第128話 話しかけられましたが何か?

 学園では数日の間、不気味とも思える平穏な日が続いていた。


 リューに直接的、間接的に嫌がらせをする者は現れず、イバル・エラインダーの報復が近いという噂だけが連日生徒間で囁かれていた。


 このせいでランドマークの名は一年生の間で広まり、同じクラスのエリザベス第三王女の耳にも入った様だ。


 というのも、ある日の休憩時間。

 王女殿下がリューの定位置である左隅っこに取り巻きを連れずにやって来た。

 そして、リューの目を真っ直ぐ見ると言ったのだ。


「同じクラスなのに、あなたの事を知らなかったわごめんなさい。あなたの家の『コーヒー』と『チョコ』は私大好きなの。聞けば王家の馬車もあなたのところの品とか。乗り心地が良くて助かってるわ。……今、噂になってる事、何かあったら私に言って下さいね。クラスメイトとして少しは力になれると思うから」


 後半は顔を近づけて小声で言うと取り巻き達がいる自分の席に戻って行った。


「王女殿下良い人じゃない。授業を受ける態度はいつも真面目だし、実技でも真剣に取り組んでるし、受験の時の順位は本当に一番だったのかもね」


 リーンが王女殿下の小声でリューに言った台詞を聞き逃さず評価した。


「え?最後の方、聞き取れなかったけど何を言ったんだ?」


 ランスが、王女殿下が小声で言った事は聞き逃していた。


「……ふー。イバル・エラインダーの報復が来る前に、王女殿下の支持が得られた……」


 リューは、大きく息を吐くとランスにそう漏らした。


 そこへナジンとシズが合流してくる。


「王女殿下には何を言われたのだ?」


 ナジンがシズの代わりにリューに聞く。


 リューはみんなに招き寄せて簡単に話した。


「そうか。一応俺も親父にリューの事を話しておいたんだが、王女殿下がそう言ってくれたならひとまず、報復時に反撃しても理不尽な結果にはならないかもしれないな」


 ランスがほっと一息漏らした。


「うちもシズのところも父には話しておいたが、学園側の反応次第だって言ってたからイバル相手にやり過ぎだけはするなよリュー」


 ナジンはリューの実力を評価しているので釘を刺した。

 シズも傍で無言で大きく頷く。


「……わかった。でも、イバル・エラインダーが公言している僕を懲らしめる為に取り寄せている品というのが気になるんだよね」


 リューは仮にも受験を2位で合格した事になってる公爵の子息の切り札が気になるのだった。


「リューなら大丈夫よ。私もいるし。もし、呪い系アイテムなら浄化出来る人(妹ハンナ)がいるし。それにこの学園にいて思ったけど騒がれる程、実力ある人は少ないみたい。リューもその辺りは気づいてるでしょ」


 リーンがリューを励ましながらしれっと学園のレベルを評した。


「……まぁ、確かにそれは気になってたんだけど。ランドマーク家が凄いのかもしれないと、感じ始めてはいる」


 リューはリーンの言葉に苦笑いすると応じた。


「おいおい。この学園は国内でも優秀な生徒が集まる王立学園だぞ?……まぁ、二人がその中でも抜きん出てるのは薄々俺も感じてたけどな。でも、リューの家族ってそんなに凄いのか?」


 ランスが気になって質問した。


「長男のタウロは首席で地元の学校を卒業しているし、次男ジーロも地元の学校ではトップの成績なのよ?リューの祖父カミーザおじさんはうちの村の恩人だし、領主であるファーザ君は剣を握らせたらとてつもなく強いし、奥さんのセシルちゃんは魔法を扱わせたら天才よ!」


 リーンがリューに代わってランドマーク家の人々を誇った。

 妹ハンナの事は『賢者』スキル持ちの事は伏せた方がよいので敢えて言わなかった。


というか母セシルとの魔法契約でうっかりハンナのスキルが『賢者』である事は口外できない様にはなっていたのだが。


「そうなのか?リューだけが凄いのかと思ったら家族みんな凄そうだな。ははは!」


 ナジンがリーンの話を疑わずに信じると感想を述べて笑った。


「ランドマーク家恐るべし。ははは!」


 ランスもナジンにつられて一緒に笑う。

 その雰囲気にシズも小声でクスクスと一緒に笑うのだった。


「なんだかみんなのおかげで気が楽になったよ。イバル・エラインダーに報復されても跳ね返せる気がしてきた!」


 リューもこの数日間暗鬱な気分だったのでそれを振り払う様に一緒に笑うのであった。

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