第76話 しっかり担保取りますが何か?

 自分の企みが完全にバレたブナーン子爵は借金を止めるかと思われたが、それは別な様で、執務室にある物以外で宝物庫に隠してあった物を出して担保にしようとした。


 それをリューが淡々と本物かどうかを鑑定し、セバスチャンが価値を付けたのだが、ブナーン子爵の求める額には届かず、結局、執務室にある美術品も担保に入れる事で貸す事にした。


「借りる額に対して美術品の総額が高すぎませんか?」


 ブナーン子爵は不服そうに漏らした。


「そうじゃないと、担保の意味がありませんよね?こちらは慈善事業でお貸しするわけではありませんからご承知おき下さい」


 リューはそう言うと、契約書にサインを求めた。


 ブナーン子爵家には領地経営に対して口を挟まない事にした。

 誠実さが相手に無いので、担保で補うのを前提にしたのだ。

 ブナーン子爵側も、領地経営の内情について話したがらず、口を出されるのは以ての外という反応を示していた。


 多分、ブナーン子爵は利息もまめに払う気がない気がする。


 リューは肌でそれを感じたので親身になる必要性を感じなかった。

 長男タウロの友人の親だが、ドライな関係性で波風を立たせない方がいいだろうとリューは判断するのだった。



 ブナーン子爵は不服そうな表情の反面、躊躇することなくサインした。


 もう少し、ゴネるかと思ったリューだったが、やはり、なにより現金が欲しいという事だろうか。


 リューはセバスチャンから渡された鞄からお金の入った革袋を出す演出をして、ブナーン子爵に渡した。

 本当はマジック収納から出したのだが、直接出すとあと現金がどのくらい用意があるか詮索されると思ったのだ。


 ブナーン子爵はお金を受け取りながらお金が入ってると思われる鞄をチラチラみていたが、渡された革袋の重さを確かめるとすぐにその額を確認し始めた。


 その間、リュー達は待たされるのだが、取引上これは仕方が無い。

 お互い信用が無いので、ちゃんと目の前で確認して貰った方が後々言いがかりをつけられるよりはいい。


「あ、今月分の利息は契約書の通り、差し引かせて貰っています」


 この辺りはリューは前世の手法をマネてしておいた。

 こちらでは金融に関する細かい法律がザルなので、両者間で納得した上で契約を交わさられるとそれが一番の証拠になる。

 もちろん王国が定める法に反する場合があると別だが、正当な手続きで結ばれていればサインした時点で両者間の問題だ。

 最初の月の利息分を差し引く事は契約書にも書いてあるので、この場合こっちの世界ではセーフだ。


 それを聞いたブナーン子爵は、驚くと契約書を見直したが、書いてあるので渋々納得するのであった。



 リューとブナーン子爵は握手を交わす事なく契約が成立すると、リュー一行は用意された宿屋に泊まる事にした。


 今回も契約成立の報告と担保の品をランドマーク家の宝物庫に納める為に、部屋に入ると『次元回廊』を使って一度戻った。


「お?今回は早かったなリュー」


 執務室に入ってきたリューに今回は驚かずにファーザが報告を聞いた。


「……そんな人物だったか。あまり関わりたくないが、息子はよく出来た人物の様だから、今回は大目にみよう」


「うん。僕もそう思うよ」


「じゃあ、今日はそっちで一泊して帰ってくるだけか」


「そうなんだけど、明日、パーティーを開くからもう一日いて欲しいと言われてるから困ってるんだよ、どうしようかお父さん」


「パーティー?今日じゃなく明日か?まあ、断る理由も無いから一日楽しんできなさい」


「わかりました、じゃあ、明後日以降に帰路につくよ」


 リューはそう言うと出入り口を設置している自室に戻ると『次元回廊』で宿屋まで戻るのだった。


「あ、戻ったのねリュー」


 部屋にはリーンがやって来ていた。


「どうしたの?」


「さっきブナーン子爵の使者が来て、明日のパーティーは中止になったそうよ」


「え?そうなの?」


「意味がわからないわよね。思い付きでパーティーを開くと言ったと思ったら、今度は中止って」


「そうだね……。まあ、あちらはお金を借りられた以上、引き留める理由は元々無いはずだから、パーティーをしようと帰り際に言った時は驚いたけど、意味が無い事に気づいたのかもね」


 最後までブナーン子爵に振り回されたリュー一行だったが、翌日帰る事になったのだった。

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