第258話 準男爵へのお祝いですが何か?
リューの昇爵は、主家であるランドマーク家の与力であり、下級貴族である事からマイスタの邸宅に使者を迎え、一足先にその一室で簡単に済んだ。
流石に今回は、父ファーザに付き添ってランドマーク家の伯爵への昇爵の儀には付き従わない。
それは跡継ぎである兄タウロの役目だ。
だが、もちろん、ミナトミュラー家の家族達は、リューの準男爵への昇爵にお祭り騒ぎとなった。
ランスキーが音頭を取って祝いの席が用意されると、イバルが庭で魔法花火を打ち上げ、護衛役を自負するスード・バトラーがその席で剣舞を披露し始める。
メイドのアーサも負けじとマーセナルの執事助手である元冒険者のタンクを柱に括り付け、その頭にリゴーの実を置いて投げナイフを披露し始めた。
マルコは、静かにお酒を飲んでいるが、そのペースは速いらしく、助手の元執事のシーツにペースを落とす様に諭されていた。
どうやらマルコなりに嬉しいようだ。
リーンも終始ご機嫌だ。
リュー以外を普段あまり褒めないリーンも、この日ばかりはみんなの一芸を褒めたり、お酒を勧めたりしている。
街長邸で急遽行われた、この身内だけでのお祝いは、その日のうちにマイスタの街の住人達も知るところとなり、通りでお祝いが始まった。
本当は正式に発表した後に、ミナトミュラー商会の仕切りでお祝いの式典を行うはずだったのだが、マイスタの住人達もリューの昇爵を自分達の事の様に喜んでくれているようだ。
こうなると止めるのも野暮なので、そのままマイスタの街全体でのお祭り騒ぎになる。
街長邸には、住人達が祝いの品を持ち寄るので、リューは父ファーザの時を見習って、訪れる住人達に食事を持ってもてなし、感謝の意を示した。
「みんなありがとう!」
リューが直接、お礼を言って回っていると、物々しい一団が門の付近で領兵に止められる騒ぎが起きていた。
「どうしたの?」
リューが、リーンとスード・バトラーと共に、赴くとそこには、『闇商会』のノストラが部下を引き連れやって来ていた。
「街長が昇爵したと聞き、お祝いの品を持ってきました。このマイスタの街で最近商売を始めました”ノストラ商会”の代表をしております、ノストラといいます。街長殿には”初めて”お目にかかります」
ノストラは恭しく頭を下げると初見であるかのように言った。
「これはこれは、ご丁寧に。わざわざのご来訪ありがとうございます。庭で一席設けてありますので、楽しんで行って下さい」
リューは、急遽始まった祝いの席にまさかライバル的な相手が、祝いの品を持って訪れるとは思っていなかったので、驚きつつも街長としては歓迎されているようで嬉しくなった。
「いえ、我々は見ての通り強面の者が多いので他の住人を怖がらせるので失礼しますよ」
「そうおっしゃらず、飲んで行って下さい。強面はうちの部下にも多いので住人のみなさんは誰も気にしてませんよ」
リューはノストラの背中を押すと、強引に案内するのであった。
するとそこに、さらに強面の面々を引き連れた女性がやって来た。
「あら?ノストラじゃないかい。あんたのところがここに何のようだい?」
その女性は、『闇夜会』の頭目ルチーナであったが、自分の事を棚に上げてノストラを咎めた。
「そりゃこっちの台詞だぜ。お前こそ何のようだよ?」
「あたしはこの街で金貸しをやらせて貰ってるんだよ?街長殿にはお礼も兼ねて挨拶と、昇爵のお祝いの品を持って来たに決まってるじゃないか」
「うちは最近、商会を始めたからその挨拶も兼ねての事さ。何もやましいところはないぜ?」
今回、ノストラとルチーナは表の顔で訪問して来たのだ。
確かに、商売人として街を治める街長の昇爵を祝い、挨拶しておくのは至極当然である。
「まあまあ、お二人とも、今日は僕の昇爵祝いに駆け付けてくれたのだから、喧嘩は止めて下さいね?さあ、庭でみんな楽しんで行って下さい」
リューは、そう言って仲裁すると強引に二人を庭まで案内する。
一足先に庭で宴会を始めている住人達は、もちろん、ノストラやルチーナの事は知っている者の方が多い。
「……おお。あの二人が、明るい中、並んで歩いてるの初めて見たぜ?」
「街長様の昇爵祝いだから、あり得ない事じゃないだろ?」
「……確かに、そうなんだが……、貴重な瞬間だ」
住人達は軽くざわつくのであったが、そこにランスキーがお酒の入ったグラスを二人に渡して飲む様に勧め始めた。
「ランスキー殿も加わったぞ……!?」
「おい、待て。元街長であるマルコ殿も来たぞ!?」
「この状況を作り出している今の街長であるミナトミュラー騎士爵……、いや、準男爵様は凄い人だな」
この街の裏社会の”顔役”である面子が揃った事にさらに住人達はざわつくと、それを実現させたリューの株は一段と上がった。
リューはこの街の発展を成し遂げているとはいえ、余所者であるのも確かである。
住人の中には、余所者に対しての抵抗感からリューに対してどこか否定的な者もいて、ノストラやルチーナを支持する者も少なくないのだったが、この件はその否定的な者達も口を噤み、リューという存在の評価を大きく高める一端になるのであった。
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