第256話 また……ですが何か?
王都近郊の軍研究所から鳴り響いた大轟音は、王都で話題になった。
もちろん、王宮にいた国王の耳にもその音は聞こえていたので、早急に確認が取られた。
「……それで、なぜ、厳命していた魔法花火が軍の研究所に流れていた?」
「それが、ミナトミュラー騎士爵に確認しましたところ、先日突然、研究所の使者が訪れ技術提供を求めて来たとか……。技術提供は断ったものの、無下には出来ないという事で、魔道具として簡易化した商品を渡したそうです。ちなみにその商品はとてもデリケートなもので、解析魔法を使用しようとすると起動するのでそれが原因ではないかとの事。──どうやら、ミナトミュラー騎士爵の手のひらの上で軍研究所は踊らされたようですな」
宰相が、笑うのを我慢しながら国王に説明した。
「くっくっくっ……。やりおるなミナトミュラー騎士爵は。──勝手に動いた研究所については厳重注意。そして予算を削減しておけ。どうやら、あそこは、儂の命令とは関係のないところで動き過ぎている傾向がある。一度、釘を刺しておかねばなるまい」
「……エラインダー公爵でしょうか?」
宰相が、言う事も憚れるのか小声でその名を口にする。
「わからん……。──あやつは、王位継承権の問題でも第二王子であるオウヘを支持する事で王宮内での後継争いに混乱を招いて居るし、儂がやる事がとことん気に食わんのだろう。……今は放っておけ」
「ははっ!」
「それよりもだ。今回の事では、オウヘも魔法花火について嗅ぎ回っているという報告があったな?」
「はい」
「……ふむ。今は、魔法花火については秘匿しておくつもりでいたが、ランドマーク子爵にしても、ミナトミュラー騎士爵にしても今の地位でそれをするには、少し心許ないであろう。──仕方ない、あまりに短期間でその地位が上がるのは他の貴族を刺激しかねないが昇爵させよ」
「では、ランドマークは伯爵という事で?」
「うむ。そして、ミナトミュラー騎士爵は、ランドマーク家の与力であるから、こちらからは打診になるが、準男爵の提案を。それで寄り親が納得すれば、すぐ昇爵させよ」
「わかりました。すぐにも手配させましょう。あとは領地の方ですが……」
「そうだのう……。伯爵になるのであれば、今の領地では手狭か……。──ランドマーク家周辺は確かスゴエラ侯爵の直轄地とその与力が囲む形になっているのであったな?」
「はい。あとは魔境の森に接しております」
「スゴエラ侯爵にはまた、隣接する王国直轄地を割いて領地を分配、そこへ侯爵の与力をいくつか転封させよ。それで空いた領地をランドマーク領とする。転封する与力も魔境の森に接している領地よりは喜ぶだろう」
「それではスゴエラ侯爵にその様に打診してみましょう」
「──そうだ。ランドマークにはさらに魔境の森の『切り取り自由』の許可を正式に与えよ。それでランドマークも伯爵としての見栄えが良くなるだろう」
「それはまた……、良いのですか?陛下による特別許可状は異例ですが」
「元々ランドマークは魔境の森を切り拓いて領地にしているのであろう?我が国への貢献度はそれだけでも大きい。それに切り拓くにしてもお金や人手も大変なはず。なのに領地の事であるから、他の貴族から難癖をつけられる事も今後あり得るだろう。──儂の代に限られるが、そのくらいは許可してやらんとな」
国王はそう言うと異例の決定をするのであった。
「……わかりました。それではその様に手配致します」
宰相はそう答えると、配下の官吏達に手配を命令する。
官吏達は異例の昇爵と領地の譲渡手続き、スゴエラ侯爵への打診、転封、許可状の発行など王都からはるか離れた南東部の事であるから、この作業は翌年までかかる事になるのであった。
そんな事が起きてるとはつゆ知らず、リューは魔石を用いた魔法花火の商品化に満足していた。
研究を任せていたイバルと職人達のお手柄であるが、これで魔法花火を各地のお祭りで簡単に利用できるようになるだろう。
もちろん、まだ、商品として値段の方は高くつくのだが、その分は、軍に販売する予定である信号弾への改良型を商品化すれば、値段も抑えられるようになるだろう。
音だけのものや、音を無くし、光と形状を変更したものなどを、魔法花火部門はイバルを中心に開発を始めている。
すでに魔法花火自体を、商品化出来ているので、改良版は完成するのもすぐだろう。
「他にも使えそうな物はイバル君から報告が上がっているけど、それは軍研究所には渡らない様にしないとね」
リューは、先日の件を根に持っていたのだ。
「閃光発音筒?だったかしら?そんなに使えるものなの?」
「使い方によっては危険だからね。あの軍研究所には技術も実物も渡せないかな」
リューは苦笑いすると首を振る。
「そんなに警戒するものなの?」
「特にあれはリーンの様に、耳や目が良い人にはより危険だよ。突発的な目の眩み・難聴・耳鳴りを発生させるものだから、リーンだったらよりダメージが大きいと思う」
「ちょっと、なんて物を作らせてるのよ!」
リーンが自分の長所を攻撃するものと知って注意した。
「ははは。研究や開発ってこういう副産物が生まれる事があるんだよ。あとはそれをどう使うか、使用せずに封印するか判断を任されるところだけど、対策を考えるまでは今回は封印かな」
「対策?」
「うん、こういうものは悪用される事を前提に対策を講じないと、表に出したらいけないからね」
「そうね。まずは対策を考えて頂戴。私の耳や目がダメージを受けるのだけは困るわ」
リーンは真剣にそう答えるのだが、それが可愛らしく見え、何となく可笑しく感じるリューであった。
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