第122話 とばっちりですが何か?

 食堂は、特別席の二階からの指名に一瞬静まり返った。


 そして、すぐざわつき始めた。


「……ランドマークって?」


「さあ?」


「もしかして、今、王都の貴族やお金持ちの間で有名になってるランドマークビルと関係あるのかな?」


「私、入学式でお友達の親に連れて行って貰ったよ!」


「へー。でも、ランドマーク商会って聞いた事ないな」


 周囲がランドマークという名を口にし始めたのでリューは嬉しい反面、こんな感じは嫌なんだけど……、と複雑な思いになるのだった。

 そして、ここは名乗り出るべきなのかと一瞬迷った。


「いないのか、ランドマーク!王女殿下の前だぞ!」


 王女殿下の取り巻きの男の子は偉そうに高圧的な物言いでリューを呼んだ。


「お止めなさい!」


 そこへ、またも二階の特別席から声がする。


「誰がその様な事をお願いしましたか?」


 一階を見下ろす、二階の手すりのところに王女殿下が現れた。


「みなさん、お騒がせしてごめんなさい。この子が言った事はお気になさらないで下さい。……あなた、この学校では身分の上下で振る舞わないのが習わしです。まして、私の名を騙って高圧的に振る舞うのは以ての外です。恥を知りなさい」


 取り巻きの男の子は、王女殿下の意外な叱責に驚き、慄くと平謝りした。

 これまで、穏やかでいて反応が薄く他者へあまり関心を持たない人だったのだ。

 その王女の強い反応に自分がかなり悪い事をやってしまった事を悟ったのだった。


 この王女殿下の叱責に食堂はシーンと静まり返った。

 名指しされた自分はどうすればいいのかわからず、リューも息を飲む。


「お騒がせしたお詫びに今日のみなさんのお食事代は王家がお支払いしますね」


 王女殿下はそう言うと軽く会釈し、奥に引っ込んだ。

 取り巻きの少年も許しを請う為に慌ててその後を追う。


 みな、王女殿下の騒ぎに対する謝罪と大盤振る舞いに、食堂はわっと大騒ぎになった。


「さすが王女殿下だな!」


「それに太っ腹だよ。食堂は安いとはいえこれだけの人数、そこそこするだろう?」


「金額じゃないんだよ、取り巻きが下げた王家の名誉を守ったのさ」


 遠巻きにしか王女殿下を見る事しかできなかった普通クラスの生徒達は、この件で一気に王女殿下の評価を上げる事になった。


「……商会の倅扱いの僕は、どうすればいいのかな?いくら控えめにしてたとはいえ、同じクラスなのに……」


「……どんまい」


 と、ランス。


「すぐに名乗り出ずに良かったと思っておきな。名乗り出た後だったら、もっと恥ずかしい状況になってたと思う」


 と、ナジン。


「……そうだよ。名乗り出た後だったら放置状態でみんなから同情と憐みの視線を送られる事になったと……思う。」


 と、シズ。


「そうね?みんなの言う通りよリュー。被害は最小限に抑えられたと思いましょう!」


 とリーン。


 こうして、変な形でランドマークの名だけは、一年の生徒の間で認知される事になるのだった。



 この騒ぎで面白くなかったのが、もうひとつの特別クラスのイバル・エラインダーであった。


 王女殿下の人気が上がるという事はそのクラスが注目される事になる。

 自分のクラスを差し置いてだ。

 そんな事は、国の重鎮であるエラインダー公爵家の嫡男として見過ごせるわけがない。


 さらに取り巻きのライバ・トーリッターが、先程名が出たランドマークは王女と同じクラスなので示し合わせた上での自作自演ではないかと言ってきたのだ。


 それが本当なら、王女は自分の人気取りの為に一芝居打った事になる。


 汚いやり方にイバル・エラインダーは歯噛みした。


「王家とはいえ、所詮第三王女だからと大目に見ていたが、この様な小細工をする様な者に忠誠を示す事はできない!よし、手始めにさっき名が出た何とかという商人の子?男爵の三男?なんでそんな奴が特別クラスにいる!?…ともかくそのランドマークという王女の人気集めに加担した奴から血祭りに上げてやろうじゃないか!」


 こうしてリューはもう一つの特別クラス、イバル・エラインダーとその子分達の的になる事が決定したのだった。




 王女殿下クラスの教室の左隅っこ。


「……あ。寒気がする……」


 リューは背筋がゾッとして身を竦めた。


「どうしたの?」


 リーンが聞く。


「今、何にか寒気がしたんだよね。風邪かな?」


「それはいけないわ。念の為、治癒魔法をかけておくわね」


 リーンは治癒魔法をリューに唱える。


「ありがとう。変わった感じはないけど多分もう大丈夫」


 お礼を言うリューであったが、嫌な予感はまだ続いているのだった。

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