第217話 夏休みのひと時ですが何か?
リューは夏休みに入ってからというもの、休みらしい休みを取らずに働き詰めであった。
ランドマークビルで起床すると、朝からランドマーク領に『次元回廊』で出かけて、ランドマークビルで出す商品をマジック収納に入れると、王都に運ぶ。
これまでいつもやっていた、ほぼ毎日のリューの仕事であるが、徐々に変化が出ていた。
それは、運ぶ品数、量の減少である。
徐々に、マイスタの街で代替生産が行われる様になってきたので、運ぶ量自体は減って来ている。
これは良い傾向だ。
ランドマーク本領頼みでは、リューに何かあった場合、仕入れが難しくなる。
『チョコ』や、果物類などは、特にランドマーク本領からの仕入れ頼みだから、ミナトミュラー商会の農業部門で、それについても育てる事が出来ないか試験的に、今、一部の室内畑で試しているところだ。
室内畑とは、『闇組織』時代に違法な薬の葉っぱを育てていた施設の事で、リューはそのまま使用しているのである。
ランドマーク領に比べ、気温が穏やかな王都周辺ではコヒン豆や、カカオン豆を育てる環境にはない。
だが、葉っぱという特殊な植物を育てる為に磨いた技術で、温度管理なども上手な農業部門は、現在、コヒン豆を育てる室内畑として力を発揮している。
その一角で、ランドマーク領から仕入れている果物類や、カカオン豆の生産が出来ないか試みているのだ。
今のところ、コヒン豆は木ごと持ち込んで植えて育てているので、今年から収穫は出来そうな雰囲気だ。王都で賄うにはまだまだ数は少ないが、拡張工事も始めているので王都での『コーヒー』は、数年後には完全に、マイスタ産のコヒン豆を原料としたものに取って代わるだろう。
カカオン豆の方は、まだ、試験的なので、育つかどうかもわからない状態だ。
「カカオン豆の方は当分、ランドマーク領本領頼みかな。『チョコ』の生産もあっちに工場あるしなぁ」
リューが室内畑の様子を確認しながらそうつぶやくと、
「マイスタの菓子職人も腕は一流だから原材料さえあれば作れると思うわよ?」
と、リーンが珍しく意見をした。
「ふふふ。リーンは当初からマイスタの街の菓子職人に目を付けていたものね」
リューが少し笑いながら、リーンを茶化す。
「ちょっと、私が食い意地が張ってるみたいじゃない!──でも、リューの考えたお菓子、作らせたらアレンジも思い付いたりするから、かなり凄いと思うの」
「そうだね。やっぱりマイスタの街に集められた職人さん達は元々一流の職人ばかりだったから、今の職人さん達もそれを引き継いでいて、十分凄いよね」
リューも頷いて自分の領地の職人さん達の腕を評価した。
「よし、予定よりさらに室内畑を増やしてカカオン豆の生産も出来る様にしよう」
リューが、決断するとリーンも大きく頷くのであった。
その後、水飴生産工場の建設場所の確認など、午前中の視察を終えたリューとリーン、そして、リューの側近として最近一緒に行動しているイバルは、昼過ぎにはランドマークビルに戻っていた。
昼間からランドマークビルに戻る事はこの夏休みになってからは初めての事であったが、それには理由がある。
それは、同級生と王都内で遊ぶ約束をしていたのだ。
待ち合わせをしていたランスとナジン、シズはすでにランドマークビルを訪れ、シズはナジンを連れて『チョコ販売店』に直行、ランスは、通りで夏休み期間の客引きで行われている竹とんぼ飛距離競争や、『ショウギ』早指し大会などに興味を持って参加していた。
リュー達にいち早く気づいたランスが、ショウギを指す手を止めて、声を掛けた。
「おお、リューお帰り!二人は二階にいるぜ」
ランスはそう言うと『ショウギ』を指している相手に負けを認めると立ち上がり、こちらに合流した。
二階に上がるとシズは、ナジンに声を掛けられるまでガラスケースのチョコを食い入るように見てどれを買おうかと迷っている様子だったが、リュー達が帰ってきたと聞いて、買うのを我慢する事にした。
「……イバル君、リュー君の商会に内定貰ったんだよね、おめでとう」
シズが、リューの後ろに引っ付いている新たな影、イバルを祝福する。
「ありがとう!もうすでに、毎日働かされているんだけどな」
イバルが笑顔で答える。
「ちょっとイバル君。僕がこき使っている印象与えるから止めてよ!夏休みの間だけだよ。学校が始まったら学業優先だから」
リューは冗談とわかりつつも指摘する。
「ミナトミュラー商会のブラック体質……か、これは問題だな。あはは」
ナジンが笑って冗談を言う。
「ブラックはあるかも……、商会のみんな、ここのところ忙しくしてるから」
リーンも本気か冗談か考える素振りを見せる。
「ちょっとリーン!君まで何言ってるのさ!ちゃんと休みもある良い職場だから!ごにょごにょ。(一部、ランドマーク本領の魔境の森に出張している人達についてはわからないけど……)」
心当たりがあるリューであったが、そこは言葉を濁すのであった。
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