第134話 大改革ですが何か?

 学園内部は一週間ほど混乱が生じていた。


 まず、国王自らの命令で学園内に監査が入った。


 学園側はもちろん、”王立”学園だから拒否権はあろうはずも無く、早々に学園長の予算の私的流用、帳簿の改ざんが発覚、教頭もその片棒を担いでる事がわかり、すぐに拘束された。


 職員達の調書も取られ、ここ数年の入学に伴う不正、教師の怠慢行為など証拠と共に押さえられた。


 その結果、王立学園に、過去に前例を見ない大ナタが振るわれる事となった。



 この全ては、リューの退学処分がきっかけだった。


 リューの才能を目の当たりにして評価し、国にとって必要な人材といち早く気づいたエリザベス第三王女は、リューを失うのは王家にとっても損失だと考えての行動がこの大改革に至ったのだ。



 エリザベスは当初、学園側に干渉する気はなく、興味を示す事も無かった。

 エリザベスはただ、王族として自分の振る舞いを弁え、民衆の手本になる事、それだけを意識していた。


 そこに才能ある同級生が現れた。


 だが、それはままある事で、それ以上は興味を引かなかった。


 あくまでも将来の国の為の優秀な人材の1人という程度だった。


 そこへイバル・エラインダーの上級貴族として他者の模範になるとは言い難い行動が目に入った。


 聞けば王族である自分をも軽く見ているそうだ。


 それに対しては、流石にどうしたものかと思っていたら、リュー・ランドマークがそのイバル・エラインダーに目を付けられた。


 自分のクラスの生徒という事で、何かあったら最低限守って上げようと思っていたら、イバル・エラインダーの嫌がらせを返り討ちにするという事態に、密かに痛快な気持ちになっていた。


 何より、自分が感じていた以上にリュー・ランドマークに才能がある事もわかった。

 取り巻きに彼の身辺を調べさせたら、噂に過ぎないが試験の際に『次元回廊』を使ったらしい。


 それが本当なら稀有な能力の持ち主だ。


 国にとっても王家にとっても貴重な人材だ。


 これは王立学園卒業時には、王家が直々に召し抱えても良いかもしれないと思っていると、イバル・エラインダーが直接、リュー・ランドマークを呼び出しての大騒ぎになった。


 驚いた事に、その騒ぎの折、リュー・ランドマークは己の身の危険を顧みず、魔法で四方に岩壁を作って、兵器による無差別な攻撃から逃げ惑う生徒達を守ってみせた。


 民衆の模範となる事を第一に考えていた自分にとって、この行為は輝いて見えた。


 これこそ、私が目指すものだ。

 己の身を顧みず民衆の盾となる、この同級生の咄嗟の行動に感銘を受けた。


 彼はこの国にとって必要な人材だと確信し、リュー・ランドマークを擁護する行動に出た。


 だが、驚いた事に学園側は彼を喧嘩両成敗を口実に退学にしようとした。


 私が言った事を理解できなかったらしい。

 そして、処分の理由は全て学園の名誉と彼らの自己保身の為だと察したので、優秀な人材を失ってはいけないと思った私は父である国王陛下に直訴して動いて貰ったのだ。


 その結果、発覚したのは、予想以上の王立学園の腐敗ぶりであった。

 おかげで関係者は全て拘束したり、左遷、解雇した。

 ただ、その為に、学園長から教頭、教師やその他職員に至るまで大きく人材を一新しなくてはいけなくなった。


 父には他にもやる事があるのに仕事を増やしてしまった事が、娘としては申し訳ない気持ちでいっぱいになるエリザベスであった。




「リーン。学園が今、機能してないとなると僕っていつまで自宅待機になるのかな?」


「今は学校に行っても自習ばかりよ。そもそもみんないなくなって、残った先生や職員は毎日事務処理に追われてるし、まともに話す事も出来ないからリューの事忘れられてるかもしれないわね」


 リーンが今の学園の状況を簡単に説明した。


「やっぱりそうだよね?……でも、まあ、退学処分が無くなった事を良かったと思うべきかな。ははは…。」


 リューはランス、シズ、ナジンが親に助けを求め、そして王家に働きかけてくれた事で退学が無くなったと思っていたのだった。


 リューが担任のスルンジャーから聞いた様に、実際働きかけはあったのだが、一地方貴族の三男を助ける為に国王がそう簡単に動くはずがない。


 だが、国王の娘のエリザベスがリューについて詳しく説明した事でリュー・ランドマークが、あのカミーザの孫である事に国王はやっと気づいたのだ。



 そう言えば、宰相が用意した推薦状にサインをしたのを国王は思い出した。


 カミーザの孫と言えばジーロ・ランドマークを気に入って推薦しようとしたのだが、それが流れて残念に思ってたところにどこから入手したのか宰相がそのジーロの弟が受験するという話を持ち込んできた。


 ジーロの代わりに推薦状を出してやろうと気楽な気持ちでサインをしたのだが、すっかり国王は忘れていただけに、エリザベスからの話を聞いてそんな逸材だった事に驚き、同時に王立学園の現状を知り、国王自ら動く事になった。


 こういった裏事情があって、王立学園は大改革が行われ、リューの退学は無くなったのであった。

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