第131話 格差社会ですが何か?

 この昼休みの決闘はすぐに教師達が現れ、場は収められた。


 まるで、様子を見ていたかのようだ。


 リューが作った岩の壁がリューによって撤去されると、


「リュー・ランドマーク、職員室に来なさい!」


 と、一人の教師が険しい顔つきでリューの腕を掴んで連れていく。


「ちょっと!あっちも、連れて行きなさいよ!」


 リーンが、茫然とするイバルを指さし、リューだけ連れて行こうとする教師に食い下がる。


「うるさい!君も反抗的として、処分するぞ!」


 言い方からすると、どうやらリューはもう、処分対象の様だ。


「ええ、良いわよ!リューを連れていくなら私も連れて行きなさいよ!」


 リーンは教師の前に仁王立ちすると、道を塞いで言い放った。


「何!?じゃあ、君も処分対象だ!」


 教師は、歯噛みするとリーンの腕も掴んで、職員室に引っ張って行くのだった。


 職員室に連れていくと、まず、リュー達の話も聞かず、職員達の前で盛大に説教をされた。


 担任のスルンジャーが間に入って「生徒の言い分も聞かないと」と、庇ってくれたのだが、イバル・エラインダークラスの担任が、そんなスルンジャーに食って掛かり、


「やられたのはうちの生徒達ですよ!?暴力生徒を庇うんですか!?」


 と強い口調で非難してスルンジャーを黙らせた。


「一旦、生徒指導室にこの二人の生徒は隔離して反省を促しましょう。他の生徒への悪影響があるかもしれない」


 説教していた教師が、もっともらしい事を言うとリューとリーンを今度は職員室の隣の各生徒指導室に一人ずつわけて、閉じ込める事にした。



「あの生徒達は厳しく処分しないと、エラインダー公爵側から、何を言われるかわからんぞ?」


「そうです!エラインダー公爵からの寄付金は大きいですし、半端な処分では我々の首が飛びかねません」


「幸い、王女殿下が一切関わっていないのが救いですね。王女クラスの生徒とはいえ、地方の男爵家の三男程度だから退学処分でいいでしょう」


「問題は、女子生徒の方ですな。エルフの英雄の娘です。処分が難しいかと……」


「彼女は手違いで補導した事にしましょう。重要な場面はあの岩壁で見えませんでしたから、関わりを証明できませんし」


「ちょっと待って下さい!そもそも、うちの生徒を呼び出したのは、イバル君達らしいじゃないですか!みなさんもその事は承知しているはず。まして、軍の兵器を持ち込んだイバル君に処分無しで、抵抗したランドマーク君だけ退学とはあまりに……」


「スルンジャー先生、エラインダー公爵を敵に回せば、ここにいる全員が職を失い、その家族が路頭に迷う事になります。あなたもご家族がいるでしょう。大人になって下さい」


 教頭が、スルンジャーの肩を叩く。


「そうですよ。この国の重鎮であるエラインダー公爵家と、地方の男爵の三男。比べる事はできないです。まあ、優秀な生徒だった様なのでそこは残念ですが、生まれたところが悪かったという事ですな」


 担任のスルンジャーの顔は青ざめ、うな垂れると自分の席に弱々しく座り込んだ。




 職員室から、そんな教師達のやり取りがすぐ隣のリューのいる生徒指導室には聞こえていた。


 ……長い物には巻かれろ、だよね……。


 リューは、予想以上の格差社会の現実に落胆するのだったが、リーンが聞いてなくて良かった。

 聞いてたら怒るだけでは済まないだろう。

 正義感が強いし、リューの従者として自分が動かなきゃという使命感も持っている。

 きっと、職員室が破壊されるだろう。


 それを想像して、少し痛快な気分にもなるリューであった。


 そこに、職員室の引き戸を開ける音がする。


「お、王女殿下!どうなされました?授業は自習のはずですが……」


 教頭が突然現れた王女に慌てて対応する。


「うちのクラスのランドマーク君と、リーンさんがまだ戻らないので様子を見に来たのですが、驚きました。私もイバル・エラインダー君との揉め事の現場を離れから見ていたのですが、彼は身を守らないと殺されていた立場です。まさか先生達がその被害者である生徒を退学にしようと話し合ってるとは思いませんでした。この事を私も深く受け止め、父に報告したいと思います」


 エリザベス第三王女が言う父とはもちろん国王の事だ。


 職員室の職員達は皆がギョッとした。


「お、お待ち下さい!今、この問題は精査中でして、王女殿下が聞かれた話はあくまでも1つの可能性の話です!そう、可能性です!先程、加害者生徒のランドマーク、リーン両名から話を聞いて反省を──」


「加害者生徒?被害者生徒の間違いでは?」


 王女が教頭の発言を遮った。


「あ、いや……。まだ、その辺りも精査中ですので、見方によってはそうとも言えるかもしれませんが……」


 教頭にしたら、公爵家と王家に挟まれた状況だ。

 願わくば、ランドマーク男爵家に全てを被せて終わりにしたい。


「……わかりました。精査とやらが正しく行われる事を祈ります。それではうちのクラスの生徒二人はすぐに解放して下さい。片方だけその扱いでは、平等を謳う学園の名にも傷が付きます」


「わ、わかりました。誰か、生徒指導室の二人を教室に帰して上げなさい。鍵?ほら、ここにあるから早く!」


 鍵を受け取った職員が1人慌てて閉じ込めてある2人を解放しに隣の部屋に足早に向かうのであった。

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