第83話 今後の事ですが何か?
ランドマーク家の最大の収入源である、コヒン豆、カカオン豆の収穫は無事終わり、『コーヒー』と、『チョコ』の加工所が忙しくなってきた。
そして、年中、『乗用馬車一号』や『リヤカー』、『手押し車』などの生産も忙しく続いている。
あと、領内で生産して、主食になっていたパスタやうどんやお好み焼きもどきだが、じわじわと他の領地にも噂が広がり、近いところではスゴエラ侯爵の領都に大規模な製麺所を作ってその人気に火が付いた。
数年かかったが、ランドマーク領で食べられてる味、という売り言葉を使うようになってから注目を集めて展開したら驚くほど簡単に売れ始めたのだ。
それほど、ランドマークの名が南東部で浸透し、信用を得て、流行になりつつあるのだと改めてリューは手応えを感じた。
こうなるとリューは次の手を考え始めていた。
それは全国展開である。
ランドマーク領は国内では南東部の端にあり、文字通り辺境からの発信の為、遠く王都から商人が仕入れにやって来るという不便さがある。
これまで、生産拠点はこのランドマーク領とスゴエラ侯爵領、ベイブリッジ伯爵領に集中している。
なので、受験の為に王都に行くのはチャンスだ。
もし、受験に落ちても王都に拠点を作れれば、本望だ!と、もし、転んでもただでは起きないつもりでいるリューであった。
そうなるとファーザに相談しないといけない。
リューは早速、執務室に行くと、書類に目を通していた父ファーザに提案した。
「王都に拠点を置く?」
ファーザはリューの提案に驚いて書類から目を上げた。
「はい!物理的に遠すぎるから、これまで商人を通してのみの取引だけど、今後の事を考えると『乗用馬車1号』や、『リヤカー』などの製造拠点や、製麺所の拠点は、あちらにも置く事で全国展開が容易になると思うんだよ」
「そうだが……、管理が難しいぞ?」
「そこは、僕の『次元回廊』があるから大丈夫だよ!それに王都から来る商人もここは遠すぎると愚痴こぼされてたじゃない」
「それはな……」
ファーザは苦笑した。
「王都にも少しずつだけど『コーヒー』や『チョコ』でランドマークの名は広がりつつあるらしいし、ここは勝負どころだよ、お父さん」
ファーザは悩んでいたが、
「よし、今年の予算の話し合いでの議題はそれにするか。みんなと話し合って答えを出そう」
と、慎重に答えを避けた。
「──という事で、王都にも拠点を置くというリューの提案なんだが……」
ファーザは祖父カミーザ、執事のセバスチャン、隊長のスーゴ、休みで帰ってきたタウロとジーロにシーマ、リーンにリューの提案をどう思うか答えを促した。
「いいんじゃないか?この領地も豊かになり余裕も出てきた。嬉しい事に他所にも名が知れてうちの商品が評価されとる。ここは勝負してもいいじゃろ」
祖父カミーザは賛成だった。
「私もリュー坊ちゃんの提案に賛成です」
と、セバスチャン。
「いいんじゃねぇかな?実際、王都方面からの注文も少しずつ増えてるって話だし。納品に最低でも三週間かかる事考えたら、拠点を作ってすぐに提供できるのは悪い事じゃないと思いますよ?」
隊長のスーゴが何気に良い指摘をした。
「僕も賛成だよお父さん。幸いリューは『次元回廊』を持ってるから、あちらに出入り口を設置すればすぐに行き来できるんでしょ?話し合いもリューを通して密に出来るから問題はさほどないと思うよ?」
長男のタウロも賛成した。
「ボクも賛成。王都で勝負する事は生半可な事じゃないと思うけど、今のランドマーク家の知名度なら勝負してもいいと思うよ」
ジーロもスゴエラ侯爵領でランドマーク家の名が知られていて、それを肌で感じていたから、自信に繋がっている様だった。
「自分も賛成っす!ランドマーク家の名と紋章が王都で有名になるならやるべきだと思うっす!」
シーマもジーロ同様、ランドマーク家の名に誇りを感じていたのだった。
「みんな、賛成じゃない!なら勝負すべきよ!あっちでのリューのお守りは私に任せて頂戴!」
リーンがみんなを代表したつもりになって挙手したが、その言葉に一同は不安になった。
「……王都に行く時はもう一人、誰かつけるか?」
ファーザが提案した。
「なら、俺が行っても良いですよ?領兵も大分育って来てるし、カミーザさんに任せても良いでしょ。どちらにせよ、片道三週間の長旅だし、帰りは誰かが護衛の領兵を率いて帰らないといけないでしょ」
隊長スーゴが、名乗りを上げた。
「そうか、スーゴなら安心だな。では、リュー達が行く時は頼む」
豪快過ぎて不安が生まれそうな人選だが、ファーザの信頼は意外に厚かった。
「おう!任せといて下さい!」
スーゴは胸を叩くと豪快に笑うのだった。
「……最後に、王都で展開するにはひとつ大事な条件がある」
父ファーザが真剣な表情で前置きした。
「「「条件?」」」
みなが、注目する。
「リューとリーンの合格がなければ、意味がないだろう」
「「「あ」」」
ランドマーク家にとって一番大事な事をみな忘れていたのであった。
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