第315話 侯爵も終わりですが何か?

 南部派閥の長である侯爵は恥も外聞もなく、スゴエラ侯爵とリューに許しを求めた。


「侯爵、ここまで問題を大きくしたのは、貴殿とモンチャイ伯爵を中心とした南部派閥全体でのランドマーク伯爵家への嫌がらせが原因である。村民同士の争いに見せかけて自領の兵士を送り込み領境を荒らし、評判を落とそうと計画された事は、そちらの貴族達の証言からも明白。それも認めるな?」


 スゴエラ侯爵は、侯爵に改めて確認を取った。


「……ああ。認める……。だが、本格的な殺傷沙汰はモンチャイ伯爵の独断で、私は関知していない!」


 侯爵は観念して頷いたが、今回の大騒動になる原因である部分は一部否定した。


「……それはおかしいですね」


 リューが、大袈裟に首を傾げた。


 そして、続ける。


「では、当事者であるモンチャイ伯爵に入って来て貰いましょうか。ちなみにモンチャイ伯爵は隣でこちらの会話は聞いて貰っていました」


 リューがそう答えるや否や、扉が勢いよく開かれ、モンチャイ伯爵が入って来た。


「侯爵、それは酷い!私はあなたの指示に従っての事!最後は自分が上手く話をまとめるから好きにやって良いとおっしゃったではないですか!」


 モンチャイ伯爵は、トカゲの尻尾切りになると気づいて全てをぶちまけた。


「も、モンチャイ伯爵、何を言う!物事には限度というものがあるだろう!私はその中でだな──」


 二人の罪の擦り付け合いが始まった。


 リューはそこに同じく隣室で控えていた父ファーザも呼び込んで一部始終を見せたのだが、父ファーザは憮然とした態度で、それを眺めていた。


 嫉妬だけで自領の村を襲撃し、村民を傷つけようとしていたのだ。


 幸いランドマーク家に恩がある南部派閥の貴族達が知らせてくれたから、事前に村民を避難させてランスキー達と入れ替え、被害を最小限にして穏便に収めようと努力していたのだが、それも武器の持ち込みによって血が流れた。


 こちらの被害は軽微だが、それでも死傷者は出ている。


 これは領境の小競り合いでは済まない問題になっているのは確かだった。


「二人が揉めている間に、あちらにまた戻り、人を連れてきますね」


 リューが、父ファーザとスゴエラ侯爵に伝えた。


「……わかった頼むぞリュー。──いいですね、スゴエラ侯爵?」


 父ファーザが、息子に頷くと、スゴエラ侯爵にも確認を取った。


「うむ。今回の事は、適正に裁かれなくてはいけないだろう」


 スゴエラ侯爵も同意した。


 リューは、頷くとまた、『次元回廊』を使って王都に戻った。


 王都のランドマークビルには、宰相の側近である官吏が待機していた。


 突然、リューが目の前に現れた事に驚いて目を見開いている。


「それでは、先程、お渡しした証拠の通り、現在ランドマーク領境で問題が起きているのでご案内します」


 と、リューは簡単な説明をした。


 そう、リューは最初から派閥間の話し合いで収めるつもりは毛頭なく、宰相に事情を説明して公平な裁きを求めていたのだ。


 王都から遠く離れた地方の問題は、近くの王家直轄領を任せている代官や軍を率いる将軍によって問題が裁かれる事が多いのだが、王都から離れれば離れる程、地方派閥は王家よりも重要視される為、実質、派閥の長に裁量を任される事も多いのだ。


 その為、地方派閥はその長が大きな力を持っている。


 逆に、その長に王家への忠誠を誓わせておけば、その一帯は丸く収まるのも事実であった。


 今回、ランドマーク家の伯爵への昇爵を不服と感じての問題であるから、宰相はこれを王家に対する不満と解釈したのだ。


 そして、これを上手く処置すれば、地方の問題も王家はちゃんと重要視しているという姿勢も見せられる。


 最近、先の大戦以降、地方の貴族政治は緩みがちであるという報告も受けている宰相的にも良いきっかけであった。


 だから、ランドマーク家からの訴えをすぐに受け入れ、側近を派遣する事を決定したのである。


 これはいわば、見せしめである。


 その宰相の側近である官吏は、リューの手を恐る恐る握ると、『次元回廊』で兵士達と一緒にランドマーク本領に移動するのであった。



 リューが、官吏と兵士を引き連れて戻ってくると、侯爵とモンチャイ伯爵の言い争いはやっと止まった。


「こ、これはどういう事だ!私は何も聞いていないぞ!?」


 官吏と王都の兵士の姿を見て、侯爵は察したのだろう、スゴエラ侯爵に食って掛かった。


「落ち着き給え、侯爵。貴殿も派閥の長なのだ、正々堂々己が正しいと思う事を伝えたら良いだろう。……違うかね?」


 スゴエラ侯爵はじろりと侯爵を一睨みした。


 さすが、先の大戦で祖父カミーザ達を率いて大軍を相手に戦った歴戦の英雄の一人である。


 その眼光は未だ衰えていないどころか鋭さを増しているかもしれない。


 その睨みに侯爵も沈黙する。


 侯爵も伊達に派閥の長ではないから恐れ戦きこそしないが、さすがに少したじろいだのはわかった。


 そこでやっと、官吏が証拠を基に尋問を開始する。


 侯爵とモンチャイ伯爵はまた、改めて罪の擦り付け合いを始めるのであったが、証拠はすでに揃っている、官吏は書類の事実の有無だけを確認すると、淡々と職務を全うし、最終判断を下した。


「スゴエラ侯爵、ランドマーク伯爵連名の訴えを認め、侯爵とモンチャイ伯爵に対し、数々の罪の疑いで引き続き王都で調書を取る事にする。二人を王都に連行せよ」


 官吏は、連れてきた兵士に命令すると侯爵、モンチャイ伯爵の二人を連行させる。


「ミナトミュラー準男爵殿、よろしいですかな?」


 官吏は、リューに『次元回廊』での移動を要請する。


「わかりました」


 リューは頷くと官吏達を『次元回廊』で王都に送り届けるのであった。


 この後、リューは捕虜の護送も手伝い、ランスキー達部下の帰郷もあったから、王都とランドマーク本領との間を何度も行き来し大変だった。


 しかし、無事全てを完了するのであった。

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