第336話 誰かが訪問しますが何か?

 リューは王宮の広場にて、準備万端、待機していた近衛騎士団の面々を、次から次に移動先であるランドマーク本領まで短時間で運ぶのであった。


 リューと手を繋いだ近衛騎士団の騎士達が消えていく様に、残されている者達からは動揺する声が上がるのであったが、リューは構わず、仕事とばかりにポンポンと消して見せた。


 そして、最後の騎士と一緒に消えると、十分ほど戻ってこなかった。


 待っていた隊長であるヤークはその十分が永遠とも思える時間であったが、突如リューがパッと姿を現したので「わっ!?」と、驚いた。


「あ、すみません。驚かせましたか。──あちらでは、父ランドマーク伯爵が、近衛騎士団のみなさんに直接対応していますが、隊長であるヤークさんも会っておいた方が良いと思うので案内しますよ」


 リューはそう言うと、まだ、躊躇しているヤークの手を半ば強引に掴み、一瞬でランドマーク本領まで移動するのであった。


「こ、ここは!?」


「ようこそ、ここが王国南東部に位置するランドマーク伯爵領です。目の前の城館がランドマーク家の自宅になります」


 リューが、戸惑うヤークに説明する。


 周囲には先に運ばれて来た近衛騎士団の騎士達が、父ファーザに明日の歓迎式典についての説明を受けていた。


 リューは父ファーザに隊長であるヤーク子爵を紹介する。


「ヤーク子爵ですね? お勤めご苦労様です。私は領主のファーザ・ランドマーク伯爵。こちらが、嫡男のタウロと次男であり最近魔法士爵になったジーロ・シーパラダインです」


「今回は王家の方が初めて訪れる地。警備の為にもご協力お願いします」


 ヤークは隊長としての威厳を見せて、近衛騎士団の誇りである鎧姿で堂々と父ファーザと握手をする。


 二人は挨拶の言葉を程々に、すぐ、仕事の話になった。


「リュー。久しぶりだけど、ぼくは先に行ってシーパラダインの街で歓迎準備しておくね」


 学校から久しぶりに自宅に帰って来たばかりのジーロが、出発の為に馬車に乗り込みながらそう告げた。


「お疲れ様、ジーロお兄ちゃん。あっちではギンが、準備しているんでしょ?」


 ジーロの代理で、シーパラダインの街の統治を任されているギンは、優秀だが強面で誤解される事が多いランドマークビルの管理者であるレンドの元部下の名前である。


「そうだけど、一応僕が街長だからね。何かあったらぼくの責任だから、行ってしっかり王家の方の受け入れ態勢を作っておくよ」


 次男ジーロはそう答えると兄タウロにも手を振って、先に出発するのであった。



 隊長のヤークが父ファーザと打ち合わせをして、部下である騎士達に役割を指示すると、リューと一緒に王宮に戻る事にした。


「本当に王宮まで一瞬ですな……」


 戻って来たヤークは改めて驚くと感想を漏らした。


「それでは、明日、本番当日に王家の方を運ぶという事でいいですね?」


「その時はよろしく頼む」


「ところで王家の方とは誰でしょうか?」


 リューは一番肝心の部分をダメ元で聞いてみた。


「王家の人々の命を狙う不届き者もいるから、当日までそれは言えないのだ」


 ヤークは、王家への忠誠心は本物の様だ、機密事項はそう簡単に説明してくれない。


「準備もあるのですが……」


 リューの言う事にも一理あった。


「それは、こちらから用意した使用人達が準備するから大丈夫だ。明日はそれら使用人の移動も入っているから、ミナトミュラー準男爵は明日に備えて今日はごゆっくりなされよ」


 ヤークはそう答えてリューに一礼すると、仕事に戻っていくのであった。


「失礼な態度が、無くなってたわね」


 リーンが、ヤークの最後のリューに対する一礼を見てそう指摘した。


「主の真の人間性に敬服したのでしょう」


 護衛役であるスードが、胸を張って自慢げに言う。


「はははっ。本当のところは、どうかわからないけど、少しは認めて貰えたのかもね。明日に備えて今日はもう帰ろうか」


 リューはリーンとスードにそう答えると、王宮メイドの案内の元、王宮を後にするのであった。



 そして、翌日。


 リューは、王家の人物にあっても失礼がないように、髪を整え、式典用に作らせた服を着て王宮を再度訪れた。


 リーンもスードも同じく用意した服を着ている。


 と言っても、リーンは動きやすいように男物の服であったから、いつもと雰囲気が全く違った。


「男物の服ってやっぱり動きやすくていいわね」


 気に入ったのかクルっと回ってリーンはリューに確認する。


「二人共、王家のお偉いさんを案内するんだから失礼がないようにね」


 リューは、近衛騎士に王宮内を案内されながら、注意した。


「も、もちろんです!」


 スードはやはり、緊張してカチコチだった。


 これは、慣れて貰うしかないだろう。


 リュー達は、苦笑いして王宮内の広場に案内されるのであった。


 広場では、簡単に式典が行われた。


 王家の人間が南部の王家直轄地に今の代で行くのは初めての事である。


 そこには国王陛下がいた。


 まさか、王家の人物って、国王陛下!?


 驚くリュー。


 だが、よく見ると、そこにはエリザベス王女も並んでいる。


 他にも見た事がない王家の偉そうな人物達が並んでいたから、誰を送り届けるのかわからない。


 しばらく式典を眺めていると、国王陛下がエリザベス王女を招き寄せて抱きしめる。


「それでは、エリザベスよ。南部の様子を見てまいれ。そして、王家の威光を示してこい」


 その言葉で、リューはやっと、同級生であるエリザベス王女こと、王女リズをランドマーク領に案内するのだと、理解したのであった。

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