第94話 試験2日目ですが何か?

 午後の途中からは一部、武芸の実技試験が行われる予定だったが、時間が大幅に押した為、王族や上級貴族のみ実技試験が行われあとは翌日に回される事になった。


 その為、他の受験者は翌日行われる予定であった、その他のスキルの実技試験が別会場で行われる事になった。


 リューは1111番なのでリーンと一緒に待機していたが、意外に早く順番が回ってきた。


 他の受験者を見てみると、鑑定スキルや、植物の栽培スキル、鍛冶師スキル、裁縫スキルなど、実技というより、試験官の『鑑定』スキルによる熟練度の確認などが主なようだ。


「では、次、1111番!」


「はい!『次元回廊』と、『マジック収納』を使用します。」


「では、『鑑定』!……何々、『ゴクドー』?スキルに、『器用貧乏』、……駄目だなこれは、お、『鑑定』か……。……って、今、君なんて言った?」


 試験官は『鑑定』スキルでリューのスキルチェックに気を取られ、リューの申告した能力が頭に入ってこなかった。


「『次元回廊』と『マジック収納』です」


「な!……君、落ち着きたまえ。『次元回廊』は、勇者職などでしか確認されていない幻の能力だぞ?その勇者でさえも必ずしも覚えるとは限らないもの。それを君は出来ると言うのかね!?」


 試験官は、念を押して聞くと、また、リューの人物『鑑定』を行う。


 そこで、やはり、確認できるのは、『ゴクドー』?と『器用貧乏』、『鑑定』の三つだ。『器用貧乏』は論外として、『ゴクドー』?これが、凄いのか?聞いた事が無い……。それに『器用貧乏』のマジック収納は、収納率が小さい。それをアピールしてくるレベルだ、『次元回廊』と言っているが、名前だけで別の能力かもしれない、この私は騙せないぞ!


 試験官は、気を取り直すと、


「それではやってみたまえ」


 と、冷ややかに応対した。


「はい!まずはマジック収納からやります」


 リューは元気よく返事すると、先日、回収した築百五十年の三階建ての家を会場に出して見せた。


 突如現れた建物に会場に居合わせた試験官や受験者達はどよめく。


「うわ!?」


 試験官は不意に目の前に巨大な建物が現れたので、度肝を抜かれ後ろに倒れた。


「続きまして……」


 リューは、試験官のリアクションを確認せず、ネタを行う芸人の様に『次元回廊』を使おうとした。


「ま、ま、待ちたまえ!まず、この建物を収納しなさい!」


 試験官は倒れたまま、慌ててリューを止めた。


「あ、すみません!」


 そう言うとリューは、すぐさま、建物をマジック収納に仕舞った。


 試験官は倒れ込んだまま、唖然としていたが、リューが次に行っていいのかチラチラとこちらを見ているのにやっと気が付いた。

 試験官はすぐ立ち上がって倒れた椅子を元に戻して座る。


「で、では、『次元回廊』とやらをやってみたまえ」


 試験官は威厳を取り戻そうと、厳しい声色で言う。


「では、うちの領地に戻って、誰か連れてきます」


 リューはそう言うと、その場から一瞬で消えた。


 試験官はギョッとして周囲を探す。


「ど、ど、どこに行った!?」


 次の瞬間だった。


 リューがメイドの恰好をした女性と、消えた空間から現れた。


「丁度ぼくの部屋を掃除していたメイドがいたので連れてきました」


 メイドは周囲をキョロキョロしながら、


「リュー坊ちゃんここは一体?」


 と、困惑していたが、試験官を見て、偉そうな人と判断したのかお辞儀をした。


「それでは、彼女は仕事中なので元に戻って貰いますね」


 と、リューは言うと、メイドの手を握り、また、パッとその場から消えた。


 この光景に、試験官はただただ愕然とすると思考停止し、その場に固まった。


 リューが次の瞬間戻って来て試験官に何度か声をかけると、試験官はやっと正気に戻るのだった。




 次のリーンは、実技アピールをする事はなかった。


 リーンの『精霊使い』『森の神官』『追跡者』はただでさえ珍しくその上、そのスキルの熟練度が異常に高いのだ。


 前の受験者のインパクトが強すぎて普通に見えそうだったが、このエルフの受験者は歴代の受験者の中でもかなり優秀な部類に入る、と試験官は判断し、アピールの必要性が無いと判断したのだった。



 試験後、リューはリーンが戻ってくるのを待って、手応えがあったか確認した。


「どうだったリーン?」


「よくわからないけど、試験官に絶賛されたわ。私のスキルが優秀だって」


「そうなの!?僕は、何も言われなかったんだけど……」


「あ、それ、見てたわよ。あの建物出したのが印象悪かったのかしら?」


「そうかもしれない……。すぐ収納しろって怒られたし……」


「でも、印象には残ったと思うわよ?あとは明日の、武芸の実技で頑張れば大丈夫よ!」


「……そうだね!一番、頑張ってきた事だし、そこでアピールしよう!」


 そう言うと、二人は、気合いを入れ直すのだった。

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