第313話 続・粉砕しますが何か?

 南部派閥連合の精鋭が集まった領境の村では、襲撃失敗と捕虜多数の報に大慌てであった。


 なにしろ今回の襲撃は手を焼いていた敵の隊長格と思われる眼帯の大男を捕らえてくる予定であったから、その後についての話し合いが行われていたのだった。


 それが、失敗、それどころかこちらの指揮官が捕まってしまったのだ。


「起きてしまったのは仕方がない。捕まった隊長以下部下の救出の為に速やかに新たな隊を編成し直して再度襲撃するのだ」


 隊長の一人が、もっともな意見を口にした。


 隊長クラスが捕まる事は最悪の事態だったのだ。


 それは、貴族間の領境で起きた村同士の争いに他の貴族も関わっている事を示す証拠になりかねないからだ。

 実際、精鋭部隊は南部派閥の各貴族から集められていたから、これが公になったら、ランドマーク伯爵の派閥の長であるスゴエラ侯爵も黙ってはいないだろう。


 そうなると派閥間の大きな争いになる。


 それは避けないといけない事態であった。


 幸いランドマーク側の村人(領兵)の数は、報告された限りではあまり増えたわけではないようだ。


 それに、襲撃撃退直後で安心しきっているだろう。


 さらに、数では圧倒されていた相手との奮戦で疲れているだろう事も容易に予想が付く。


 そんな相手に数で勝り、疲れていない精鋭部隊で再度襲撃するのは、軍略としても虚を突くという意味で間違っていない。


 数人いる隊長達はそこまで読むと、再襲撃を失敗の一時間後にはすぐに行う決断を下すのであった。




 敵が数で圧倒しているのだから、多少の失敗であっても挽回の為に再襲撃が行われるであろう事は、リューも読んでいた。


 数を用意して反撃する事は、前世の抗争でもよくある事だ。


 それに、こちらが隊長クラスを捕らえているのだ。


 取り戻さないとあちらが大変な事になる事はわかりきっている。


 リューは、襲撃犯の撃退後、すぐに部下をまとめると、争っている村間を繋ぐ道が通る森に伏せて、通過するのを待ち、指揮官と思われる者を確認すると、今度はこちらから襲撃した。


 ここでも化物子供リューの活躍で精鋭部隊を率いる指揮官をさらに捕らえてみせた。


 またもの失態に、ここでも活躍した化物子供が精鋭部隊の間でも話題になる。


 なにしろ素手で大の大人の中でも精鋭中の精鋭で組織された部隊を蹴散らすのだ。


 話題にならない方がおかしい。


 これには残った隊長達が、この事を今回の責任者に当たるモンチャイ伯爵に知らせた。


 武闘派でもあるモンチャイ伯爵は、ことの深刻さをすぐに判断した。


 それは武器の使用許可であった。


 こうなると自ずと死傷者も沢山出る事態になるので、問題は大きくなる。


 それはマズい方法であったが、隊長クラスが二人も捕まった状態ではどちらにせよ南部派閥全体の関与がバレる、そうなったら元も子も無い。


 それならいっそ、武力行使で部下を取り戻して、関与した証拠を消し、有耶無耶にして殺傷沙汰だけの問題にした方が良いという判断であった。


 ここまでは最悪の場合の対応策として準備していたのでモンチャイ伯爵も冷静であった。


 だが、想定範囲と言っても最悪状況ではあるので派閥の長である侯爵への報告もする事にした。


 なにしろ殺傷沙汰となるとあちらの派閥の長であるスゴエラ侯爵が出てくる可能性が高い。


 そうなると派閥同士の話し合いで納める事になるだろうから、証拠さえなければ、今後両者で注意する事で収まる可能性もある。


 多少の賠償金も要求されるであろうが、それくらいも想定の範囲内であるから、話をまとめて貰う侯爵には話を通しておく必要があるのであった。


 モンチャイ伯爵としては、今回の現場責任者として不満が残る展開であったが、それも仕方がない。


 一度、収まってからまた、ランドマークには仕返しを考えればいいだろう。


 そんな思惑が錯綜する中、武器の使用許可を出した襲撃が行われるのだった。


 だが、リューはこの襲撃も予測していた。


 二度も失態を演じ、指揮官が二人も捕らえられたとあっては、その醜態は極みと言っていい。


 そうなると、その名誉挽回には、最終手段を選ぶはずだ。


 そこでリューは巡回名目で近くに待機していた領兵隊長スーゴを呼び寄せた。


 ギリギリまでそうしなかったのは、見張りが付いていたからだ。


 その見張りは今まで放置していたのだが、緊急事態なので捕縛、解決するまでの短時間だけ拘束しておくことにした。


 ここで思わぬ助っ人が駆け付けてくれた。


 それが祖父カミーザである。


 どこから嗅ぎつけたのか、それとも本能による勘なのか?単騎でリューの元を訪れた来た時にはあまりのタイミングの良さにリューも、「おじいちゃん、監視してたの?」と、聞き返したほどである。


 そんな迎撃準備万端なところに敵は村人の格好のまま完全武装して現れたのであった。


 ここで襲撃は読まれていた時点で失敗、即座に退却すれば精鋭部隊も傷は浅かっただろう。


 だが、今回はモンチャイ伯爵の直接の指示なので、成果を上げる事なく退却するのは無理な相談であったから、指揮官は攻撃を敢行した。


 リュー達と祖父カミーザ率いるランドマーク側はこれを全力で迎え撃つ。


 初動でリューと祖父カミーザお得意の土と火の混合魔法で出鼻を挫くと、さらに領兵を引き連れたスーゴが背後から奇襲をかけ退路を断ち、祖父と孫が先陣を切ってこの動揺した精鋭部隊に襲い掛かった事であっという間に勝負は着いたのであった。


「今回は、お主らの武器の使用が確認されたから、儂らが参戦しても文句は言えんじゃろ。わはは!」


 祖父カミーザは、正当性を敵の捕虜に告げると、満足したのかスーゴ達の手勢を連れて帰っていった。


「さすがおじいちゃん。美味しいところだけ参加して後の処理は僕達に任せたね?」


 リューは祖父カミーザの背中を見送りながら苦笑いするのであった。

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