第223話 答えに辿り着きますが何か?

 意外な事に、リューの予想に反して『雷蛮会』の対応は早かった。


『竜星組』の組事務所に、『月下狼』との手打ちの仲裁を頼み込んできたのだ。


 その知らせをマルコの方から聞いたリューは、素直に驚いた。


「勢いと資金力、それに判断も早いのか。やはり、急成長してきただけあって利口みたいだね」


 感心するリューであったが、マルコから驚きの情報が提出されてきた。


『雷蛮会』について調べさせていたのだが、その内容が意外なものであったのだ。


「……この情報は嘘じゃないよね?」


 リューがマルコの使いである元執事のシーツに確認する。


「はい。若様と同じ十二歳の少年がボスだと知って私も驚きました」


 シーツはリューが確認したのは年齢が若い事だろうと察して答えた。


「というかこの少年、僕が知っている人物なんだ」


「……何と!若様のお知り合いでしたか!そこまではまだ、調べ上げられておらず申し訳ございません」


「いや、いいんだよ。この情報にこの『雷蛮会』のボスの名前は仮ではなく正式にライバ・トーリッター地方貴族の伯爵の嫡男と追加しておいて」


 リューが、シーツにそう付け加えると、傍で話を聞いていたリーンが今度は驚いた。


「え?新興勢力の『雷蛮会』って、あのライバ・トーリッターなの!?」


「……そうみたい。世間は狭いよね……」


 リューは苦笑いを浮かべると、リーンに答えるのであった。


「同じ王都内の学校に編入して大人しくしてると聞いてたのに、何でこっちの世界に来てるのかしら?」


 リーンが疑問に思うのも全くだ。


 リューもその様に聞いていたので、まさかこちらの世界に足を踏み込んでいたとは……、と驚くしかない。


「彼の実力は確かだからね。その辺のチンピラよりは格段に強いからあり得るけど……、そうなると資金はどこからという事になるよね。トーリッター家が道を外れる嫡男に対して、そんな事にお金を出すとも思えないし……。やはり、学校の世話をしたというエラインダー公爵家の影が見える気がするなぁ……」


 リューは、シーツからもたらされた情報以上のものが、ライバの存在を確認した事で見える気がしてきた。


「……計画変更。本当なら『闇商会』、『闇夜会』との連絡会が出来次第、きついお灸を据えるつもりでいたけど、『雷蛮会』については様子を見よう。あちらの手の内を知りたい。──シーツ、手打ちの仕切りはマルコに任せると伝えて。一応、『月下狼』に手を出したら、『竜星組』も動く事になると匂わせておけば当分は大人しくなるはずだからそれも任せると、ね?」


「はい。マルコ様にはそう伝えておきます」


 シーツは、頷くと執務室から退室するのであった。


「……エラインダー公爵との悪縁が中々切れないね」


 リューは、リーンにぼやいた。


「そうね……。──そうだ。イバルを呼んで聞いてみる?」


 リーンが提案する。


「いや、イバル君は今、花火部門の打ち合わせでしょ?それに、今はもう、エラインダー家とは関係ないだろうから聞いてもね……」


「でも、以前の情報でも有益なものはあるかもしれないわよ?」


 リーンはそう言うと、メイドのアーサにお願いして、イバルを呼びに行って貰うのであった。




「急用だって聞いたけど?」


 イバルが、メイドのアーサに伴われ、執務室にやってきた。


「実は──」


 リューは事情を説明する。


「……父上が?いや、エラインダー公爵か……。それはまた、妙だな。エラインダー公爵家が裏でよく使っていたのは『黒炎の羊』だから、ここに来て新しい勢力に加担する意味が分からないな……。それに、ライバはまだ学生で伯爵家の嫡男。そんな相手に資金提供してまで動かすリスクは……」


 イバルの情報には、意外に重要な事が含まれていた。


「『黒炎の羊』って、エラインダー公爵家と繋がりがあるのかぁ……。それにイバル君の言う通り、ライバ君を立てるリスクだよね。当人が断ってもおかしくない話だし……」


 リューはまさか、自分への復讐心からライバが独断で動き、そこにエラインダー公爵が裏社会への繋がりを強める為に便乗したとは夢にも思わないのであった。


「……となると、今回の件で『黒炎の羊』が沈黙していたのは、エラインダー公爵からの横槍が入って見守っていたという事かな?」


「そうかもしれないわね。それに『月下狼』って『黒炎の羊』に吸収されそうになってたんでしょ?『雷蛮会』の動きによっては『黒炎の羊』は何もせずに達成できた可能性があったわけだから利害が一致していたのかもね」


 リーンが状況を分析して見せた。


「じゃあ、僕はエラインダー公爵の『雷蛮会』の拡大を邪魔して、『黒炎の羊』の『月下狼』吸収の野望も挫いてしまった事になるのかな?」


 リューはそこまで察すると続ける。


「つまり、僕はまた余計な恨みを買っちゃったんだね……」


「リューはいつも誰かの恨みを買ってるわよ?ふふふ」


 リーンが他人事の様に指摘するとクスクスと笑うのであった。


「『雷蛮会』もライバ君がボスなら、恨みを買ってるのは僕だしね……。うん?もしかしてライバ君がこっちの世界に入ってきたの、僕が原因とかじゃないよね?」


 リューは、ライバの復讐心が原因説に辿り着くのであった。


「……あら?もしそうだとしたら、辻褄が合うわね?──リュー大丈夫よ、何が起きてもちゃんと私が守るから」


 リーンはリューがライバの恨みを一身に買っている事を前提に話を進める。


「止めてよリーン!学校でも裏社会でも恨みを買いまくってるとか縁起でもないよ!」


 リューは、頭を抱えて本当に嫌がるのであった。

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