第242話 各試合ですが何か?

 イバルVSナジンの準々決勝──


 リューは、この二人は拮抗した戦いになると予想していた。


 イバルは元より魔法適正に優れ才能豊かなのは、リュー自身が教えていて理解している。


 ナジンはその点、イバルには魔法適正の面で劣るが、剣術大会での動きを見ても立ち回りが上手いのは明らかだった。


 イバルも幼少からちゃんとした剣術を学んでいたのだろうが、立ち回りはナジンに分がある。


 なので、互角ではないかと踏んだのだ。


 審判が試合開始を宣言すると、試合は予想外の展開で進んだ。


 イバルが、その魔法の才能はもちろんの事だが、立ち回りでもナジンを圧倒していた。


 いや、圧倒していたというか、ナジンの魔法適正に対し、あらゆる魔法適正を持つイバルは、的確にナジンの弱点になる魔法を繰り出し続けたのだ。


 これにはナジンも立ち回りだけでは埋められない差が出て後手後手になり、気づくと減点ポイントがナジンに溜まっていた。


 ナジンはそこで一発逆転を狙って、動き回りながらリュー直伝の上位風魔法を繰り出そうとした。


 だが、大きな魔法には隙が生まれるもの。


 イバルはそこを見逃さず、下位土魔法でナジンの足元を攻め立てて動きを止めると、ナジンの詠唱が終わる前に下位火魔法をナジンにヒットさせ、減点一杯でナジンの敗北が決定されるのであった。


「イバル君、やるなぁ……!」


 リューはイバルの短期間での成長の跡に素直に感心した。


「リューの部下の一人なんだからこれぐらいはやって貰わないとね」


 リーンは当然とばかりに頷く。


 観客席はイバルの戦い方にも感心したが、ナジンが不発とはいえ、上位魔法を使おうとした事が話題に上がっていた。


「彼はまだ、一年生だろ?それで上位魔法を使おうとするとは……」


「三年生の試合よりも見どころがあったな。だが、中位魔法を通り越して上位魔法とはな!」


「ナジン、ナジン・マーモルン?ああ!マーモルン伯爵家の!武官を多く輩出している家だが、魔法も凄いのか!?」


 そんな敗北した方であるナジンの才能に注目する声が多く上がる中、リーンは呆れた。


「イバルの戦い方がいかに優れていたか理解出来ていない人が多いわね」


「まぁまぁ。二人とも見せ場があって良かったじゃない。イバル君は次、王女殿下との準決勝だしその時にまた、見せ場があるよ」


「そうね。イバルにはミナトミュラー家の代表として頑張って貰わないと」


 リーンはどうやら、それが目的で応援しているらしい。


「……ははは。イバル君にプレッシャー掛かるから止めなよ?」


 リューは苦笑いするとリーンを止めるのであった。




 他の準々決勝はシズとランスが見事に勝ち進んだ。


 二人の戦い方は対照的で、正確で精密な魔法を駆使し、相手に減点を与えていくシズと、詠唱の間動き回って相手の攻撃を凌ぎ、詠唱し終わると高火力の火魔法の一撃で相手を仕留めるランスである。


 こちらも、毎回当然の様に中位魔法を使うランスに注目が集まっていた。


「ボジーン男爵家の嫡男と言えば、剣術が優れていたが、魔法もイケるとはな」


「今年の一年生には驚かされる……」


「マーモルン伯爵家の嫡男は不発とはいえ上位魔法。ボジーン男爵家の嫡男は中位魔法。そして、公開演技を行ったミナトミュラー騎士爵と、エルフの英雄リンデスの娘は驚異的な魔法の使い手と来ている。今年の一年生は豊作ですな」


 観客はみな、高火力の魔法にばかり注目していたが、リューとしては次の準決勝であるエリザベス王女とイバルの対戦を注目していた。


「王女殿下の光魔法は正直反則級だからなぁ。それに対してイバル君はあらゆる魔法に対して適性を持つ天才型。この二人の試合は中々予想が難しいよ」


「光の魔法は全ての攻撃魔法の中でもその攻撃速度は一番だものね。相手に詠唱時間を簡単には与えないから、いかに王女殿下に魔法を使わせずにイバルが立ち回るかだけど難しいわね」


 リューの言葉に、リーンが二人の戦い方を予想して、イバルの心配をするのであった。




 休憩を挟んで準決勝が行われた。


 リーンが予想した通り、エリザベス王女は試合開始と共に光魔法の詠唱に入る。


 イバルは防御魔法を即座に詠唱する。


 エリザベス王女の光魔法は光の矢となってイバルを襲う。


 だが、イバルの防御魔法が間に合いその攻撃を防いだ。


 しかし、エリザベス王女の攻撃はそれだけでは終わらず、間髪を入れず次々に攻撃魔法が飛んでくる。


 イバルは防戦一方になった。


 時折、防御魔法の間に攻撃魔法を挟むが、光魔法が早すぎて途中で直撃をいくつかくらい減点され、詠唱も中断されてしまう。


「……これは、思った以上に王女殿下の光魔法は厄介だね」


 リューが、自分も使えない光魔法の優位性に感心しながらぼやいた。


「あのイバルが何もさせて貰えないわ。……まあ、私なら土魔法で使い捨ての障壁をいくつも作って王女殿下の視界を遮り、攻撃に転じるわね」


 下位魔法なら無詠唱で出せるリーンならではの発想だ。


「そうだね。いかに王女殿下より早く魔法を唱えて、より早く攻撃に転じないといけないからリーンの案はいいね」


 リューもリーンの対抗策に頷いた。


 そこへイバルも同じ答えに至ったのか下位土魔法で障壁を作った。


 だが、リューやリーンの様に無詠唱とはいかない事、そして、終盤では時すでに遅く、意味があまりないものであった。


 エリザベス王女は中位の光魔法をそれに合わせて詠唱するとイバルが身を隠す土の障壁ごと光魔法で打ち砕きイバルにヒットさせ、勝利を得るのであった。


 完全にイバルが物理的な防御魔法を唱えるのを待っていた展開であった。


「あちゃー!完全に読まれてた!──序盤に仕掛けて畳みかけないと光魔法対策は無理だね」


 リューはエリザベスの立ち回りに再度感心するとイバルの敗因をそう分析した。


 単独で対抗するには短期決戦しかなさそうだ。


「こうなると、シズとランス、どちらが勝ち上がっても対抗するのは難しいかも……」


 リーンも仲間の技量ではまだ、エリザベス王女には対抗できないかもしれないと判断したようだ。


「うーん……。でも、まぁ、判断するのは、二人の準決勝を見てからにしよう」


 リューは、成長著しいシズとランスに期待するのであった。

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