第238話 新商品の確認ですが何か?

 ミナトミュラー商会が、ランドマークの下請けで生産を開始している新商品のお披露目が、もうすぐなされようとしていた。


 貴族やお金持ちなどの上流階級は、その情報の一部を掴んでいろんな予想が立てられたが、ほぼ貸出ししかしていなかった二輪車の改造版の販売が始まるのではないかというのが、ランドマーク製品フリークの貴族らが出した答えであった。


 というのも、新しい馬車の発表会はあったばかりだし、『チョコ』新商品も定期的に行われている。


 ランドマークの代名詞である『コーヒー』もブレンド商品や、『チョコ』とのコラボ商品なども出されている。


 それらを考えても食べ物系はなさそうであったから、今、注目されながら入手出来ない『二輪車』が今度の新商品だろうと結論に至ったのであった。


 ランドマーク製品フリーク貴族達の間で広まっている噂の報告を、馬車内で受けたリューは、驚いて舌を巻いていた。


「恐るべし、ファンの分析能力……。というか情報、どこからか漏れてないよね?」


 リューは、巷で出回っている噂話がほぼ正確なものである事に、情報の漏洩を疑うのであった。


「どうやっても秘密はどこかしらで漏れるものよ。でも、『自転車』の単語がないところを考えると、漏れたわけでなく、本当にファンも分析だけで辿り着いたのかもしれないわ。リューも落ち着きなさいよ」


 リーンが、リューをそう指摘すると宥める。


「そうか……。ファンの想像力恐るべしだね」


 リューはごくりと生唾を飲み込んだ。


「ところで主。『自転車』とは一体、何ですか?」


 一緒に馬車に乗って移動していたスード・バトラーがリューに質問した。


「ボクが説明しよう、新米。『自転車』とは……、跨いで足で何かを回すとビューンって進む乗り物の事さ!」


 馬車に同乗していたメイドのアーサが、先輩風を吹かして大雑把な説明をした。


「??」


 スードにはメイドのアーサの説明では全く想像もつかず、頭上の疑問符だけが増える結果になった。


「アーサ、その説明だと馬でもいいじゃない。──スード、『二輪車』は知ってるわよね?」


「はい、リーン様。王都内で若者達が配達なんかでよく利用している乗り物ですよね?」


「そうそれ。あれは足で地面を蹴って進む乗り物だけど、『自転車』は地面を蹴らずに、ペダルというものを回す事で前に進む乗り物なの。リューはそんな凄い物を発明したのよ!」


 今度はリーンがリューの功績を代わりにスードに対して自慢するのであった。


「そうなのですか!?仕組みついてはよくわかりませんが、流石、主!剣術だけでなくその様なものを発明する才能もおありなのですね!」


 スードは、好意を寄せるリーンの説明に舞い上がると、興奮気味に主であるリューを褒める。


「凄いかどうかは発表して売れるかどうかだね。一応、国王陛下に献上したものは補助輪は付けたものだったから、販売するものも補助輪は付けて販売する予定。これなら乗り易いとは思うのだけど……」


「今日、王女殿下から聞いたのだけど……、王宮内の移動に陛下は自転車を利用してるって言ってたわよ。王様のお気に入りだもの、大丈夫よ」


「え?そうなの?」


「うん、化粧室で一緒になった時に聞いたわ。──あ、だからファンの間の噂で正確な情報が出回っているのよ。王様が利用しているのが、多分『二輪車』だと思われているのかも?」


「情報源はそこか!王宮なら使用人達から貴族へ漏れるのも早いからなぁ……。まあ、いいや。新発表会では大々的に『自転車』を宣伝する予定だからねそこで名前をしっかり覚えて貰おう」


「ところで若様。その『自転車』はいくらぐらいするものなの?」


 メイドのアーサが興味津々で値段を聞いてきた。


「国王陛下に以前献上した『自転車』のコストは金貨十五枚(前世の価格で約百五十万円)ほどがかかる高級品だったのだけど……」


「「金貨十五枚!?」」


 メイドのアーサと自称・将来の剣聖スードはその高値に声を揃えて驚いた。


「うん。でも、今回は品質を下げる為に、材料はより安いものを探し、さらには製造技術も安定してきたから販売価格を金貨五枚まで落としたよ!」


「それでも金貨五枚ですか!?」


 貧乏農家の長男であるスードは下がったその金額にも驚くのは仕方がないだろう。


 金貨五枚もあれば、半年は楽に家族を養う事が出来る額だ。


「まあ、驚くのも仕方がないよね。でも、今はこれが精一杯かな。特にベルトに使用している革が大量入手出来たから価格も大きく下げられたんだけど、あとはチェーンベルトの開発が進めば大きく値段を下げられると思う。その辺りはランドマーク家とうちの職人達の技術の向上次第だね。それが出来れば、一般向けのものも大量に販売出来ると思うよ。最終的には金貨1枚程までには下げたいな」


 リューはスードの反応に苦笑いすると今後の展望を語るのであった。


「そうだ。スードにも一台上げるから家と学校までの往復に使ってくれるかな?そして、使用状況を教えて欲しいのだけど」


「え、自分がですか!?そんな高額な品、貰えません!」


 スードは慌てて断る。


「スードの通学距離が丁度、耐久実験にも理想的なんだよ。それに宣伝にもなるし、『自転車』はその報酬だと思って貰ってくれていいよ。あ、盗難防止用の魔法が込められた魔石も搭載しているから、大丈夫だよ」


 こうして、数日後の販売に向けての最終確認も兼ね、スードが通学の往復で『自転車』に跨る光景が、連日、学生たちの間で目撃される事になるのであった。

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