第130話 続・お昼の決闘ですが何か?

 イバルは自分の脅しにひるまず、怯えず、恐れず、冷静に周囲を気遣って下がらせるリューに奇怪なものを見る様な驚きで視線を送った。


「ライバ、お前が言ってた様な反応をしないぞアイツ!?」


「反応できない程、頭が愚鈍なのですよきっと。男爵の三男程度です。自分に何が降りかかるかの想像力が欠落してるのでしょう。イバル様の実力で思い知らせれば良いのです!見せてやりましょう最新兵器の威力を!そして、あの世で後悔させてやりましょう、男爵風情が調子に乗った事を!」


 ライバはリューの想定外の反応に歯噛みすると、イバルを煽った。


「お、おう……。そうだな!男爵の三男如きが、このエラインダー公爵家の俺にたてついた事を後悔しろ!」


 イバルはライバに励まされ、兵器の銃口をリューに向けた。


 周囲を囲むギャラリーからは流石にこれは危険なのではと思ったのだろう悲鳴が上がり、リューの周囲の者は特に慌てて逃げ惑う。


 そのギャラリーの反応にやっと自分がこの男爵の三男に見たかったものを見て、それが自信に繋がり、イバルは「火炎槍!」と叫ぶとリューに向けて引き金を引いた。


 銃口の先に赤い塊が生まれ、それが勢いよくリューに向かって槍の形状で飛んでいく。


「水流槍!」


 リューは落ち着いて迎え撃った。


 何が飛び出すのかわかっているのだ、相殺させる為に同程度の威力である反属性の水の中位魔法を、余裕をもってぶつけた。


 二つの魔法は派手に衝突すると水蒸気を上げて一面を真っ白にする。


 周囲からは悲鳴がまた起きてギャラリーは混乱し、蜘蛛の子を散らす様に慌ててその場から逃げ出した。


「くっ!やったか?やったのか!?」


 イバルはリューが反撃した事を見ていなかったのか、状況が飲み込めずに隣のライバに確認する。


「失敗です!次を装填して下さいイバル様!」


 ライバはイバルをせっついて次弾を装填する様促した。


「失敗だと!?わ、わかった!次は、どれを装填すればいい!?」



「ひと際大きいその魔石を!それならあいつの姿がここから見えなくても、周囲ごと吹き飛ばせます!」


「だがそれだとこっちも危なくないか!?」


 イバルは自分が怪我をしないかと身を案じた。


「ええい!僕がやるから貸せ!」


 ライバはイバルの決断の無さにいら立つと、イバルから兵器を取り上げて魔石を装填した。


 一面蒸気で真っ白だった視界は薄れ、リューの姿が見えた。

 ライバとリューの視線が合った。

 リューの冷静な表情にライバは憎たらしさを覚え、中位の範囲魔法を唱えて躊躇なく引き金を引いた。


「ランドマーク死ね!火炎領域!」


 その瞬間、リューは土の魔法「大岩障壁」を唱え、四方に壁を作った。


 ギャラリーが巻き込まれると思ったからだ。


 そこに、いつの間にかリューの側に歩み寄っていたリーンが、風の魔法「大旋風」を唱え、ライバが放った「火炎領域」をその四方の壁に覆われた内側で迎え撃った。


 ライバが放った炎の魔法は、その「大旋風」に巻きあげられ、火の竜が渦を巻いて天に昇って行く様な光景が展開された。


 ギャラリーはその光景に呆然とする。


 突然現れた岩の壁の中で何が起きたのかわからないが、とんでもない魔法が使用された事はギャラリーにもわかった。


「イバル君、これ以上は死人が出ますがまだやりますか?」


 リューがイバルに問いかけた。


「……お、俺はそんな事は望まない……」


 目の前で起きた凄まじい魔法の応戦にイバルは呆然としたまま、どうにか答えた。


「イバル様!このままでは奴が調子に乗ります!放置したらイバル様の沽券に関わるのですよ!?」


 ライバ・トーリッターは髪を少し燃やして煤けた格好のまま、なお、抵抗しようとイバルを煽った。


「ライバ・トーリッター。イバル君を煽らず、自分でかかってきたらどうだい?イバル君はもう、その気はない様だよ?」


 リューは冷静に、今回の件がイバル当人よりこのライバ・トーリッターが影の主犯である事が何となく見えてきた。


「……くっ!少し魔法が出来ると思って調子に乗るなよ成金貴族が!お前の様な男爵風情の三男が順位で僕の上に立った事自体がおこがましいんだ!」


 ライバはそう言い放つと、剣を抜いてリューに斬りかかってきた。


 さすが受験で五位だっただけの事があり、その剣先は鋭くリューの急所を的確に狙って繰り出されてくる。


 だが、的確であればある程、リューには次に狙ってくる場所が即座にわかり、寸前で躱していく。


 そして、ライバの剣先が繰り出されるタイミングでリューは踏み込みライバ・トーリッターの懐に入ると顔面を殴り飛ばした。


 ライバはカウンターをもろに食らい、その一撃で壁まで吹き飛ぶと、白目をむいて気を失うのであった。

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