第224話 良い知らせと悪い知らせですが何か?
『月下狼』と『雷蛮会』の抗争に発展しかけていた、元『上弦の闇』の縄張り争いは竜星組の仲裁によって、ほとんどの縄張りは『雷蛮会』が取り仕切る事で決着する事になった。
この竜星組の仲裁は、いろんな意味を持っていた。
一つは新興勢力である『雷蛮会』の存在を暗に認めた事になる事。
もう一つは、『月下狼』の背後に竜星組の存在を匂わせる事になった事。
そして、竜星組が王都の裏社会における最大の勢力として、改めて影響力を知らしめる事になったのである。
その表で動いていたのはマルコだったので、組長であるリューの存在はベールに包まれたままであったが、それがまた、竜星組の巨大で謎めいた雰囲気を演出する事になった。
そういう意味では、ノストラの『闇商会』や、ルチーナの『闇夜会』も、ボスである二人は滅多に表に出てこないので謎めいた組織ではあったが、竜星組の組長は、『若』と呼ばれている為、組長がまだ若い人物と想定される事以外、世間では情報が出ていなかったので、裏社会では一層謎めいた存在であった。
元々、マルコの名前も表に出る事は無く、そのマルコが三十代後半と大組織の上位幹部としては若い方なのでマルコ自身が竜星組の組長なのではないかと外野の人間は推測する者もいた。
だが、今は竜星組の組長の存在よりも注目されたのが、『雷蛮会』のボス、ライバ・トーリッターである。
僅か十二歳で『雷蛮会』のトップとして彗星の如く現れ、王都で指折りの大組織の一つにまで数えられる事になったのである。
その手腕は裏社会において無視できないものになるだろう。
それにその資金力も噂になっていた。
「背後にはもっと大きな存在があるのは確かだろう」
「この裏社会であれほど急速に大きくなれたのは、ボスのライバ・トーリッターの実力以上に、その資金力によるものだ」
「今回の件で『黒炎の羊』が沈黙を守っているのも、その背後にいる何かが原因」
と、関係者達は意外に鋭い指摘が多かった。
「……と、リューが情報を流したのよね?」
部下から報告を受けていたところ、リーンがリューに指摘したのであった。
「確かにそうだけども……。クスクス。──一応、背後にいるエラインダー公爵かもしれない資金提供者にこんな鋭い情報がもう流れて正体バレそうだって思わせて、当分は大人しくして貰う為の牽制だよね」
「前回の様に潰しちゃえばいいのに」
リーンが過激な事を言う。
「そうだよ若様。ボクが赴いて、そのライバっていう少年の首を持って帰ってこようか?」
メイドのアーサが最近仕事に慣れて余裕が出て来たのかリュー達の会話に入ってきた。
「二人とも駄目だって!『雷蛮会』を潰すのは簡単だけど、それだと背後にいる多分、エラインダー公爵を刺激するし、それよりも『闇商会』や『闇夜会』も刺激しかねないからね。折角、二つの組織とは、夏祭りで少しは雰囲気良くなって連絡会にも前向きな返答貰ったばかりなんだから」
リューは、複雑な裏社会事情を説明しながら二人を注意する。
そこへ扉をノックし、部下と入れ替わりに執事のマーセナルが入って来た。
「若様、連絡会について『闇商会』と『闇夜会』から具体的な日にちの提案がございました」
執事のマーセナルが手元にあった手紙を二つリューに渡す。
「本当に!?ほら、やっとこれで二人とは色々と話し合いが出来るよ」
リューが安堵のため息を吐く。
「さらに、こちらは良い知らせと悪い知らせが……。王都での花火成功はまだ表沙汰に出来ないとの事で、報酬に、ランドマーク家に対しては金品の授与がなされる事になり、さらにミナトミュラー家には、こちらが申請してあったお酒の製造、販売の許可が、王家を通して正式に酒造ギルドから下りました。ですのでミナトミュラー商会は堂々とお酒の製造が行える事になりました」
執事のマーセナルが今度はその許可状をリューに提出する。
「本当に!?いい知らせじゃない!」
リューはまたしても驚いた。
お酒の製造、販売の許可状は酒造ギルドのトップである上級貴族が死守していた既得権益であり、許可は下りないだろうと思っていたのだ。
それだけにまだ、騎士爵であるミナトミュラー家にその許可が下りた事の異例性がわかるだろう。
「ただし、製造につきましては制限があるようです、それが悪い知らせです」
許可状を見ると、「第三級酒類製造・販売許可状」と書いてある。
「これは……?」
「はい。二級指定のお酒や、一級指定の高級酒は造れないので、今、少量ながら造っている品質の良い果実酒は全面的にストップしないといけなくなります」
「……やられた!正式に許可が下りた事で密造酒は造ると厳しく取り締まられる事になるから、庶民向けの品質の悪いウイスキーや、エール以外は全く造れなくなるのか!」
そう、品質を上げて製造し、酒造ギルドよってそれが二級扱いになったら、製造許可がないので製造を中止させられる。
つまり品質の悪いものしか製造販売できなくなったのである。
「……はい。今まで大目に見られてきたものが許可状を得た事で、ギルドの一員として厳しく取り締まられる対象になりました。きっと上級貴族の既得権益を守る為の措置でしょう」
「……そういう事ならミナトミュラー商会の製造部門と、竜星組の製造部門の二つに分けるしかないね……。──こうなったら竜星組の方で密造酒を沢山作って酒造ギルドにダメージを与えていくよ!」
こうして、リューに変なスイッチが入り、竜星組はこれまで以上に『闇組織』から引き継いだ密造酒の製造に力を入れる事になるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます