第84話 長男の…話ですが何か?
長男タウロ、次男ジーロ、三男リュー、長女で末っ子のハンナ、そしてリーン。
五人はランドマークの街を散策していた。
シーマは、祖父のセバスチャンから仕事を学ぶ為に朝から走り回っていていない。
セバスチャンは相変わらず、身内には厳しい。
普段はリュー達には優しいセバスチャンだが、孫のシーマには休みに帰ってくると厳しく指導して執事見習いとして勉強させている。
シーマ本人もランドマーク家の為と励んでいるから、自分達も引き締まる思いだ。
「職人通りは随分人が増えたね」
兄タウロが、通りを眺めながら一人頷く。
「今うちは職人は好待遇だから、他所からも移り住んでくる人が絶えないよね」
ジーロが兄に相槌を打つ。
「あ、タウロお兄ちゃん。それはそうと、もうすぐ学校卒業でしょ、今後は(エリス嬢とは)どうするの?」
リューがタウロにあの事を含ませて質問した。
「それはもちろんここに帰ってくるよ?」
タウロはリューの意図がわからなかったのかキョトンとした。
「そうじゃなくて、タウロお兄ちゃんが交際してるエリス嬢の事だよ!」
「「「ああ!」」」
タウロのみならず、ジーロ、リーンも、わかっていなかったのかエリス嬢の名前を聞いてやっと納得した。
あ、ハンナ、君は察したのね。それはそれでお兄ちゃん、複雑だよ?
リューは察していたらしく頷いていたハンナに違う意味でおませぶりを心配するのだった。
「卒業したら会えなくなるから手紙のやり取りになってしまうでしょ?それだと疎遠になる事もあり得るんだから、今後の事も考えないと」
「そうか、そうだね!ちゃんと考えなくちゃいけないね」
タウロは目から鱗とばかりに納得すると、歩きながら考え込んだ。
「やっぱり、ベイブリッジ家に伺って、伯爵にエリスとの婚約の申し出をしないと駄目だよね?」
タウロは、考えた末にその答えに辿り着いた。
「その前に、そのエリスって子本人に婚約の申し出をしないと駄目でしょ!」
リーンが、二人の会話に割って入った。
ハンナもリーンの言葉に強く頷いている。
「あ、そうか。エリスが先か!」
タウロお兄ちゃん、大丈夫か…!
リューは心配になるのだが、それだけエリス嬢との仲がうまくいっていて失念していたのかもしれないと思えなくもなかった。
「じゃあ、学校に戻ったら、エリスに婚約の申し出をするよ」
タウロが簡単にそう答えた。
雰囲気作りはちゃんとできるのだろうか?
リューは心配になった。
もちろん二人の事だ、二人の間があるだろう。
だがしかし、一生に一度かもしれない出来事だ雰囲気作りは大事だと思う。
もちろん、自分は前世では未婚だったから想像でしか言えないけど!
どう言おうか迷っていると、
「タウロ。エリスって子には特別な瞬間なんだから雰囲気作りはちゃんとしなさいよ?綺麗な景色の見える場所とか、おしゃれなお店とか一生思い出に残る様な」
と、リーンがそれっぽい事を言ってくれた。
リーンからそんな言葉が出てくる事にリューは驚きだったが、確かに前世のTVでそんな事言ってた気がすると、リューも頷いた。
「となると、当日はジーロお兄ちゃん、シーマが空気読まずに邪魔しない様に注意しないとだよ」
「そっか、言われてみれば、タウロお兄ちゃんとエリス嬢がいるところにはシーマが必ずいる気がする」
ジーロが、思い出しながら言った。
「必ずなの!?」
リューは驚いてタウロに確認する様に視線を向ける。
「そうだね、授業以外ではいつも僕に付いてる感じかな」
タウロがこれまでの学校生活を思い出しながら言った。
「執事見習いの鑑だけど……。当日はシーマには席を外す様に注意しておかないと……。ジーロお兄ちゃん頼んだよ」
リューがジーロに念を押した。
「……わかった。重大任務だね」
「シーマに直接言えばいいじゃない?」
リーンが、当り前の事を言ったが、
「言っておいても、そういう事には融通が利かなそうなのがシーマなんだよ」
とリューがリーンに教えて上げた。
タウロとジーロは自分の事は棚に上げ、
「「確かにそうかもしれない」」
と、納得するのであった。
年明け、タウロは学校に戻ると卒業式前日にエリス嬢に婚約の申し出をしてOKを貰い、卒業後にベイブリッジ伯爵家に直接伺うと承諾を得て、晴れて婚約者になるのだが、それは少し先のお話である。
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