第102話 前日の騒動ですが何か?
ランドマークビルのオープンは、リューとリーンの王立学園の入学式前には出来そうだった。
『乗用馬車一号』は王家が使用している事で宣伝になり、めざとい上級貴族の間ではすでに注目され始めていた。
『コーヒー』と、『チョコ』も同様で、口にした王家の人間が絶賛した事が、貴族の子女が多い噂好きのメイドから各方面に広まり、その出処が全てランドマークなる地方の男爵家からもたらされたものである事がわかると入手が出来ないのか各貴族の御用達商人に打診された。
ランドマーク領が、遠く離れた辺境の地である事はどの御用達商人もすぐわかったのだが、王家御用達商人は、商品を最近入手したらしい事から、王都の商業ギルド本部に商人達が情報を買おうと殺到した。
「ランドマーク印の商品を近場で入手する路があるのではないか?あるなら情報を売ってくれ!」
「ランドマーク家と取引ある商人が王都に来ているなら、こっちに情報を!」
「そもそも、ランドマーク男爵とやらの情報がないから何でもいい、情報があるなら売ってくれ!」
商人達はまさかランドマーク家が片道三週間も離れた王都に直接進出して来ているとは夢にも思わず、的外れな情報を買おうとしていた。
商人の中の1人が、
「うちの息子が今年、王立学園を受験して不合格だったんだが……、合格発表で合格者の名前にランドマークという名前を見たとか……」
と、ぼそっとつぶやくと必死に情報を買おうとしていた面々は固まった。
「……それは、ランドマーク男爵が今、王都に直接来てるという事か?」
商人の一人が、つぶやいた商人に聞き返した。
「いや、それはわからないが……。子供の受験に付いてきた可能性はあると思う……」
そう、商人が答えると、商人ギルド内はまた、ざわつき始めた。
「という事は、商品を抱えてランドマーク男爵が今、王都に来ている可能性があるという事か……!」
「それを王家御用達商人が先んじて購入したのだな。これは残りも買い占められた可能性があるな……」
「いや、そもそも受験が終わったのなら、もう、帰っているんじゃないか?」
「……くそー。もっと早く情報を掴んでいれば!」
商人達は商業ギルドのロビーで悔しがっていたが、このギルドから見える一つ通りに入ったいわくがある土地に、最近急に出来た高い建物がランドマーク家の所有物だという事に気づいているのは、ここにいないごく一部の商人だけであった。
そこへ1人の商人がギルドに入ってくると、この沈み込む雰囲気のロビーを不可解に思いながら通り過ぎると受付に行く。
そして、何やら情報を買っている。
暗くため息が漏れる雰囲気の中、情報を買っていた商人が買った情報が書かれた書類を見てひとり、ぼそっとつぶやいた。
「ランドマーク?初めて聞く商会の名だな……」
その声が沈む商人達の耳に入った。
「そ、そこの人!今、なんて言った!?」
また、ロビーはざわつき始めた。
「え?いや、これはうちが買った情報だから教えないよ?」
「待て待て、いくらで買ったんだ?うちがその値段の倍出す!」
「いや、うちは三倍出すぞ!」
「ずるいぞ!うちは3.2倍出す!」
「大事な情報を刻むなよケチ臭い!」
ロビー内は慌ただしくなってきた。
「えー?……じゃあ、三倍出した人全員に教えるよ」
状況がわからない商人は、取り敢えず、お金になる情報を自分が掴んだらしい事を悟り、交渉に出た。
「くっ。……仕方ない俺は払う」
「じゃあ、俺も」
「私も払う……」
こうしてその場にいた商人達は、お金を支払う事になった。
状況がわからない商人はホクホク顔で、
「ここから見える最近できた高い建物があるだろう?あそこにどこの商会が進出して来たのか気になって情報を買ったら、ランドマークっていう聞かない名のところが──」
最後まで言う前に商人達はギルドの出入り口に殺到した。
商人達は、出入り口から、ぎゅうぎゅうに押し合いながら、
「そういや、高い建物が出来たと思ってたんだよ俺も……。あれが?」
「あそこはいわくつきの土地がある辺りじゃ……?」
「今のが本当なら、男爵であんなデカい建物建てたのか?」
「これは大金が動く臭いがする。行って取引を持ち掛けないと!」
と、殺到した商人達は外に一斉に出ようとして出入り口で詰まってしまうのだった。
ランドマークビルにはこの後、すぐに商人達が殺到する事になるのだが、対応にあたったのが子供のリューだったので商人達は困惑した。
「えっと、うちはランドマーク男爵領の直営店として明日オープンしますので、その時お越し下さい。購入はその時お願いします」
リューにお客の一人として扱われる商人達であったが、目の前の少年が交渉が出来る相手とは思っていなかったので、毒気を抜かれ、みな明日改めて訪れる事を抜け駆けしない様に約束して解散するのであった。
「急になんだったのかしら、あの人達」
リーンが首をかしげてリューに聞く。
「さあ?オープン前日に来るって、熱狂的な人達だね。明日のオープンが楽しみだ!」
二人は笑顔でオープンに向けて最後の準備に戻るのであった。
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