第316話 パーティーの時期ですが何か?

 この時期、前世の学校なら中間テストなど行事が目白押しであるが、王立学園の三学期は大きなテストが存在しない。


 それは、卒業する四年生の就職活動で学校側が忙しい事が第一に上げられる。


 もうひとつは、新たな学年になる事に向けて準備をする学期という位置付けもある。


 また、一年間の集大成として、学年毎のダンスパーティーや学生社交界による交流などで関係を密にする事を重要視している。


 これらは主に特別クラスを中心に行われる行事であったが、普通クラスにも貴族の子弟は多く、平民出身の生徒で優秀な者も多いので、招かれる事が多かった。


 そうなると平民出身でも成績が振るわない者は、ほぼほぼなんの関係もない学期という事になるのだが、今年の一年生は違った。


 王女クラスが学校の大ホールを貸し切り、一年生の交流の場となる全員参加型パーティーを行う事を決めたのだ。


 これには普通クラスの生徒達が驚いた。


 いくら学校が平等を謳っているとはいえ、貴族と平民の間には埋められない溝がある。


 逆に、貴族や優秀な者と、能力に優れない平民の差をはっきりさせる為の学期だと思っていたのだ。


 それが、全員参加のパーティーである、前代未聞であった。


「俺、パーティーなんて初めてなんだけど……?」


「みんな同じだって!」


「何を着ればいいんだ?」


「王女クラスのミナトミュラー君が学校の一室を貸し切って、貸衣装を用意しているって言ってたよ」


「貸衣装?」


「そこで借りるもよし、参考にするもよしって言ってた」


「それは助かる! 早速、見に行こうぜ!」


 パーティーは、三学期の間、有力貴族の子弟を中心に各場所で行われる事が多いのだが、王女クラスの様に、クラス総出で行うのは初めての事であった。


 学校側も大ホールを貸し出しはしたが、大丈夫か心配なところである。


「でも、リズ。準備は大丈夫?裏方にも沢山人が必要だと思うけど?」


 リーンがエリザベス王女を愛称で呼ぶと、率直に疑問を呈した。


「ええ、今のところは大丈夫よ。クラスのみんなも張り切って人員を出してくれているから。ミナトミュラー君のところも貸衣装のアイデアを出してくれたから良かったわ。私はそこまで考えが及ばなかったもの」


 エリザベス王女は、リューの提案に感謝した。


「仕方ないよ。貴族の子弟はともかく、平民出身者には、パーティー衣装を持っている子の方が圧倒的に少ないからね。短期間で自分の衣装を用意するのも大変だし、貸衣装が妥当だと思ったんだ」


 リューは、マイスタの街に仕立て職人など、裁縫関連の人材を抱えているから、衣装をかき集める事は比較的に容易であった。


 パーティー衣装の貸し出しという発想は、この世界では無いものであったが、今回はそれが役に立ちそうであった。


 現在、学校の一室に貸衣装の展示と仕立てを行うスペースを用意しており、そこにはマイスタの職人達が待機している。


 急遽衣装を用意できそうにない平民出身者達が、連日そこに押し掛け、ごった返していた。


 特に女性はドレス選びに余念がなく、良いデザインのものは早い者勝ちなので取り合いになりそうであった。


 そこに、マイスタの職人が、新たに仕立てたドレスを投入すると女子生徒達は血眼になるのだが、予約の順番があるから本格的な争いにはならずに済んでいた。


「十日後のパーティーが楽しみだね。初めてパーティーを経験する人も多そうだしみんなにとっていい経験になるよ。僕も初めてだし」


 リューは、楽しそうにみんなに言う。


「え? リューは、パーティー初めてなのか?」


 ランスが驚いて聞き返す。


「私も初めてよ。身内のものはあるけど、招待される事なんてないもの」


 リーンも、当然とばかりに答える。


「最年少の準男爵リューも、学生だからお呼ばれされる機会はまだないのか。それによく考えたら社交界デビューもまだ先だもんな」


 シズの幼馴染であるナジンがリューの特殊さを改めて感じる様に言った。


「……そうだね。ランス君とナジン君は十四歳だから社交界デビューしてるけど、私達はまだあと二年あるものね」


 シズが、ナジンの言葉に賛同して付け加えた。


「二人はもう、経験してるんだ?どんな感じなの社交界デビューって」


 未知の領域にリューは興味を持った。


「大した事ではないんだけどな。みんなの前で自己紹介して、同年代のみんなとダンスさせられ、それが終わったらお世辞ばかりの会話を聞かされるだけさ」


 ランスは、うんざりしたと言わんばかりに嫌な顔をした。


「ランスは苦手かもな。だが、あれも大人の仲間入り前の挨拶だからな。今後、学校を卒業した後の人脈作りの場にもなるからあれはあれで必要な事さ」


 ナジンは、大人な発言をする。


「……ナジン君も疲れたって言ってたじゃない」


 シズは、クスクスと笑うとナジンをからかうのであった。


「私も、同意よ。パーティーはうんざりだもの。でも、王家の人間として義務だと思っているから必要な事として参加しているわ」


 エリザベス王女から意外な言葉が聞かされた。


「王女殿下の口から意外な言葉が聞けたな。ははは」


 ランスが、王女の愚痴を軽く笑った。


「リズも人なのよ。愚痴の一つも言うでしょ」


 リーンがエリザベス王女を庇う様に指摘した。


「ふふふ。ありがとう、リーン。──みんな、私が愚痴を言った事は内緒にしてね」


 エリザベス王女は、茶目っ気を見せてお願いする素振りを見せた。


「ははは!そんな愚痴が出ない様な楽しいパーティーにしようね!」


 リューが、そう答えると、隅っこグループの面々はそれに賛同するのであった。

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