第332話 年の離れた友人ができましたが何か?

 リューは、自分が初めて主催する貴族相手のパーティーを開く事になった。


 招待する貴族はマーセナルの人選に任せている。


 そして「内輪の細々としたものなので、気兼ねなくご参加を」と招待状には記しておいた。


 とはいえ、リューのパーティーの基準は、学校の大ホールを貸し切って行ったものが基準である。


 それと比較しての「細々」であったので、十分大きな立食式のパーティーであった。


 用意された料理もランドマーク譲りの珍しいものばかりであったし、室内の飾りはマイスタの職人が贅を凝らした一点物の置物や、彫刻などが豪華絢爛に飾られていて、招待された下級貴族達は街長邸内に踏み込んだ瞬間、ここで初めて自分達が、どんなに凄い相手にゴマを擦ろうとしていたのかを知る事になった。


「……前回訪問した時とはまるで違う室内だ……」


「見てみろ、あの彫刻、いくらするんだ……?」


「その彫刻の女性像に掛けられた装飾品も見てみよ。あれだけでうちの屋敷が数軒買えるのではないか……?」


「これが、与力という立場である準男爵のパーティーだというのか……?」


 その場に圧倒される下級貴族の面々であったが、よく見ると招待客の中には幾人かの子供も混ざっている。


 最初、「ああ、準男爵と言ってもミナトミュラー殿もまだ、今年で十三歳の子供。遊び相手も招待しているのだろう」と、少し落ち着く下級貴族達であった。


 しかし、よく見ていて、誰もが凍り付いた。


「あれはもしかして……、ラソーエ侯爵の令嬢ではないか?傍にいるのは、マーモルン伯爵のご子息だ……!」


「その二人と談笑しているのは、王家の執事と謳われているボジーン男爵のご子息では……!?」


「他に、何人かいるが、きっとミナトミュラー準男爵が通われている学校のご学友という事か……!?」


「え?という事は……、ミナトミュラー準男爵は王立学園の学生なのか……!?」


 勢いに乗っていると噂のリューに接近して、箔をつけるという下心丸出しで勇んで訪れた「細々」としたパーティーのはずだったが、下級貴族達にとっては自分達の思惑が如何に愚かであったかをまた、再認識する事になった。


 なにしろ王立学園といえば、貴族であっても成績優秀者でないと入学できない学校である。


 王立学園を卒業できれば、下級貴族であってもエリート街道まっしぐらと言われているので、リューは最年少の準男爵というだけでなく、莫大な財産を所有し、学歴もある事になる。


「誰だよ、今、巷で有名な子供下級貴族と仲良くなっておけば、得になるって安易な提案をした奴」


 下級貴族の一人が、言い出しっぺの下級貴族にぼやく。


「お前だって、金に目が眩んで同意してただろ……!仲良くなっておけば、お金にも困らなくて済みそうだって……!」


 軽いつかみ合いになっている下級貴族同士の口論をよそに、オイテン準男爵とその妻、そして、五歳の嫡男も、パーティーの規模に圧倒されていた。


「あなた……。私達、場違いでは……」


 オイテン夫人は嫡男の手を強く握って心を落ち着かせつつ、歳の離れた夫である老紳士、オイテン準男爵に声を掛けた。


「……だが、それでも、この子の為だ。これだけの贅を尽くしたパーティーを開けるミナトミュラー準男爵家と友好関係を結べれば、この子の未来も守られる」


 怖気づいていたオイテン準男爵は、自分に言い聞かせるように、妻につぶやいた。


「そうね……、この子の為ですものね……。あなた、ミナトミュラー準男爵に挨拶しに行きましょう……!」


 オイテン夫人も息子の為と腹を括ったのか、息子の手を引いて夫に従うのであった。



 その時、リューは招待した貴族一人一人に簡単な挨拶をして回っていた。


「──今日は、よくお越し下さいました。楽しんで行って下さい」


 何人目かわからない下級貴族と挨拶を交わして、次はどの貴族か、執事のマーセナルに確認した。


「──若様。向かって五時の方向、オイテン準男爵も来られた様です。ここは盛大に歓迎しましょう」


 マーセナルがリューに耳打ちする。


「うん、わかった。──これは、オイテン準男爵、ようこそお越し下さいました!そちらは夫人とご嫡男ですね?お会いできて光栄です」


 リューは、これまでの貴族とは違う歓迎ぶりを見せつけた。


 ほとんど初対面のはずのリューからのまさかの歓迎ぶりに、オイテン準男爵は内心驚くのであったが、そこは老紳士、表情に出す事もなくリューと挨拶を交わし、家族も紹介して見せた。


 この人は、伊達に歳を取っていないな。マーセナルの情報では元武人であったとか。肝は座っているみたいだ。


 リューはこの一点だけでも好感が持てた。


 オイテン準男爵の領地は、同じ王都の北にあり、リューのマイスタの街とも遠くない距離にある。


 それに寄り親のノーズ伯爵は代々王家贔屓の無派閥出身貴族であるから、領地的にも仲良くなっておいて損はない。


 夫人も少々緊張しているが、息子の手を握って勇気を貰っているのか、リューの質問にもしっかりと答える。


 そして、何より五歳の息子がしっかりしていた。


「名前は何と言うんだい?」


 リューが、名前を聞くと、


「僕の名前は、ワース・オイテン、五歳になります!」


 と、はきはきと答えた。


 この歳でしっかりした物言いだなと感心していると、


「ミナトミュラー準男爵様は、おいくつですか?」


 と物怖じせずに聞き返してきた。


 これは、本当に近所の誼というだけでなく、友人になっておいた方が本当に良い人達だ。


 と、リューはこの家族の事はリーンやマーセナルの前情報だけでも好感を持っていたが、実際に話してみてさらに好きになった。


「僕は十二歳だよ。もうすぐ十三歳になるけどね」


「お若いのですね。その歳で、叙爵されているなんて凄いです!」


 五歳とは思えぬ感想に未来を感じたリューは、今日のパーティーを開いた事に、大きな収穫を感じたのであった。


 リューが、オイテン準男爵とその一家に沢山の時間を割いて歓迎する事で、下級貴族達が今まで眼中になかったこの老貴族に一目置く事になり、オイテン準男爵の名に箔が付く事にもなった。


 こうして、リューとオイテンという年の離れた二人の友好が結ばれる事になる。


 オイテン準男爵はこれを恩に感じ、今後、リューの数少ない爵位持ちで歳の離れた貴族の友人として色々と動いてくれる事になる。

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