第109話 左隅っこですが何か?

 通常授業が始まって数日が経った授業前の朝の教室。


「学校の雰囲気にも慣れてみんな落ち着いてきたね」


 リューは定位置である左の奥の隅っこから教室を眺めながら言った。


「そうね。初日はみんな浮かれてて地に足がついてる子なんて、あんまりいない感じだったもの」


 リーンが相槌を打つ。


「二人も結構、浮かれてたと思うぞ?」


 初日から二人と一緒にいる様になったランス・ボジーンが指摘した。


「それは否定しない。ははは」


 リューは頷くと笑った。


「何事も初体験はあるものよ。私もリューもこの学校での経験は初めてだもの。浮かれるのも仕方がないわ」


 リーンがリューに同調する。


「その初体験で浮かれてるところ悪いけど、早くも教室内でグループが出来て俺達、孤立してるんだが……」


 ランスが言うグループとは、王女殿下と有力貴族の子息によるその取り巻きグループ五名。


 そして、それをさらに取り巻く少し下のグループ十五名。


 そこにも入れなかったコミュ障と思われる右奥隅っこにいる孤立した生徒二名と、リューとリーン、ランスの左隅っこ組三人だ。


「え?僕達孤立してるの!?」


 リューが初めてそこで気づいたとばかりに驚いてみせた。


「ちょっとランス。私達は好んでここからみんなを見てるのよ。孤立してるのはあっち」


 リーンが大胆な仮説を提唱した。

 孤立してるのは、他の生徒全員らしい。


 いや、流石にそれは無理があるよリーン。


 リューが内心でリーンにツッコミを入れる。


「そうだ、それじゃあ、あっちの右隅っこ二人と、こっちの左隅っこ三人でグループ作ればいいじゃん!」


 リューが良い思い付きだと提案する。


「いや、それでも孤立したグループである事は変わらないと思うぞ?」


 ランスが笑いながら指摘する。


「でも、先生が今後、班での行動が多くなるからあらかじめ相談して決めといて下さいって、言ってたから丁度いいんじゃない?」


 リーンがリューに賛同する。


「……確かに言ってたな。でも、右隅の二人は、侯爵家の子女と伯爵家の子息だったと思うからなぁ。俺達男爵家の息子の提案にうんと言うかな?」


 ランスが、現実的な事を口にした。


「さすが、特別クラス……。孤立してる子が侯爵家と伯爵家なんてスケールが大きいね……」


 リューが、今更ながら男爵家の三男がこの教室にいる場違いさを痛感させられるのであった。


「一応、この学園では、生徒は親の地位に左右されない平等な扱いを受けるとあるんだから、こっちから話してもいいんじゃない?」


「建前上はな。この特別クラスがある時点でそれ、全否定なんだけどな。わはは!」


 ランスが、笑って学園の矛盾を笑い飛ばした。


「悩んでも仕方がないから、とりあえず、声かけてみるよ」


 リューは、席から立つと右隅っこに座る二人の元に歩いて行った。


 もちろん、リーンも付いて行く。


「ハート強いな、二人とも」


 ランスは笑うとそれに付いて行った。



 リューがリーンとランスを連れて右隅っこの二人の元に来ると、男の子の方がリュー達の接近を警戒して女の子との間に入って立ち塞がってきた。


「……何か用か?」


 この男の子はこの侯爵家の女の子を守ってるのかもしれない、と察したリューはこの男の子に好感を持った。


「僕は、リュー・ランドマーク。こっちは僕の従者で友人のリーンと、友人のランス・ボジーンだよ。よろしく」


 リューは自己紹介すると、二人が名乗るのを待った。


「……俺はマーモルン伯爵家の長男ナジンだ。こっちはラソーエ侯爵家の長女、シズ」


 ナジンは茶色の短髪に茶色い目、歳はランスと同じ十四歳、背丈ではランスの方がやや高いが、それにも負けないくらい気が強そうな男の子だ。


 シズの方は、年齢はリューと同じ12歳で、ショートの黒髪に金の瞳、背丈は小さく小動物の印象だ。

 とても大人しそうで、ナジンの影に隠れてこっちを窺っている。

 どうやら、この子がコミュ障で他に馴染めず、ナジンが一緒にいる様に見えた。


「よろしく、ナジン、シズ。それで用件なんだけど、先生が班を作っておく様にって言ってたでしょ?だから、僕達と班を組まない?」


「……英雄の娘を従者にしてるという事は、ランドマーク家とは、地方の派閥を持つ大貴族か?」


 王都では聞かない家名に、ナジンがシズに代わって疑問を口にする。


「ううん。地方の男爵家だよ。僕はそこの三男。なぜかこのクラスに振り分けられちゃったんだけどね。ははは」


 リューは笑って答えた。


「……男爵家!?」


 ナジンは混乱した。


 従者に英雄の娘がいて、さらには男爵家の中でも例外中の例外であるボジーン男爵家の長男が側にいるので、ランドマーク男爵とやらも、例外中の例外である有名な地方貴族なのかと思い、自分が知る家名や紋章が脳裏を巡っていくが消えていく。


「……失礼ながら俺はランドマーク家という家名を知らない。きっと有名な貴族なんだろう……、無知ですまない」


 ナジンが、きっと凄いであろう貴族の名前を知らない事を謝罪した。


「いやいや、何か誤解してるみたいだけど、僕は地方の新興貴族で知らなくて当然だから!」


 突然の謝罪展開にリューは慌てて弁解するのであった。

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