第297話 三輪車の開発ですが何か?

 リューの提案を基に試作品がいくつか作られていた三輪車がついに、二種類完成した。


 自転車の成功があったので今回はかなりスムーズにいくだろうと思われていたが、意外に完成型になるのには手間取っていた。


 何で手間取っていたかというと、動力部分である。


 これは自転車と違い、人や荷物を載せられる形のものを作っていた為、耐久性が求められた。


 そこで、ベルトドライブより、耐久性に優れているシャフトドライブというものを選んだのだが、それだと駆動性能が落ちるという壁にぶち当たった。


 そこで、リューがさらに提案したのが、アシストシステムを作れないかという事だった。


 つまり、前世で言うところの電動アシスト自転車の仕組みである。


 それをこちらの強みである魔法でどうにか出来ないかと提案したのだ。


 これには職人達もかなり悩んだ。


 リューの言う代物がよく理解出来なかったのだ。


 だが、その無理難題を聞いて俄然やる気を出した男がいた。


 それが、今回、ミナトミュラー商会研究開発部門の部長に就任したマッドサイン元子爵であった。


 マッドサインは、子爵位を国に返上するとすぐリューの元で働き始めていた。


 そこで、ミナトミュラー商会で扱う商品の数々に心躍らせていたのだったが、リューの誰も思いつかない様な案に、子供の様に目を輝かせると、すぐに開発にかかった。


 マッドサインの頭の中で、何となくあった彼なりの理論や魔法式などは、活用される事なく脳内で沢山埋もれていたのだが、リューの元ではそれが形になろうとしていた。


 その一つが、魔石の活用術であり、一部は研究所時代に『魔法兵器』という形になっていたが、完成型と言える代物ではなかった。


 今回のものも、リューの案を聞くまで利用価値が無いと勝手に思っていたのだが、補助するだけでいいのなら使える事に気づいたのである。


 魔石の力をメインに考えていたのだが、人がペダルを回転させる力で、魔石の魔力を活性化させ、それによって発生した魔力で回転する力を補助するのだ。


 すぐにマッドサインは、それを形にして見せた。


 徹夜で、目が血走っているが、活力に溢れている。


「多少大きくなりましたが、このアシストボックスを、運転席のシートの下に入れて場所をあまりとらない様にしました」


 と、マッドサインはリューに報告する。


 ミナトミュラー商会本部前で、その報告を受けたリューは、この短時間で形にしてしまったマッドサインに驚かされた。


 この人、本物の天才だ!


 イバルから散々言われていたのだが、ここまでとはリューも思っていなかったのだ。


 マッドサインには、ちょっと無理と思える事も、少し順序だてて説明すれば理解して形にしてくれるかもしれない!


 と、リューは、新たなこの部下を頼もしく思うのであった。


 ただし、アシストボックスも全く欠点が無いわけでもない。


 マッドサイン本人も言っていたが、まず、アシストボックスが大きいので通常の自転車にはとてもではないが載せられない。


 三輪車だから可能というところか。


 さらには、魔石の消耗が激しいという事だ。


 だがこれは、タダ同然で手に入るクズ魔石(小さ過ぎて加工に向いていない魔石の事)を大量に、アシストボックスの燃料スペースに投じればいいので、その問題は解消できるだろう。


 こうして三輪車の完成形が二種類出来たのであった。


 まず一台目は、運転手の後ろに二人ほど人が乗れる椅子が付いている形の三輪車である。


 これは、完全に異世界版、人力タクシーである。


 リューのデザインイメージは、前世の世界の三輪車タクシーであるトゥクトゥクの人力版で、それを軽量化した形である。


 完全に購入者が限られるのだが、実は、この三輪車タクシーは売り物ではない。


 これは、ランドマーク商会の方に、タクシー部門を作って貰う事になっている。


 その為に作ったのだ。


 王都内には、ランドマークの二輪車貸し出し店も多数あるから、そのお店を拠点に魔石の供給や、待機所にする。


 さらにもう一種類は実用性が高い専用荷台のある三輪車である。


 これは、上記のタクシーの荷台版だが、運搬目的という大まかなものなので、使用目的は多様であり、欲しがる者も多いはずだ。


 だがこれも、最初の内は、売るつもりはない。


 実はこれも、ランドマーク商会の軽運送部門に納品する為に作られたのだ。


 馬車で運ぶには少なく、人力だと大変、リヤカーでもいいが、短い時間で運びたい時は、軽運送で!という隙間産業的な位置づけで営業を開始する予定である。


 馬車はなにしろ、馬の飼料に維持費、御者の人件費がかかるから、それなりの目的が無いと中々維持していくのが大変だ。


 だが、この三輪車なら、基本的には人件費とタダ同然のクズ魔石代だけで済む。


 それも、アシスト付きだから、意外に早く、さらには小回りが利く。


 これからは馬車と並んで、重宝される事になると、リューは睨んでいた。


 つまり、ランドマーク商会が、新たな産業を生み出し、ミナトミュラー商会がその下支えをする形がまたひとつ出来上がったのである。


「若様、わかっておられると思いますが、基本は王都内での移動に制限して下さい」


 マッドサインが、そう助言した。


「なんで?」


「先程も言いましたが、燃費が悪いので魔石の供給の為に待機所に運搬後、一度戻り補充する必要があります。ですから王都の外に出られて、魔力切れを起こされると、帰りが大変になります」


「……なるほど。それは困るね。弱点もあるけど、王都内だけでも物の動きが活性化出来たら大きな貢献になるし、このままいこう!──あ、弱点の克服も考えといてね」


 リューはまた、無理難題をマッドサインに注文するのであったが、それはもしかしたらマッドサインならいつの日か克服する様な発明をするかもしれないと、期待しての事であった。

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