事くらいあるであろう。『ドラスタ』や、『ニホン酒』の名を」


 マカセリン伯爵は下調べしてあるのか詳しく説明した。


「え!?この準男爵が王女殿下より成績がいいですと!?──それに、自分はお酒は一切飲まないのでわかりませんが、有名なのですか?自分が聞いた事があるのは、ボッチーノやヨイドレンですが?」


 ヤーク子爵は信じられないとばかりに、リューをもう一度見直す。


 どっちも、潰れかけてる酒造商会ですよ?


 リューは、お酒を飲まない人の知識ならこの程度なのかなと、がっかりするのであった。


「とにかく、ミナトミュラー準男爵は、今回、そういう事も評価されて陛下直々に指名された人物の一人、ヤーク子爵も王女殿下の護衛に集中しているのはわかりますが、関係者の情報もしっかり入れておいた方がよろしいですぞ」


 マカセリン伯爵の説教にヤーク子爵もさすがに気落ちしたように見えた。


「僕も王女殿下にきやすく声を掛けてしまったかもしれません。今後気を付けます」


 リューは、ここが落としどころだろうと、進んで反省してみせた。


「よいのですよ、ミナトミュラー君。公式の場ではないです。友人としてミナトミュラー君や、リーンさん、スード・バトラー君、ランス・ボジーン君がいるのは心強いです」


 そう、王女の言う通り、友人が何人も傍にいる。


 ランスは父ボジーン男爵の代理的な立場でエリザベス王女の側近として今回付き従っていたのだ。


 ちなみに、リューの側にはリーン、スードの他にイバルも付き従っている。


 イバルは、リューの留守中も働いているつもりでいたのだが、リューがこっちも仕事だからと理由をつけて連れて来ていた。


 イバルは放っておくとミナトミュラー家の為に黙々と働き続けるから、休みも兼ねてこちら側に回って貰ったのだ。


 そのイバルは、前日からランドマーク本領入りしてミナトミュラー家の部下と共に先行して安全の確保を行っている。


 リューは、ランドマーク領内だから、本家側に任せてこっちに合流していいよと言ってはいたのだが、動いていないと気が済まない様だ。


「そういう事だそうです……」


 リューはヤーク子爵が恥をかいた形になっているので、これは少しマズいと思い、控えめに言った。


「……わかりました。ですが、公式の場では王女殿下に粗相が無い様に気を付けて貰いたい。下への示しがつかないからな」


 ヤーク子爵は本当に王女殿下の事を考えての事だった様だ。


 ぐっと堪えてそう言うとその後は何も言わず、エリザベス王女の傍に付き従うのであった。


「それでは、まず、うちの自宅の一番高い塔の上から領都の風景を楽しんで貰いましょうか」


 リューはそう言うと、エリザベス王女こと、リズを案内するのであった。



 リューは、塔の上から眼下に広がる領都の街並みの特徴を言いながら一つ一つ指差して説明する。


 王女はリューの説明を聞きながら、領都を囲む城壁に注目した。


「そんなに高い城壁ではないけれど、地形をよく理解し、領都の発展を計算した作りになっていますね。さぞかし高名な技術者が携わったのでしょう」


 と、感心するリズ。


「さすがリズ。そこに気づくなんてやるわね!」


 と、リーンが誇らしげにリズの見識を褒めた。


「王女殿下を気安く愛称で呼ぶなどと!」


 ずっと背後で黙って見守っていたヤーク子爵が、リーンの気安い言葉に反応して怒るのであった。


「まぁまぁ。二人は気心が知れた友人同士、非公式の場では勘弁してあげて下さい」


 と、リューが宥めに入った。


「ヤーク子爵。ミナトミュラー君の言う通りよ。彼女は私の親しい友人。こういう場では、見逃して上げて」


 と、リズも宥めに入った。


「……王女殿下がおっしゃるのであれば……」


 ヤーク子爵は、リズの言葉に逆らえず、我慢するのであった。


 そこで改めて、リューが城壁について説明する。


「城壁全体の設計は祖父と僕が。城壁自体は僕とリーンが二人で時間を掛けて作りました。城門は小さいですが父と僕が拘って作りました」


 その言葉に驚くリズとヤーク子爵。


 まさか専門家ではないはずのリューとリーンが関わっているとは思いもよらなかったのであった。


「ミナトミュラー君とリーンさんは本当に何でもできるのね……。学校の成績だけでなくいろんな面で私では敵わないわ」


 リズはこの二人の友人の能力の高さに改めて感心し、尊敬の念を改めて持つのであった。

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